
アンカーピンニング部分注入工法は、外壁の浮き面積が比較的小さい場合に使用される補修方法です。この工法の最大の特徴は、浮いている部分にエポキシ樹脂を注入し、アンカーピンで固定することで浮き面積の拡大を阻止し、大面積の剥落を防止する点にあります。
参考)【大規模修繕】タイルの注入穴数
適用基準として、浮き面積が0.25㎡程度未満、浮き代が1.0mm程度未満の狭い範囲の浮きに効果的です。具体的な施工本数は、一般部分でアンカーピン16本/㎡、指定部分(庇の鼻、見上げ面、まぐさ隅角部分等)では25本/㎡、狭幅部には幅中央に200mmピッチで配置されます。
参考)#24 アンカーピンニング工法は樹脂の使い方で呼び名が変わる…
部分注入工法のメリットは暫定的な耐久性を期待できる点と、全面工法に比べてコスト効率が良い点です。しかし、広範囲の浮きには十分な効果が得られないという制約があるため、浮きの状態を正確に診断した上で適用を判断する必要があります。
参考)外壁浮き補修
施工費用の目安として、一般部分では5,490~6,960円/㎡、指定部分では10,800円/㎡程度が相場となっています。この工法は狭い範囲の修繕に特化しているため、建物全体の大規模な浮き修繕には不向きですが、限定的な補修箇所には最適な選択肢となります。
参考)エポキシ樹脂注入工法の単価をご紹介│リビングカラーコーポレー…
アンカーピンニング全面注入工法は、浮き面積が広範囲に及ぶ場合に使用される補修方法で、長期的な耐久性を確保することを目的としています。この工法の特徴は、浮き面全体にエポキシ樹脂を注入し、アンカーピンで全面的に固定することで、エポキシ樹脂が均等に広がり広範囲の浮きをしっかりと固定できる点にあります。
適用基準として、浮き面積が0.25㎡以上の場合や、特に寒冷地での雨水侵入による凍結融解の発生が懸念される場合に適用されます。具体的な施工本数は、一般部分でアンカーピン13本と注入口12個/㎡、指定部分ではアンカーピン20本と注入口20個/㎡が標準となっています。
参考)タイル浮き補修(剥落防止工法) - 株式会社アクト・ファクト…
全面注入工法の最大のメリットは、樹脂が浮き面全体に行き渡ることで、安定した修繕が可能になり、長期的な建物の安全性と美観を保つことができる点です。特に寒冷地や過酷な環境下では、部分注入工法よりも全面注入工法が推奨されます。
参考)https://www.bond.co.jp/bond/common/pdf/pinning_kouho_EkoG02-18.pdf
施工費用の目安として、一般部分では10,100円/㎡、指定部分では16,200円/㎡程度が相場となっています。部分注入工法と比較すると費用は約2倍になりますが、その分耐久性と信頼性が高く、マンションや管理施設において外壁の浮き修繕が住民の安全に直結する場合には最適な選択肢となります。
アンカーピンニング工法の施工は、正確な手順を踏むことで高い効果を発揮します。まず、ハンマー打診により浮き上がり間隙と範囲を確認し、注入孔を決めてスプレーペンキやチョークでマーキングを行います。この事前調査段階では、打診による浮き面積の確認、タイル陶片浮きの確認、図面への転記、内視鏡による仕上面内部の確認などが重要です。
参考)https://www.yabuhara-ind.co.jp/wp-yabuhara/wp-content/uploads/2021/05/sss-bond_seko_all.pdf
次に、アンカーピン挿入部の穿孔を行います。使用するアンカーピンの直径より約2mm大きい直径6mmのコンクリート用ドリルビットを使用し、壁面に対し直角に構造体コンクリート中30mm程度まで穿孔します。穿孔後は、孔内に付着した切粉を金具またはブラシで除去した後、電動ブロアー等で孔内を清掃します。
参考)タイル張り仕上げ|アンカーピンニング エポキシ樹脂注入工法(…
エポキシ樹脂注入の段階では、グラウトガンのノズルを注入孔に挿入し、樹脂が外部に出てくるまで注入します。1孔あたりの注入量は約25mL(約30g程度)が基準とされています。その後、直径4mmの全ネジピン(SUS304)を挿入し、表面をエポキシ樹脂パテで仕上げます。
参考)モルタル塗り仕上げ│アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法(…
