
層間変形角とは、建築物に地震力が作用した際に各階に生じる水平方向の変形量(層間変位)と階高との比率を表す重要な指標です。簡単に言えば、建物がどれだけ横に変形しやすいかを数値化したものと考えることができます。
層間変形角は以下の式で計算されます:
層間変形角 = δ ÷ h
ここで、
例えば、階高3,000mmの建物で層間変位が15mmの場合、層間変形角は15÷3,000=1/200となります。この値が小さいほど、建物の変形が少ないことを意味します。
建築基準法施行令第82条の2では、一般的な建築物の層間変形角は1/200以内とされていますが、木造建築物のように「地震力による構造耐力上主要な部分の変形によって建築物の部分に著しい損傷が生じるおそれがない場合」には1/120まで緩和されています。
計算方法については、平成19年国土交通省告示第594号第3に詳細が規定されており、「地震力が作用する場合における各階の上下の床版と壁又は柱とが接する部分の水平方向の変位の差」として計算することとされています。
木造建築物における層間変形角の制限値は、建物の構造や用途によって異なります。一般的な木造建築物の場合、建築基準法施行令第82条の2に基づき、層間変形角は1/120以内に収める必要があります。
しかし、木造建築物でも主要構造部を準耐火構造とした場合は、施行令第109条の2の2により、より厳しい1/150以内という基準が適用されます。これは、準耐火構造の被覆材が地震時に剥落しないようにするための規定です。
木造建築物の層間変形角に関する主な制限値をまとめると:
これらの制限値を満たすことで、地震時の建物の変形を適切に抑え、構造安全性を確保するとともに、内外装材や設備の損傷を防止することができます。
準耐火構造の木造建築物には、通常の木造建築物とは異なる層間変形角の規定が適用されます。建築基準法施行令第109条の2の2では、「法第2条第九号の三イに該当する建築物(主要構造部が準耐火構造の建築物)の地上部分の層間変形角は1/150以内でなければならない」と規定されています。
この特別規定が設けられている理由は、準耐火構造の本来の目的である「火災時の安全性確保」と深く関係しています。準耐火構造では、柱や梁などの主要構造部を石膏ボードなどの不燃材料で被覆して火災から保護しています。
しかし、地震によって建物が大きく変形すると、この被覆材が剥がれ落ちてしまう恐れがあります。特に地震後の火災(二次災害)が発生した場合、被覆材が損傷していると準耐火構造としての性能が発揮できなくなります。
そのため、準耐火構造の建築物には、通常の木造建築物より厳しい層間変形角の制限(1/120→1/150)が課せられているのです。これにより、地震時の変形を抑え、被覆材の剥落を防止し、火災時の安全性を確保することが目的とされています。
「準耐火建築物の防火設計指針」(平成5年6月25日)では、木造軸組工法の場合、「一般的に層間変形角が1/120と1/150程度の差であれば、木造軸組工法については、施行令46条に定める必要壁量に1.25を乗じた数値により設計すればよい」と記載されています。
木造建築物、特に四号建築物(建築基準法第6条第1項第4号に該当する小規模な建築物)では、構造計算の代わりに壁量計算によって構造安全性を確認することが一般的です。この壁量計算と層間変形角には密接な関係があります。
壁量計算で必要壁量を満たしている木造建築物は、一般的に層間変形角1/120以内という基準を満たすと考えられています。これは、壁量計算自体が地震時の変形を抑制するために十分な耐力壁を配置することを目的としているためです。
しかし、準耐火構造の木造建築物では、前述のように層間変形角1/150以内という厳しい基準が適用されます。この基準を満たすためには、通常の壁量計算より多くの耐力壁が必要となります。
具体的には、「準耐火建築物の防火設計指針」に基づき、施行令第46条に定める必要壁量に1.25倍を乗じた値を用いることで、層間変形角1/150以内という基準を満たすことができるとされています。この1.25倍という数値は、1/120と1/150の比率から導き出されたものです。
実務上の対応としては、以下のような方法が一般的です:
