アジピン酸ジイソノニルsdsの危険性と用途や保管と消防法

アジピン酸ジイソノニルsdsの危険性と用途や保管と消防法

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アジピン酸ジイソノニルSDSのポイント
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危険有害性の確認

GHS分類では比較的安全ですが、火災時の有害ガス発生に注意が必要です。

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消防法の取り扱い

第4類第4石油類に該当し、指定数量は6,000Lです。保管には厳格な基準があります。

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建築用途でのメリット

優れた耐寒性により、冬場のシートやケーブルの硬化を防ぐ重要な役割を持ちます。

アジピン酸ジイソノニルsds

アジピン酸ジイソノニルsdsの成分と物理化学的性質

建築資材や工業製品の現場で「DINA」という略称を耳にしたことはあるでしょうか。これは「アジピン酸ジイソノニル(Diisononyl Adipate)」のことを指し、多くの塩化ビニル製品(PVC)に柔軟性を与えるために添加される「可塑剤」の一種です。SDS(安全データシート)を読み解く上で、まず最も基本的な物質の特定情報と物理的な性質を理解しておく必要があります。現場で扱う化学物質が、常温でどのような状態にあり、何度で引火するのかを知ることは、事故防止の第一歩です。
アジピン酸ジイソノニルは、アジピン酸とイソノニルアルコール(炭素数9のアルコール)から合成されるエステル化合物です。外見は無色透明の液体で、わずかなエステル臭(特有のにおい)がありますが、ほとんど無臭に近いものも流通しています。水にはほとんど溶けませんが、有機溶剤にはよく溶ける性質を持っています。
以下に、SDSに記載されるべき主要な物理化学的性質をまとめます。特に引火点は消防法上の分類に関わる重要な数値ですので、必ず確認してください。

項目 特性値・情報 備考
一般的名称 アジピン酸ジイソノニル (DINA) 英語名: Diisononyl Adipate
CAS番号 33703-08-1 化学物質を特定する世界共通番号
化審法官報整理番号 (2)-861 日本国内の化学物質管理番号
外観 無色透明液体 粘性のある油状の液体です
融点・凝固点 約 -50℃以下 非常に低い温度でも凍結しません
沸点 250℃以上 常圧下では非常に高沸点です
引火点 220℃ ~ 240℃程度 クリーブランド開放式での測定値例
発火点 330℃以上 自然発火の危険性は低いです
比重 約 0.92 (20℃) 水(1.0)より軽く、水に浮きます
水溶性 不溶 水には混ざりません


この表から読み取れる現場で役立つ情報は、「水より軽く、水に溶けない」という点です。もし現場で漏洩事故が起きた際、水で洗い流そうとすると、水面に油膜となって広がり、排水溝を通じて環境中に拡散してしまうリスクがあります。したがって、漏洩時は土嚢や吸着マットで対応する必要があることが、この物性データから判断できます。また、沸点が高く揮発しにくい(蒸発しにくい)ため、作業環境中の濃度が高くなりにくいという特徴もありますが、加熱される工程や火災時には蒸気が発生するため注意が必要です。
NITE-CHRIP 化学物質総合情報提供システム(独立行政法人製品評価技術基盤機構)
参考リンクの概要:CAS番号や物質名から、日本の法規制(化審法、消防法など)の該当状況を正確に検索できる政府系データベースです。

アジピン酸ジイソノニルsdsの危険性と有害性の区分

SDSの核心部分である「危険有害性」について深掘りします。多くの現場監督や作業員が「危険物第4類だから燃える」という認識は持っていますが、人体への毒性については「よくわからない」というケースが少なくありません。
結論から言うと、アジピン酸ジイソノニルは、GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の分類において、多くの項目で「区分外」または「分類できない」とされており、比較的毒性の低い物質として扱われています。しかし、「毒性が低い」=「完全に無害」ではないことを理解しておく必要があります。
1. 急性毒性と皮膚刺激性
動物実験(ラットやマウス)における経口毒性(飲み込んだ場合の毒性)のデータでは、LD50値(半数致死量)が5,000mg/kg以上、あるいは10,000mg/kg以上という報告が多く、これは食塩などと比較しても極めて低い毒性であることを示しています。また、皮膚刺激性についても軽微であるとされていますが、長時間皮膚に付着したままにしておくと、人によっては皮膚の脱脂作用により肌荒れやかぶれ(接触性皮膚炎)を起こす可能性があります。
2. GHS分類の注意点
一般的な純度の高いDINAのSDSでは、以下のような記述が見られます。


  • 引火性液体: 区分外(引火点が非常に高いため、GHS上の引火性液体区分には該当しないことが多いですが、消防法では危険物です)

