
ヒエログリフは古代エジプトで紀元前3000年頃から使用されていた象形文字で、「神聖文字」または「聖刻文字」とも呼ばれています。古代エジプト人は文字には魔力が宿ると信じており、ヒエログリフを「神の言葉」として大切に扱っていました。この文字体系は表音文字と表語文字の両方の性質を併せ持ち、標準的な24個の文字がそれぞれ1つの音を表現しています。建築業従事者にとって興味深いのは、ヒエログリフが神殿、墓、石碑などの建造物に刻まれ、歴史的な出来事や呪文を記録する役割を果たしていた点です。
参考)https://www.kyuhaku.jp/j-kouko/img/ouchi/hiero.pdf
古代エジプトでは3種類のエジプト文字が使われていましたが、ヒエログリフはその中でも最も芸術性の高い文字でした。紀元前4000年頃から使用され始め、時代とともにヒエラティック(神官文字)やデモティック(民衆文字)へと簡略化されていきました。ヒエログリフとヒエラティックは役人階級のみが使える専門的な文字であり、神殿や石碑には主にヒエログリフが、パピルスなどの実務文書にはヒエラティックが使われていました。
参考)ヒエログリフ - Wikipedia
ヒエログリフの標準的な分類として、エジプト学者アラン・ガーディナーによって編纂された「ガーディナーの記号表」が広く使われています。この記号表は古代エジプトのヒエログリフ研究における標準的なリファレンスとされており、26のカテゴリに分類された数百の記号を含んでいます。主なカテゴリには以下のものがあります:
参考)ガーディナーの記号表 - Wikipedia
ガーディナーの記号表では、ヒエログリフの最も一般的な形だけでなく、広範囲のサブカテゴリや縦書き・横書き双方での形も記載されています。建築業に携わる方にとって特に興味深いのは「O. 建物とその一部」のカテゴリで、神殿や柱などの建築要素を表す記号が含まれています。実際のテクストを読む補助として、大きさによる字形のバリエーションも詳細に記録されており、約3000字の表意文字・表音文字が存在すると言われています。
参考)ロゼッタ・ストーン - Wikipedia
古代エジプトのヒエログリフには独自の数字システムがあり、10進法に基づいて各桁ごとに異なる象形文字が用意されていました。建築の記録や土地の面積、神に捧げた動物の数を表すために数字が必要だったのです。主な数字記号は以下の通りです:
参考)https://mathematica.site/keyword_term2/hieroglyph-3/
数値 | 記号のモチーフ | 意味 |
---|---|---|
1 | 縦棒1本 | 線1本 |
10 | カゴの取っ手 | カゴには卵が10個入るから |
100 | 巻いたロープ | 100歩分の長さがあるロープ |
1,000 | 蓮の花 | ナイル川の畔に無数に咲いていた |
10,000 | 葦 | 一斉に芽を出す様子から |
100,000 | オタマジャクシ | 大量にかたまって見られるから |
1,000,000 | ヘフ神 | 無限を意味する神 |
ヒエログリフの数字は、必要な数だけ記号を並べることで数を表現する仕組みでした。例えば「3215」を表す場合、蓮の花を3つ、縄を2つ、取っ手を1つ、棒を5本並べます。ヒエログリフは左から右にも、右から左にも書くことが可能で、各位で使われる記号が異なるため、どちらの順序でも同じ意味になります。ただし、美術的には優れていても実用性に欠けるため、実務的な用途では簡略化されたヒエラティックが使われるようになりました。
参考)【数学史2-2】古代エジプトの数字は絵文字!読み方や由来、表…
ヒエログリフの読み方には、表音文字、表語文字、決定符(決定詞)という3つの要素があります。表音文字は特定の「音」を表し、1子音字、2子音字、3子音字などがあります。例えば、1つの文字で「pt」という2つの発音を持つ文字が存在し、さらに送り仮名のように音を補足する記号も付けられることがあります。
参考)ヒエログリフ入門(1)
決定符は漢字の「へん」に似た働きをし、その文字がどの分野に関連するかを示します。「きへん」が木に関するもの、「ごんべん」が言葉に関するものを示すように、決定符は文字の意味を明確にする役割を果たします。例えば、「ラー」という文字は「太陽」を表す場合と「太陽神ラー」を表す場合があり、決定符によって区別されます。
参考)古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第9…
ヒエログリフは4世紀末には完全に使用されなくなり、長い間読み方が失われていました。1799年にナポレオンのエジプト遠征の際に発見されたロゼッタストーンが解読のきっかけとなり、イギリスの物理学者トーマス・ヤングとフランスの言語学者ジャン・フランソワ・シャンポリオンの研究によって、1822年についに解読されました。ロゼッタストーンには同じ内容がヒエログリフ、デモティック、ギリシア語の3種類の文字で刻まれており、この対照によって解読が可能になったのです。
参考)古代エジプト文字の解読 - Wikipedia
ヒエログリフは古代エジプトの建築物と密接な関係があり、神殿や墓の壁画、石碑などに刻まれることで、建造物に歴史的・宗教的な意味を付与していました。古代エジプト建築では、ヒエログリフは単なる装飾ではなく、歴史的な出来事や呪文を記録するための重要な要素でした。石材に刻まれたヒエログリフは、フレスコ画や彫刻とともに古代エジプト人の生活や信仰を現代に伝える貴重な情報源となっています。
参考)古代エジプト建築 - Wikipedia
興味深いことに、ピラミッド建設に関する情報もヒエログリフから得ることができます。遺物やヒエログリフの記録から、ピラミッド建設に従事した労働者たちは奴隷ではなく、通常の仕事として働いていたことが推測されています。これは当時の労働制度や建築プロジェクトの組織化について重要な示唆を与えています。
参考)ピラミッドの作り方
建築業従事者の視点から見ると、ヒエログリフには建築関連の記号カテゴリ「O. 建物とその一部など」があり、神殿、柱、壁などの建築要素が象形文字として体系化されていました。ロゼッタストーンにも「柱」を意味するヒエログリフの記号が記されており、建築用語が文字体系の一部として確立していたことがわかります。このように、ヒエログリフは古代エジプトにおける建築技術の記録と伝承において、欠かせない役割を果たしていたのです。
ガーディナーの記号表の詳細分類 - Wikipedia(ヒエログリフ記号の完全な一覧とカテゴリ分類を確認できます)
古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第9回(表意文字、表音文字、決定符の使い分けについて専門的な解説があります)
古代エジプト建築 - Wikipedia(建築物へのヒエログリフの使用例と装飾技法を詳しく学べます)