確率年降雨強度と計算方法や設計基準値

確率年降雨強度と計算方法や設計基準値

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確率年降雨強度の基礎知識と設計基準

確率年降雨強度の重要ポイント
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確率年の意味

何年に1回程度発生する大雨かを示す指標で、再現期間とも呼ばれる

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降雨強度の定義

降雨継続時間と降雨強度の関係を表し、mm/hrの単位で表現される

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建築設計への適用

排水施設の断面決定や雨水管理計画の基礎データとして活用

確率年降雨強度の定義と計算の基本概念

確率年降雨強度とは、降雨継続時間と降雨強度の関係を表す式であり、確率年ごとに異なる数値が設定されます。確率年とは、何年に1回程度生起する大雨かを表す指標で、降雨量Xの発生する時間間隔の平均値を1/Tで表したものです。このTが確率年(リターンピリオド、再現期間)と呼ばれています。例えば5年確率の降雨とは、毎年1/5の確率で発生する大雨を意味し、統計的に5年間に1回程度発生する降雨強度を示します。

 

建築業において確率年降雨強度は、下水道施設や排水設備の設計における重要な基準値となります。一般的に下水道計画では5年から10年確率の降雨強度が採用され、特に重要な施設や都市機能が集中する地区ではより高い確率年が設定されることもあります。横浜市の例では、10年確率の降雨強度式がI=1452/(t^0.70+7.5)、5年確率がI=880/(t^0.65+4.4)と定められており、地域ごとに異なる式が設定されています。

 

降雨強度は降雨継続時間によって大きく変化する特性があります。短時間の降雨ほど強度が高く、継続時間が長くなるほど平均降雨強度は小さくなる傾向があります。この特性を利用して降雨強度式が作成されており、設計においては流達時間(雨水が排水区域の最遠点から計画地点まで到達する時間)に応じた適切な降雨強度を算出する必要があります。

 

確率年降雨強度の計算方法と降雨強度式の種類

確率年降雨強度の算定には、主にタルボット型、シャーマン型、久野型などの降雨強度式が用いられます。最も一般的なタルボット型は、I=a/(t^n+b)の形式で表され、継続時間が5~120分の間で適用されることが多く、下水道施設の設計において安全側の値を示すため広く採用されています。ここでI は降雨強度(mm/hr)、tは降雨継続時間(分)、a、b、nは地域ごとに定められる定数です。

 

確率降雨強度の算出法としては、Thomas(トーマス)プロット法、岩井法、Hazen(ハーゼン)プロット法などが一般的に用いられています。いずれの方法によっても、ほぼ等しい値を得ることができます。特性係数法による算定では、IN=βN・RNの形式で表され、βは特性係数、Rは60分雨量、Nは確率年を示します。この方法では、10分間と60分間の降雨資料から確率降雨強度式を算出し、地域特性を反映した精度の高い式を得ることができます。

 

実務においては、国土交通省が提供する「アメダス確率降雨計算プログラム」などのツールを活用することで、過去のアメダスデータをもとにGev(一般化極値分布)により求められた確率降雨量を利用した計算が可能です。Fair式のパラメータ同定により、地域ごとの確率降雨強度式を効率的に算出できます。建築設計者は、計画地点の所属する気象観測地点のデータを用いて、適切な確率年の降雨強度を算定することが求められます。

 

国土技術政策総合研究所のアメダス確率降雨計算プログラムでは、全国各地の確率降雨強度式の算定が可能です(確率降雨強度式の算定に関する参考資料)

確率年降雨強度を用いた合理式と排水計画への応用

建築設計における雨水流出量の算定には、合理式Q=1/360・C・I・Aが広く用いられています。この式において、Qは雨水流出量(m³/s)、Cは流出係数、Iは流達時間内の平均降雨強度(mm/hr)、Aは排水面積(ha)を示します。確率年降雨強度式から得られる降雨強度Iを用いることで、計画降雨時に生じる最大雨水流出量を算定できます。

 

