
工程表は建築現場における工事のスケジュール管理や進捗把握に欠かせないツールです。縦軸と横軸に異なる要素を配置することで、作業内容や期間、進捗率などを視覚的に表現できます。工程表を適切に活用することで、工事関係者全員が工程の全体像を共有でき、スムーズな現場運営が可能になります。建築業従事者にとって、工程表の種類とその特性を理解することは、効率的な施工管理を実現するための重要なスキルといえます。
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バーチャート工程表は、縦軸に作業内容、横軸に工事日程を記入した最も基本的な工程表です。横棒(バー)で作業の開始時期と終了時期を示すため、「棒工程表」とも呼ばれます。構造がシンプルで作成しやすく、建設に知識のない施主様でも簡単に内容を理解できることが最大の特徴です。紙とペンまたはExcelなどの表計算ソフトがあれば短時間で作成でき、部分的な修正も行いやすいというメリットがあります。
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バーチャート工程表は工事全体の進捗状況や施工の順序を一目で把握したい場合に最適です。各作業の期間を視覚的に確認できるため、工事完了日の意識を関係者全員で共有しやすくなります。ただし、工事全体における作業の相互関係が分かりにくいという欠点があります。そのため、部分的な修正があった場合に全体の工程に及ぼす影響を把握しにくく、中規模以上の複雑なプロジェクトには向いていません。
参考)バーチャート工程表とは?作成方法やメリット・デメリットを解説
小規模な工事や、工程がシンプルな現場では、バーチャート工程表が最も効率的な選択肢となります。作成の手軽さと分かりやすさから、建築業界で最も広く使用されている工程表の一つです。
参考)https://www.freee.co.jp/kb/kb-hanbai-kanri/bar-chart/
ガントチャート工程表は、縦軸に作業内容、横軸に達成率(進捗率)を記入した工程表です。バーチャートと見た目は似ていますが、横軸が時間ではなく進捗率になっている点が大きな違いです。同時進行している複数の作業において「今どこまで進んでいるか」を直感的に把握しやすいことが特徴です。
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ガントチャート工程表の最大のメリットは、各作業の進捗状況を一目で確認できる点にあります。関係性のある作業を同時進行で進める場合の進捗管理に適しており、どの作業にリソースを割り振るべきかを判断しやすくなります。複数のタスクを並行して管理する必要がある現場では、ガントチャートが真価を発揮します。
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ただし、各作業に取り掛かる日時や完了日は記載されていないため、別途スケジュール管理表が必要になるという欠点があります。また、バーチャートと比べて作業ごとの関連性を把握しづらい点もデメリットです。工程の進捗率を重視する現場や、複数の作業班が同時に動く大規模現場での活用が推奨されます。
グラフ式工程表は、縦軸に進捗率、横軸に日数を配置した工程表です。バーチャートとガントチャートの利点を組み合わせた形式といえます。各作業の関連性と進捗率の両方を把握しやすいという特徴があり、作業量や進捗を曲線や線で表現することで全体の流れやタイムラインを把握できます。
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一方、出来高累計曲線(工程管理曲線)は、工事全体の進捗状況を把握するために用いられる工程表です。縦軸に出来高の累積割合、横軸に日数を配置し、S字型またはバナナ型の曲線を描くことから「S字カーブ」や「バナナ曲線」とも呼ばれます。工事着工時の進捗率は低く、竣工に近づくにつれ進捗率が高くなる特性を視覚化できます。
参考)作業工程表の種類と作り方|工務店向け入門ガイド
グラフ式工程表は各作業の時系列的な進捗を詳細に追えるのに対し、出来高累計曲線は工事全体の達成度を俯瞰的に把握するのに適しています。ただし、両者ともバーチャートやガントチャートと比べると、一目で内容を把握しづらいという側面があります。大規模な建築工事現場では、これらの工程表を併用することで、詳細な進捗管理と全体的な出来高管理の両立が可能になります。
ネットワーク工程表は、作業間の関係性や依存関係を矢印や円で結んで表現する工程表です。PERT(Program Evaluation and Review Technique)やCPM(Critical Path Method)といった手法を用いて、プロジェクトの計画や管理を行います。作業を矢線で示すアロー型ネットワークと、円印をもって作業を示すサークル型ネットワークの二つのタイプがあります。
参考)建設業の工程表とは?種類や作成手順からツールまでわかりやすく…
ネットワーク工程表の最大の利点は、クリティカルパス(最長経路)を特定できることです。クリティカルパスとは、プロジェクト完了に必要な最も時間がかかる経路のことで、この経路上の作業が遅延すると、プロジェクト全体の完了が遅れることになります。PERT図を作成することで、タスク間の依存関係や時間的な制約を明確にし、ボトルネックとなる経路を見つけることが可能です。
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複雑な作業工程が多数存在し、作業間の関連性を正確に管理する必要がある大規模プロジェクトでは、ネットワーク工程表が不可欠です。各作業の最早開始時刻や最遅完了時刻を計算することで、余裕時間(フロート)も把握でき、リソースの最適配分が可能になります。ただし、作成には専門知識が必要で、他の工程表と比べて理解が難しいという欠点があります。
工程表の選択は、工事の規模や複雑さ、管理の目的によって使い分けることが重要です。小規模な現場や単純な工程の場合は、作成が容易で誰にでも理解しやすいバーチャート工程表が最適です。住宅の新築工事やリフォーム工事など、比較的シンプルな工程で構成される現場では、バーチャートで十分な管理が可能です。
参考)バーチャート工程表とは?メリット・デメリットや作成手順につい…
中規模の現場で複数の作業が同時進行する場合は、ガントチャート工程表やグラフ式工程表を活用することで、進捗率の把握が容易になります。マンションやオフィスビルなどの建築工事では、各階の進捗状況を比較しながら管理するためにガントチャートが有効です。また、全体の出来高を重視する現場では、出来高累計曲線を併用することで、予定と実績の差異を早期に発見できます。
大規模で複雑な工程が絡み合う現場では、ネットワーク工程表を使用してクリティカルパスを明確にすることが推奨されます。高層ビルや大型商業施設の建設など、多数の専門業者が関わる現場では、作業間の依存関係を正確に把握することが工期短縮につながります。実際の現場では、複数の種類の工程表を組み合わせて使用することで、目的に応じた効果的な工程管理を実現できます。
参考)建築工事の工程表の種類と違い!テンプレート、書き方のポイント…
建築業界では、Excel等の表計算ソフトで作成できる無料テンプレートから、専用の工程管理ソフトまで、様々なツールが利用可能です。自社の現場特性や管理体制に合わせて、最適な工程表とツールを選定することが、効率的な施工管理の第一歩となります。
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アンドパッドによる工程表5種類の詳細解説
工程表の種類ごとの特徴やメリット・デメリットが分かりやすく整理されており、実務での活用方法を学べます。
建設業向け工程表の作成手順とツール紹介
工程表の作成手順から管理ツールの選び方まで、実践的な情報が網羅されています。
PERT図の作成方法とクリティカルパス分析
ネットワーク工程表の代表的な手法であるPERT図の詳しい作成方法と活用事例が紹介されています。