
見付面積とは、風を受ける建物の面積のことで、風圧力に対する必要軸組(耐力壁)の長さを求める基礎となる重要な要素です。建築基準法では、2階建て以上または延床面積50m²以上の木造住宅を設計・建設する場合、地震力と風圧力それぞれに対して必要な軸組の長さ(必要壁量)を算定することが義務付けられています。
見付面積は、建物の立面形状によって決まり、方向ごとに異なる値となります。例えば、X方向(桁行方向)とY方向(梁間方向)では見付面積が異なるため、それぞれの方向で別々に計算する必要があります。
風圧力は建物全体に均等にかかるわけではなく、特に高さによって影響が変わります。そのため、見付面積の正確な計算は、建物の構造安全性を確保するうえで非常に重要です。見付面積が大きくなればなるほど、風圧力に対して必要となる耐力壁の量も増加します。
見付面積を正確に計算するためには、以下の手順に従います。
具体的な計算式は以下の通りです:
見付面積 = 建物の幅 × (階高 - 1.35m)
ただし、階高が2.7mより低い場合は、階高の半分から下を除いた見付面積とした方が安全です。これは、標準的な階高を2.7mと想定し、その半分の1.35mを基準としているためです。
また、屋根の形状(切妻、寄棟など)によっても見付面積は変わるため、正確に計算するには建物の立面図を参照する必要があります。
見付面積を算出したら、次は風圧力に対する必要壁量を計算します。計算式は以下の通りです:
風圧力に対する必要壁量(cm) = 見付面積(m²) × 見付面積に乗ずる係数(cm/m²)
見付面積に乗ずる係数は、建築基準法施行令第46条に基づき、地域によって異なります:
地域 | 係数(cm/m²) |
---|---|
特定行政庁が特に強い風が吹くとして定めた地域 | 51~75(特定行政庁が定めた値) |
その他の地域 | 50 |
この計算で注意すべき点は、必要壁量を算出する方向と見付面積の関係が逆になることです。つまり:
これは風の力が建物に当たったとき、その力を受け止めるのは風の方向と平行な壁ではなく、風の方向と直交する壁だからです。
木造建築物の耐力壁設計では、風圧力と地震力の両方に対する必要壁量を計算し、大きい方の値を採用します。地震力に対する必要壁量は以下の式で計算されます:
地震力に対する必要壁量(cm) = 床面積(m²) × 地震力用係数(cm/m²)
地震力用係数は、建物の階数や屋根の重さによって異なります:
区分 | 軽い屋根(スレートなど) | 重い屋根(瓦など) |
---|---|---|
2階 | 15 | 21 |
1階 | 29 | 33 |
平屋 | 11 | 15 |
計算した風圧力と地震力に対する必要壁量を比較し、各階・各方向で大きい方の値を採用します。一般的に、低層の木造住宅では地震力による必要壁量の方が大きくなることが多いですが、高さがある建物や風の強い地域では風圧力による必要壁量が支配的になることもあります。
最終的な必要壁量が決まったら、実際に設計する耐力壁の存在壁量がこれを上回るように配置します。存在壁量は以下の式で計算されます:
存在壁量(cm) = Σ{耐力壁の壁倍率 × 耐力壁の長さ(cm)}
実務上、見付面積の計算にはいくつかの高度な考慮点があります。
1. 複雑な建物形状の取り扱い
不整形な建物や複雑な屋根形状を持つ建物では、見付面積の計算が複雑になります。このような場合は、建物を単純な形状に分解して計算し、それらを合計する方法が効果的です。例えば、L字型の建物であれば、2つの長方形に分けて計算します。
2. 開口部の考慮
建築基準法上は明確に規定されていませんが、大きな開口部(窓やドア)がある場合、実務上はその面積を見付面積から差し引くこともあります。ただし、安全側の設計という観点からは、開口部も含めた全体の面積を使用することが一般的です。
3. 風圧力の分布
実際の風圧力は建物の各部分で均一ではなく、特に隅角部や屋根面では局所的に大きな風圧が発生します。高度な設計では、風洞実験やCFD(計算流体力学)解析を用いて、より詳細な風圧分布を考慮することもあります。
