
精肉業界における歩留まり率は、仕入れた原材料から実際に商品として利用できる部分の割合を示す重要な指標です。計算式は「歩留まり率(%) = (商品化できた精肉の重量 ÷ 仕入れ時の原材料重量) × 100」で表されます。例えば、10kgの部分肉から7kgの販売可能な精肉が得られた場合、歩留まり率は70%となります。
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牛が精肉になるまでには複数の加工段階があり、各段階で重量が減少します。まず生体から内臓、皮、骨を除去した「枝肉」に加工され、次に枝肉から余分な脂肪の除去や除骨がなされて「部分肉」になります。最終的に部分肉から細かな骨や腱、筋を取り除き、すぐに料理できる状態の「精肉」に加工されます。牛肉の場合、生体から枝肉、部分肉、精肉と加工が進むにつれて重量は減少し、最終的に商品として流通するのは生体重量の約36%程度とされています。
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サーロインのかたまり肉をステーキ用にカットする具体例では、10kgのかたまり肉から200gのステーキが40枚できた場合、可食部は8kg(200g×40)となり、8kg÷10kg=0.8、つまり歩留まり率80%と計算できます。
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歩留まり率の変動は、精肉事業の経営面に多岐にわたる影響を及ぼします。第一に原価率への影響があり、同じ量の商品を得るために必要な原材料量が増加すると原価率が上昇します。第二に廃棄コストの増加で、除去部分の処理費用が増大し収益性が低下します。第三に在庫管理の複雑化により、予測困難な状況が過剰在庫や品切れリスクを上昇させます。
歩留まり率を算出してkg単価を再設定する際には、在庫ラベルや加工指示バーコードを使って原料重量と出来高重量を紐づけることが一般的です。実際には加工賃(人件費や水道光熱費、梱包資材等)まで含めたものが最終的な製造原価になるため、キロあたり加工賃を算出する必要があります。歩留まり原価の計算では、1kgの原材料を1,000円で購入し、歩留まり率が80%の場合、歩留まり原価は1,000円÷0.8(80%)= 1,250円/kgとなります。
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特に近年は原材料価格の上昇傾向が続く中、歩留まり改善による原価低減の重要性がさらに高まっています。安定した歩留まりは商品品質の均一化と顧客信頼の獲得にもつながります。
部位別に見ると、歩留まり率と計算のアプローチに違いが出てきます。ロースやヒレなどの高級部位は、精密なカット技術でロスを抑えることが求められます。一方、肩ロースやバラ肉など形状が一定でない部位では、適切な裁断プランを立てることでロスを抑えられます。
参考)https://losszero.jp/blogs/column/col_049
牛肉の部分肉は「まえ」「ロイン」「ともバラ」「もも」の4つの大分割に分けられ、さらに13の部分肉に細かく分割されます。各部位の特性を理解することで、より正確な歩留まり計算と効果的な原価管理が可能になります。部位別に原価を計算する際には、正確な重量測定が欠かせず、肉の質や等級によって価格が異なるため、それらの差異も適切に計算に反映させる必要があります。
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精度の高い歩留まり管理を行うためには、部位ごと、ロットごとに記録をとり、時系列での変化を追跡することが重要です。季節変動や仕入れ先による差異を把握することで、より効果的な改善策を講じることができます。
精密なカット技術の導入は、歩留まり率向上の重要な方法の一つです。コンピューター制御のカッティングマシンを使用すれば、適切な厚みで一定の形状にカットすることが可能となり、不要なこま切れ肉の発生を抑制できます。X線検査装置の推定質量機能により透過画像からカット位置を算出でき、原料の裏面から内部空洞までフルスキャンすることで最適なカットを実現します。
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どの部位にも共通するのが、ロスした肉を次の工程で再利用することです。ロスが発生した場合も、これらを効率的に回収し、他の製品への再利用を計画することで全体のロスを最小限に抑えることが可能となります。切り落とし肉は通常の肉に比べて安価で入手でき、適切な調理方法で美味しい料理に変身させることができる価値ある食材です。
参考)https://losszero.jp/blogs/column/col_006
牛ハンギングテンダーのような歩留りが悪いとされる部位でも、専門的な仕込み技術を活用することで歩留まりを向上させることができます。厨房での使い勝手が良いカット形状にすることで、食材ロスの削減にもつながります。
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時間管理は食品ロス削減のための重要な要素で、特に冷蔵・冷凍管理が中心となります。肉は生鮮食品であるため時間と共に劣化しやすく、切断から包装、出荷までの時間を最小限に抑えることが求められます。適切な温度で肉を保存し、劣化の進行を遅らせることも同様に重要です。
歩留まり向上には、カット技術、温度管理、人材教育といった総合的なアプローチが欠かせません。現状の歩留まり率を正確に把握し、改善すべき点を特定することからスタートするとよいでしょう。部分肉は真空包装されているケースが多く、鮮度を保つ面から考慮しても優れています。
野菜や果物を扱っている場合も参考になりますが、皮むきやカット方法を見直すことで可食部を増やすことができます。食品工場の歩留まりを劇的に改善するためには、原材料の選定から製造プロセスの最適化、品質管理の徹底まで、多岐にわたる取り組みが必要です。日々の地道な改善活動が、最終的には収益向上と持続可能な経営につながります。
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精肉の歩留まり|仕組み・計算方法・改善策を解説
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牛肉の歩留まりとは?精肉加工時の歩留まり改善法も解説
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