  • 急性毒性: 区分外

  • 発がん性: データなし、または区分外

しかし、製品によっては添加剤が含まれていたり、製造プロセス由来の不純物により、**「眼刺激性」「水生環境有害性」**が指摘される場合があります。特に、燃焼時や高温加熱時には、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)に加え、刺激性のガスが発生する可能性があるとSDSに記載されています。
3. 現場でのリアリティ
「区分外だから安全だ」と油断して、手袋なしで素手でジャブジャブと扱うのは間違いです。可塑剤は脂溶性(油に溶ける性質)が高いため、皮膚の皮脂バリアになじみやすく、微量ながら体内に吸収されるリスクはゼロではありません。特に建設現場では、粉塵や他の溶剤と混ざった状態で付着することが多いため、複合的な肌トラブルの原因になります。SDSの「応急処置」の項目には、通常「皮膚に付着した場合は、多量の水と石鹸で洗うこと」と記載されています。これは、低毒性であっても洗い流すことが基本ルールだからです。
職場のあんぜんサイト(厚生労働省)
参考リンクの概要:厚生労働省が運営するサイトで、モデルSDSやGHS分類結果を確認できます。リスクアセスメント実施時の信頼できる情報源です。

アジピン酸ジイソノニルsdsの法規制と消防法の分類

建設現場や資材倉庫の管理者が最も気にしなければならないのが、法的規制、特に「消防法」です。アジピン酸ジイソノニルを保管・貯蔵する場合、その数量によって法的な義務が大きく変わります。違法な貯蔵は、火災時の保険適用外になるリスクや、消防署からの是正命令の対象となります。
消防法における分類の完全理解
アジピン酸ジイソノニルは、以下の分類に属します。


  • 類別: 第4類(引火性液体)

  • 品名: 第4石油類

  • 性質: 非水溶性(水に溶けない)

  • 指定数量: 6,000リットル

ここで重要なのが「第4石油類」という区分です。これは引火点が200℃以上250℃未満の液体を指します(SDSの実測値によっては、指定可燃物に分類されるケースもありますが、安全サイドに立って第4石油類として管理するのが一般的です)。
指定数量と保管のルール
「指定数量」とは、消防法が規制をかける基準となる量です。DINAの場合、6,000リットルが基準です。


  • 指定数量の1/5未満(1,200L未満):
    消防法自体の厳しい規制は受けませんが、市町村の火災予防条例に従う必要があります。少量危険物としての届出が必要な場合があります。

  • 指定数量の1/5以上 ~ 1倍未満(1,200L ~ 6,000L未満):
    「少量危険物貯蔵取扱所」として、所轄の消防署への届出が必要です。保管場所の壁や床を不燃材料にするなどの構造要件が発生します。消火器の設置も義務付けられます。

  • 指定数量の1倍以上(6,000L以上):
    完全に「危険物施設」としての許可が必要です。危険物取扱者(乙種4類など)の選任が必要となり、空地距離の確保、防油堤の設置など、非常に厳しい基準が適用されます。

現場では、DINA単体だけでなく、他の第4類危険物(灯油、軽油、塗料、シンナーなど)と一緒に保管されていることが多いはずです。この場合、「倍数計算」を行う必要があります。
例えば、DINAを3,000L(0.5倍)、灯油を500L(0.5倍)持っていた場合、合計で1.0倍となり、危険物取扱者の選任が必要なレベルになります。SDSを見て「DINAは6,000Lまで大丈夫」と安心せず、倉庫内の他の危険物との合算を必ず確認してください。
その他の法規制


  • PRTR法(化学物質排出把握管理促進法): 通常、アジピン酸ジイソノニルは第一種指定化学物質には該当しません(最新の改正を確認する必要がありますが、フタル酸系に比べて規制が緩いのが特徴です)。

  • 労働安全衛生法: 名称等を通知すべき有害物(SDS交付義務対象物質)には該当しないケースが多いですが、メーカーによっては自主的にSDSを発行しています。

  • 毒劇法: 該当しません。

総務省消防庁
参考リンクの概要:危険物の分類や指定数量、倍数計算の基本的な考え方について、最新の法令データを確認できる公式サイトです。

アジピン酸ジイソノニルsdsの安全な取扱いと保管方法

SDSの第7項「取扱い及び保管上の注意」および第8項「ばく露防止及び保護措置」に基づき、現場で実践すべき具体的なアクションプランを解説します。
1. 適切な保護具の着用
低毒性とはいえ、化学物質です。以下の保護具着用を徹底してください。


  • 呼吸用保護具: 常温での取り扱いでは通常不要ですが、タンク内作業や加熱工程、スプレー塗布などでミストが発生する場合は、有機ガス用防毒マスクを使用してください。

  • 手の保護: 浸透を防ぐため、耐油性のある手袋(ニトリルゴム製など)を使用します。軍手は液体が染み込み、かえって皮膚への接触時間を長くするため厳禁です。

  • 眼の保護: 液ハネ防止のため、側板付きの保護メガネ、またはゴーグル型を着用します。

2. 保管環境の整備


  • 直射日光を避ける: 紫外線による劣化や、容器内圧の上昇を防ぐため、冷暗所に保管します。

  • 容器の密栓: 吸湿や異物混入を防ぐため、使用後は必ず密栓します。

  • 混触禁止: SDSの「安定性及び反応性」にあるように、強酸化剤(過酸化水素水など)や強酸、強アルカリとは隔離して保管してください。これらと接触すると発熱や反応を起こす可能性があります。