4. 実務上の工夫
設計実務では、計算の効率化のために以下のような工夫が行われています:
これらの工夫により、正確さを保ちながらも効率的に見付面積を算出することが可能になります。
建築物の風圧力と見付面積に関する研究は、近年も進展しています。特に注目すべき最新の動向としては以下のようなものがあります。
1. 気候変動の影響を考慮した風荷重評価
気候変動に伴う極端気象の増加により、従来の風荷重基準の見直しが世界各地で進んでいます。日本でも、台風の強大化を考慮した風荷重の再評価が行われています。これにより、将来的には見付面積に乗ずる係数の引き上げが検討される可能性があります。
2. 圧力感応塗料(PSP)技術の応用
風洞実験における新技術として、圧力感応塗料(Pressure-Sensitive Paint, PSP)を用いた測定手法が発展しています。この技術により、建物表面の風圧分布をより詳細に可視化することが可能になり、見付面積の概念をさらに精緻化する研究が進んでいます。
圧力感応塗料(PSP)技術に関する最新研究
3. コンピュータシミュレーションの高度化
CFD(計算流体力学)技術の発展により、複雑な建物形状や周辺環境を考慮した風圧シミュレーションが可能になっています。これにより、単純な見付面積だけでなく、より実態に即した風荷重評価が行われるようになってきています。
4. 木造高層建築への応用
近年、CLT(直交集成板)などの新しい木質材料を用いた中高層木造建築が注目されています。これらの建築物では、従来の低層木造とは異なる風圧力の影響が予想されるため、見付面積の考え方や必要壁量の算定方法についても新たな研究が進んでいます。
これらの最新動向は、まだ一般的な設計実務に完全に取り入れられているわけではありませんが、将来的には木造建築の風圧力評価に大きな変化をもたらす可能性があります。特に、気候変動の影響を考慮した設計基準の見直しは、近い将来に実務に影響を与える可能性が高いと考えられています。
実務者としては、これらの最新動向にも注目しながら、現行の基準に基づいた確実な設計を行うことが重要です。
実際の見付面積計算の例を通して、一般的な誤りとその回避法を解説します。
【計算例】
2階建て木造住宅(間口7m×奥行8m、1階階高3m、2階階高2.7m、切妻屋根)の見付面積を計算します。
X方向(間口方向)の見付面積:
1階:7m × (3m - 1.35m) = 7m × 1.65m = 11.55m²
2階:7m × 2.7m + 三角形部分(7m × 1.5m ÷ 2) = 18.9m² + 5.25m² = 24.15m²
Y方向(奥行方向)の見付面積:
1階:8m × (3m - 1.35m) = 8m × 1.65m = 13.2m²
2階:8m × 2.7m = 21.6m²
風圧力に対する必要壁量(係数50cm/m²の地域の場合):
X方向に対する必要壁量(Y方向の見付面積から):
(13.2m² + 21.6m²) × 50cm/m² = 34.8m² × 50cm/m² = 1,740cm
Y方向に対する必要壁量(X方向の見付面積から):
(11.55m² + 24.15m²) × 50cm/m² = 35.7m² × 50cm/m² = 1,785cm
一般的な誤りと回避法:
これらの誤りを避けるためには、計算過程を明確に記録し、図面と照らし合わせながら確認することが重要です。また、計算結果が妥当かどうかを経験則に基づいて判断することも有効です。例えば、一般的な2階建て住宅では、風圧力による必要壁量は地震力によるものより小さくなることが多いため、風圧力の必要壁量が異常に大きい場合は計算ミスの可能性があります。
実務では、これらの計算を効率的に行うために、エクセルなどの計算シートを活用することも有効です。計算式をあらかじめ設定しておくことで、入力ミスを減らし、計算の一貫性を保つことができます。
以上の点に注意しながら見付面積を正確に計算することで、風圧力に対して適切な耐力壁を設計することができます。これにより、安全で耐久性のある木造建築物の実現に貢献できるでしょう。