施工時の注意点として、アンカーを打ち込むとモルタル面やタイル面が割れたり、剥離部が閉じて樹脂注入ができなくなる問題が報告されています。また、エポキシ樹脂の注入量が多すぎると固定面を押し出す可能性があるため、注入量が非常にデリケートです。施工後は24時間以上大きな衝撃を加えないように養生することが重要です。
参考)建築改修工事監理指針及び建築改修工事標準仕様書の矛盾点につい…
アンカーピンニング工法の費用は、施工方法や条件によって大きく変動します。一般的に1穴あたり200円から500円程度が相場とされていますが、施工面積やピンサイズ、樹脂の種類、ゴンドラの使用有無などの条件により変動します。施工面積が広い場合(例えば300平方メートル以上)では、1穴あたり約200円程度が一般的です。
具体的な㎡単価として、中部地方整備局の営繕工事材料単価では以下のように設定されています。アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法は、一般部(16本/㎡)で6,960円/㎡、指定部分(25本/㎡)で10,800円/㎡です。アンカーピンニング全面エポキシ樹脂注入工法は、一般部(アンカー13本・注入口12個)で10,100円/㎡、指定部分(アンカー20本・注入口20個)で16,200円/㎡が目安となっています。
埼玉県の建築設計材料単価では、部分エポキシ樹脂注入工法の一般部分が5,490円/㎡、モルタル面では5,680円/㎡とされており、地域によっても単価に差があることが分かります。
参考)https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/25901/0604kentikuzairyou.pdf
注入穴数の計算式は「施工面積(㎡)×㎡あたりの注入穴数」となります。例えば、100㎡の施工面積で一般的な基準の穴数25を掛けると、100×25=2,500穴となります。タイル張替工事などと比べて工期の短縮と工事費の節約が可能であり、これがアンカーピンニング工法の大きな経済的メリットとなっています。
アンカーピンニング工法を選定する際には、一般的な基準以外にも考慮すべき独自の視点があります。まず、建物の立地環境による選択が重要です。寒冷地や海沿いなど過酷な環境下にある建物では、雨水の侵入による凍結融解や塩害のリスクが高いため、暫定的な部分注入工法よりも長期的な耐久性を確保できる全面注入工法が推奨されます。
次に、建物の用途と重要度を考慮する必要があります。マンションや商業施設など人が多く集まる建物では、外壁タイルの剥落は重大な事故につながる可能性があるため、住民や利用者の安全を最優先に考え、より信頼性の高い全面注入工法を選択することが望ましいでしょう。
また、将来的な修繕計画との整合性も重要なポイントです。10年後に大規模改修を予定している場合は、コスト効率の良い部分注入工法で対応し、その後の大規模改修で全面的な補修を行うという段階的なアプローチも有効です。一方、長期的に現状維持を目指す場合は、初期費用は高くても全面注入工法を選択することで、トータルコストを抑えられる可能性があります。
さらに、施工業者の技術力と施工実績も見逃せません。注入口付アンカーピンを使用する場合、打ち込み時にタイルの割れやモルタルの割れが発生するリスクがあり、施工強度の確保が難しいケースも報告されています。そのため、経験豊富で信頼できる施工業者を選定し、現場調査を十分に行った上で最適な工法を決定することが、成功する補修工事の鍵となります。
参考)従来工法の問題点|イトケンテクノ株式会社(公式ホームページ)
【大規模修繕】タイルの注入穴数|アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法
アンカーピンニング工法の部分と全面の違い、注入穴数の計算式、施工費用の詳細について解説されています。
ボンドピンニング工法
部分注入工法と全面注入工法の適用基準、施工フローについて詳細な技術資料が掲載されています。
G-2-308 アンカーピンニング工法 - 住宅紛争処理技術関連資料集
アンカーピンニング工法の標準的な施工手順と技術基準について公的機関による解説があります。