
ISM(International Safety Management)コードは、船舶の安全航行及び汚染防止のための国際管理コードとして、SOLAS条約IX章に取り入れられた重要な規定です。この規定は、海難事故防止のため人的要因の重要性が国際的に認識されたことにより制定されました。
安全管理システム(SMS)の構築においては、以下の要素が不可欠です。
安全管理システムは、会社が最も効果的と判断する様式で文書化する必要があり、各船舶は自船に関する全文書を船内に備えなければなりません。この文書化の考え方は、建設現場においても安全管理手順を明確にする上で参考になる要素が多く含まれています。
ISM規定では、適合証書と安全管理証書という2つの重要な証書の取得が義務付けられています。適合証書は、ISMコードの要件に適合している会社に対して発行される文書で、5年を超えない有効期間で発行されます。
適合証書取得のプロセス。
一方、安全管理証書は船舶に対して発行される証書で、会社並びに船舶の管理が承認された安全管理システムに従って行われていることを検証した上で発行されます。この証書の有効性は、少なくとも1回の中間検証を受けることが条件となっており、継続的な安全管理の実施が求められています。
ClassNKなどの認定機関が、旗国政府の代行として審査を実施し、証書を発行すると共に安全管理システム登録を行っています。
船舶の安全管理における適合証書と安全管理証書の詳細情報
https://www.classnk.or.jp/hp/ja/activities/statutory/ism/index.html
ISM規定における内部安全監査は、安全管理システムの有効性を維持する上で極めて重要な要素です。会社は、安全及び汚染防止活動が安全管理システムに従っているかどうかを検証するため、12ヶ月を超えない間隔で内部安全監査を実施しなければなりません。
内部安全監査の実施手順。
監査及び是正措置は、文書化した手順に従って実施し、監査及び見直しの結果について関係する部署のすべての責任者に対して注意喚起を行います。このような体系的な監査システムは、継続的な安全管理の改善を実現する上で不可欠です。
特別な場合には、監査間隔を3ヶ月を超えない範囲で延期することも可能ですが、原則として定期的な実施が求められています。
ISM規定は船舶運航に特化した安全管理システムですが、その基本理念や手法は建築業界の安全管理にも応用可能な要素を含んでいます。特に、体系的な安全管理アプローチは建設現場での事故防止に有効です。
建築業への応用可能な要素。
実際に、運輸安全マネジメント制度では、ISMコードとの関連性が議論されており、既存のISM取得事業者に対する制度適用についても検討されています。これは、安全管理の基本的な考え方が業界を超えて共通していることを示しています。
建築現場における安全管理では、以下のようなISM的アプローチが効果的です。
🏗️ 現場責任者の明確化 - 各工程における安全責任者の配置
📊 安全パフォーマンス指標 - 事故率、ヒヤリハット件数等の定量的管理
🔧 標準作業手順 - 危険作業における詳細な手順書作成
👥 安全文化の醸成 - 全従業員による安全意識の共有
ISM規定では、不適合と重大な不適合を明確に区分し、それぞれに応じた対応を求めています。不適合とは規定されている要求事項が満たされていないことを示す客観的証拠が観察された状況であり、重大な不適合は人または船舶の安全に重大な脅威を生じさせる明確な違反を指します。
典型的な不適合事例。
重大な不適合の例。
これらの不適合事例から得られる教訓は、建築業界においても十分活用できます。特に、文書化された手順の重要性や定期的な教育訓練の必要性は、どの業界においても共通する安全管理の基本です。
PSC(ポートステートコントロール)での指摘事例を参考にすることで、実際の現場で発生しやすい安全管理上の問題点を事前に把握し、予防的な対策を講じることが可能になります。
効果的な改善策。
安全管理における不適合管理は、単なる問題解決にとどまらず、組織全体の安全文化向上につながる重要な取り組みです。ISM規定で確立された体系的なアプローチを参考にすることで、建築業界においても より効果的な安全管理システムの構築が可能になります。