なお、枠組壁工法の場合は、構造特性が異なるため、この1.25倍という係数が適用されない場合もあります。
木造建築物の層間変形角に関する理論的な計算だけでなく、実際の建物がどのように挙動するかを確認するために、実大木造住宅の振動台実験が数多く行われています。これらの実験は、理論と実践のギャップを埋め、より安全な木造建築の設計に貢献しています。
実大振動台実験では、実物大の木造住宅を振動台に設置し、様々な強さの地震波を与えて建物の応答を測定します。特に層せん断力と層間変形角の関係は、木造建築物の耐震性能を評価する上で重要な指標となります。
これらの実験から得られた知見として、以下のような点が挙げられます:
特に注目すべき点として、実験では建物の偏心(重心と剛心のずれ)が大きい場合、計算上の層間変形角よりも実際の変形が大きくなる傾向が確認されています。このため、実務設計では壁のバランスよい配置が重要となります。
また、木造住宅の場合、層間変形角が1/120を超えると、石膏ボードなどの内装材にひび割れが生じ始め、1/60程度になると顕著な損傷が見られるという実験結果もあります。準耐火構造の場合、被覆材の剥落防止のために1/150という厳しい基準が設けられていることの合理性がこうした実験からも裏付けられています。
実大振動台実験の結果は、建築基準法の規定を補完し、より安全で信頼性の高い木造建築の設計に活かされています。特に、近年の大地震の経験を踏まえた実験では、従来の想定を超える地震動に対する木造建築物の挙動が詳細に分析されており、今後の基準改定にも影響を与える可能性があります。
木造建築物の設計において層間変形角を適切に制御するためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらを理解し実践することで、建築基準法の要求を満たしつつ、安全で機能的な木造建築を実現できます。
実務上の工夫としては、構造用合板や筋かいを効果的に組み合わせることで、必要壁量を確保しつつ開口部の自由度を高める方法があります。また、構造用集成材や製材を用いた門型フレームを採用することで、1階の開放的な空間を確保しながらも層間変形角を制御する設計も可能です。
準耐火構造の木造建築物では、被覆材の剥落防止が重要なため、通常の木造建築物よりも変形を抑制する必要があります。そのため、壁量を増やすだけでなく、構造材自体の剛性を高める工夫も効果的です。例えば、剛性の高い面材を用いた耐力壁や、接合部の補強を強化するなどの対策が考えられます。
最終的には、建物全体のバランスを考慮した総合的な設計アプローチが重要です。単に計算上の数値を満たすだけでなく、実際の建物の挙動を想定した設計を心がけることが、安全で長持ちする木造建築を実現する鍵となります。
防火地域内に建築基準法第6条第1項第4号建築物(いわゆる四号建築物)を建築する場合、構造を準耐火構造にすることで100㎡未満であれば建築可能となります。この場合、層間変形角の確認が必要となりますが、四号建築物は本来構造計算が不要な建築物であるため、実務上どのように対応すべきか悩ましい問題となります。
四号建築物の準耐火構造における層間変形角の取扱いについて、特定行政庁や指定確認検査機関では主に以下のような対応がされています:
実務上は「2」または「3」の方法が適用されることが多いようです。これは、「準耐火建築物の防火設計指針(平成5年6月25日)」p73において、木造軸組工法の場合「一般的に層間変形角が1/120と1/150程度の差であれば・・・・・木造軸組工法については、施行令46条に定める必要壁量に1.25を乗じた数値により設計すればよい」と記載されていることに基づいています。
実務対応のポイントとしては:
なお、枠組壁工法(ツーバイフォー工法)の場合は、構造特性が異なるため、この1.25倍という係数が適用されない場合もあります。枠組壁工法の場合は、各特定行政庁や指定確認検査機関の運用方針を確認することが重要です。
また、四号建築物であっても、特殊な形状や大きな吹き抜けがある場合など、通常の壁量計算だけでは安全性を確保できない可能性がある場合は、構造計算による確認が求められることもあります。このような場合は、専門の構造設計者に相談することをお勧めします。
実務上の注意点として、準