流出係数Cは土地利用状況によって異なり、住居系で0.70、商業系で0.80、工業系で0.60、市街化調整区域で0.40が標準的な値として設定されています。都市機能が集積している地区や地下空間利用が発達している地区では、0.90を上限値として用いることも可能です。排水区域内が複数の用途地域で構成されている場合、用途地域別面積による加重平均値を計画流出係数として使用します。

 

流達時間の算定は合理式の精度を左右する重要な要素です。流達時間は流入時間と流下時間の和として求められ、流入時間は原則として5分、流下時間は管きょ延長を設計流速で除して算出します。神戸市の都賀川における水難事故の分析では、市街地部の流達時間が10分間と推定され、144mm/hの降雨強度による急激な水位上昇が確認されました。このように、流達時間が短い流域では、1時間降雨量ではなく10分間などの短時間降雨強度を用いることで、現象を適切に評価できます。

 

確率年降雨強度の設計基準値と施設計画

下水道施設計画における確率年の設定は、施設の重要度や地域特性によって異なります。一般的に下水道排水施設では5~10年確率降雨を標準としており、横浜市の例では、ポンプ排水区域については10年確率降雨、自然排水区域については当面5年確率降雨を対象としています。特に重大な被害が生じるおそれのある地区、例えば地下街やターミナル駅など都市機能・人口・資産が集中する地区では、より高い確率年を設定することが推奨されています。

 

農道などの道路排水施設では、計画交通量に応じた確率年が設定されます。路面や小規模な法面などの一般的な道路排水施設では、交通量4000台/日以上で3年確率、1500~4000台/日で7年確率、500~1500台/日で5年確率が適用されます。一方、長大な自然斜面から流出する水を排除する道路横断排水施設など重要な排水施設では、交通量4000台/日以上で10年確率降雨強度が採用されます。

 

雨水貯留施設の容量算定においては、流出ハイドログラフを用いた詳細な検討が必要です。降雨継続時間は24時間を標準とし、降雨波形は統計的にピークが中央付近に生じることから中央集中型が原則として採用されます。タイムエリア法や合理式合成法により、降雨の時間的変化を考慮した流出量の算定を行い、下流施設の流下能力を超えない範囲で適切な放流量を設定します。計画貯留量は、流入量と放流量の差を時間積分することで算出され、オリフィス方式やポンプ方式などの放流方式によって必要容量が変化します。

 

横浜市の下水道設計指針では、確率年別の降雨強度式と具体的な設計手法が詳細に示されています(雨水管理計画の参考資料)

確率年降雨強度における気候変動の影響と今後の対応

近年の気候変動により、従来の確率年降雨強度では対応できない豪雨が頻発しており、設計基準の見直しが進められています。国土交通省の提言では、気候変動の影響を踏まえた新たな計画降雨の設定手法として、現在の計画降雨に気温が上昇した場合の降雨量変化倍率を乗じる方法が示されています。世界平均気温が2℃上昇した場合、近畿地方における降雨量が1.1倍になると予測されており、大阪市では現在の計画降雨60mm/hrに降雨量変化倍率1.1を乗じた66mm/hrを新たな計画降雨として設定しています。

 

気候変動モデルd4PDFの5kmメッシュデータを用いた検証では、大阪市における1時間雨量の降雨量変化倍率が1.08倍と算定され、国の提言値1.1倍と大きな乖離がないことが確認されました。過去の降雨データ(1951~2021年)により10年確率降雨を算出すると53.7~56.7mm/hrとなり、現在の計画降雨60mm/hrは妥当であることも検証されています。このように、過去データと将来予測の両面から計画降雨の妥当性を確認することが重要です。

 

建築業従事者としては、計画地点における降雨の長期的な傾向変化を注視し、定期的に降雨データを蓄積・分析していく必要があります。既存施設の能力評価を行う際には、設計当時の基準だけでなく、最新の降雨実績や気候変動予測を考慮した検証が求められます。また、目標整備水準を超える降雨に対しては、ハード対策だけでなく、内水ハザードマップの作成や浸水情報の提供などのソフト対策を組み合わせた総合的な雨水管理計画の策定が重要となっています。

 

国土交通省の気候変動を踏まえた治水計画のあり方に関する提言では、将来降雨予測データの活用方法が示されています(気候変動対応の参考資料)