3. 漏洩時の措置(こぼしてしまったら)
建設現場や工場でドラム缶を倒してしまった、配管から漏れた、という場合は以下の手順で対応します。


  1. 着火源の除去: 周囲の火気(溶接作業、タバコ、ストーブ)を直ちに停止する。

  2. 拡散防止: 土嚢や砂で土手を作り、流出範囲を限定する。側溝や河川への流入は絶対阻止してください。

  3. 回収: おがくず、砂、ウエス、専用の吸着マットなどに吸い込ませて回収し、密閉できる空容器(ペール缶など)に入れます。

  4. 洗浄: 界面活性剤(洗剤)を用いて洗い流す場合も、その洗浄水が排水溝に直接流れないように回収する必要があります。

4. 廃棄について
使い終わったDINAの廃液や、拭き取ったウエスは「産業廃棄物」として処理します。特に液状のものは「廃油」扱いとなり、引火性があるため、許可を持った産廃業者に委託し、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を発行して管理しなければなりません。「布に染み込ませたから一般ゴミ」というのは重大なコンプライアンス違反(廃棄物処理法違反)になります。

アジピン酸ジイソノニルsdsと建築現場での耐寒性可塑剤としての役割

ここまでは安全管理の側面を見てきましたが、最後に「なぜ建築現場でアジピン酸ジイソノニル(DINA)が使われているのか」、その技術的な理由を独自視点で深掘りします。これを理解しておくと、資材選びの目が養われます。
なぜDINAなのか?:耐寒性と揮発性のバランス
塩ビ(PVC)製品に使われる可塑剤の代表格は、DOP(フタル酸ジオクチル)やDINP(フタル酸ジイソノニル)です。これらは安価で性能バランスが良いですが、**「寒さ」**に弱いという弱点があります。冬場の建設現場で、ケーブルの被覆がカチカチに硬くなって剥きにくかったり、養生シートがゴワゴワして広がらない、といった経験はないでしょうか。これは可塑剤の分子運動が低温で鈍くなるためです。
アジピン酸ジイソノニル(DINA)は、DOPなどに比べて分子構造が直線的で柔軟性が高いため、低温環境下でも樹脂の分子鎖の間に入り込み、柔軟性を維持する能力(耐寒性)が非常に優れています。


  • 耐寒性: DOP < DINP < DINA < DOZ (さらに高性能だが高価)

建築現場において、DINAが配合された製品は以下のような場所で威力を発揮します。


  1. 寒冷地仕様の防炎シート・養生シート:
    氷点下の現場でもひび割れ(クラック)が起きにくく、展開・撤収作業がスムーズに行えます。SDSを確認し、DINAが配合されているシートであれば、冬場の屋外使用に適していると判断できます。

  2. 冷蔵倉庫内のカーテン:
    食品工場や物流倉庫の冷蔵・冷凍エリアのビニールカーテンには、DINAなどの耐寒性可塑剤が必須です。通常の塩ビだと低温で硬化し、フォークリフトが通過する衝撃で割れてしまいます。

  3. 屋外配線・ケーブル:
    寒暖差の激しい屋外で使用されるケーブル被覆材には、耐寒性と同時に、夏場の熱で可塑剤が飛んでしまわない「耐揮発性」も求められます。DINAは、より低分子のアジピン酸エステル(DOAなど)と比較して分子量が大きいため、**「耐寒性がありながら、熱でも飛びにくい」**という絶妙なバランスを持っています。これが、長期信頼性が求められる建築資材でDINAが重宝される理由です。

可塑剤の移行(ブリードアウト)への理解
SDSにはあまり詳しく書かれていませんが、DINAを含む可塑剤は、時間の経過とともに表面に浮き出てくる「ブリードアウト」という現象を起こすことがあります。特に、耐寒性可塑剤は樹脂との相溶性(混ざりやすさ)がフタル酸系よりわずかに劣る傾向があります。
内装工事で、塩ビ壁紙(クロス)にテープを貼って剥がしたときにベタつきが残る、あるいは別のプラスチック製品と接触させていたら溶着してしまった、というトラブルは、この可塑剤の移行が原因です。DINA配合製品を扱う際は、異種素材(スチロール樹脂やABS樹脂など)との長時間の接触(オーバーレイ)を避ける設計や施工管理が求められます。
SDS上の「物理化学的性質」の数値を単なるデータとして見るのではなく、「沸点が高い=揮発しにくい=長持ちする」「融点が低い=寒さに強い」というふうに、現場の作業性や製品寿命に変換して読み解くスキルこそが、プロの建築従事者に求められる知識です。