排水設備設計基準と配管計画の実務ポイント

排水設備設計基準と配管計画の実務ポイント

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排水設備設計基準

この記事で分かる排水設備設計の要点
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管径・勾配の基準

排水人口や排水面積に応じた適切な管径と勾配の選定方法

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排水負荷単位の算定

衛生器具の種類・数量から排水管サイズを決定する計算手法

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付属設備の設置基準

阻集器・マス・通気管など必要な設備の設置要件と配置方法

排水設備設計基準の法的根拠と適用範囲

排水設備の設計基準は、下水道法・建築基準法・各自治体の下水道条例によって規定されており、建築物から排出される汚水や雨水を適切に公共下水道へ導くための技術基準です。設計にあたっては、公益社団法人日本下水道協会が発行する「下水道排水設備指針と解説」が実務上の標準的な参考資料として広く活用されています。
参考)https://www.city.okayama.jp/jigyosha/cmsfiles/contents/0000002/2939/000338673.pdf

建築基準法施行令第129条の2の4では、排水設備の構造に関する基本的な要求事項が定められており、耐水性材料の使用・漏水防止・分流式での汚水と雨水の分離などが義務付けられています。これらの基準を満たさない場合、建築確認が下りず、完了検査にも通らないため、設計段階から正確な理解が必要です。
参考)ビルの給排水設備と法律 整備の基準・点検に関するルールを解説…

排水設備は「屋内排水設備」と「屋外排水設備」に大別され、それぞれ異なる設計基準が適用されます。屋内排水設備は衛生器具から排出される汚水や雨水を屋外排水設備へ導く部分を指し、屋外排水設備は敷地内の排水管・マス・公共桝までの配管系統を指します。
参考)https://www.city.chitose.lg.jp/fs/2/3/3/1/0/1/_/_____________R3____.pdf

排水設備における管径・勾配の設計基準

汚水管の管径と勾配は、排水人口に応じて決定されることが一般的です。150人未満の場合は管径100mm以上で勾配2/100以上、150人以上300人未満では管径125mm以上で勾配1.7/100以上、300人以上500人未満では管径150mm以上で勾配1.5/100以上が基準となります。ただし、一つの建物から排除される汚水の一部を排除する排水管で、管路延長が3m以下の場合は、最小管径を75mm・勾配1/300以上とすることが可能です。
参考)https://www.city.akashi.lg.jp/documents/15876/2.pdf

雨水排水管や合流管の場合は、排水面積を基準に管径と勾配を決定します。200㎡未満では管径100mm以上・勾配2/100以上、200㎡以上400㎡未満では管径125mm以上・勾配1.7/100以上、400㎡以上600㎡未満では管径150mm以上・勾配1.5/100以上となります。
参考)排水管の勾配の付け方や基準【工事の4つの注意点も解説します】

屋内の排水横管については、管径65mm以下で最小勾配1/50、75mmおよび100mmで1/100、125mmで1/150、150mm以上で1/200が標準的な基準です。適切な勾配が確保できないと、排水管内に堆積物が溜まり、硫化水素ガスの発生や配管の腐食トラブルにつながる可能性があるため、設計段階での慎重な検討が必要です。
参考)https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/049/087/R3-haisuisisinn-05-3shou.pdf

排水設備の負荷単位計算と管径決定方法

排水設備の管径を適切に決定するためには、器具排水負荷単位法による計算が不可欠です。この方法では、各衛生器具の最大排水流量を標準器具(洗面器)の最大排水流量で除して得られる器具単位に、同時使用率等を考慮した器具排水負荷単位(DFU:Drain Fixture Unit)を定めます。
参考)排水負荷単位から排水管径を決定する方法

主な衛生器具の器具排水負荷単位は以下の通りです。洗浄タンク付き大便器は4単位、洗浄弁付き大便器は8単位、小便器は4~5単位、洗面器は1単位、浴槽(和風)は2単位、浴槽(洋風)は3単位となっています。これらの負荷単位を合計し、排水横枝管・排水立て管・排水横主管それぞれの許容最大排水単位表と照合することで、必要な管径を決定します。
参考)https://www.city.uji.kyoto.jp/uploaded/attachment/45821.pdf

定常流量法を用いる場合は、各排水器具の排水率(β)と設置数量から設計用設置器具数(n)を求め、1器具あたりの定常流量(q)を乗じて全器具の定常流量(Q)を算出します。その後、排水管選定線図を用いて負荷流量(QL)を求め、これを上回る許容流量となるように管径を選定します。
参考)定常流量法による集合住宅の排水管サイズの決定方法【3分でわか…

排水負荷単位から排水管径を決定する具体的な手順と計算例
排水立て管の場合、建物の階数(ブランチ間隔)によって許容最大排水単位が変わるため注意が必要です。ブランチ間隔3以下と4以上では許容値が異なり、高層建築物ほど慎重な設計が求められます。​

排水設備の阻集器設置基準と維持管理

グリース阻集器(グリーストラップ)は、油脂やゴミを取り除くための装置であり、飲食店など油脂類を多量に排出する施設では設置が義務付けられています。建設省告示第1597号により、汚水が油脂や土砂などにより排水設備の機能を著しく妨げる場合には、有効な位置にグリース阻集器を設けることが定められています。
参考)https://www.knights.jp/knightsreport/reports/KR25006.pdf

グリース阻集器の構造は、まず槽内入口のバスケットで野菜やゴミ等を阻集し、次に水と油の比重差を利用して汚泥等を沈降させ、油分は浮上分離します。最後に、トラップ管を通じて油脂分を除去した水を排出する仕組みです。日本阻集器工業会の認定品を使用し、横浜市など多くの自治体では指定工事店による設置工事が義務付けられています。
参考)グリーストラップの設置について 横浜市

維持管理面では、貯留された汚泥及び油脂分を定期的に清掃して排除する必要があります。清掃を怠ると臭気が発生すると共に、阻集された汚泥や油脂分が流出し、下水道法や水質汚濁防止法に抵触する可能性があります。清掃周期は使用頻度や排水量に応じて設定しますが、一般的には月1~2回程度が推奨されています。​
横浜市によるグリーストラップの設置と維持管理に関する詳細ガイド
飲食店以外にも、ガソリンスタンドなどではオイル阻集器の設置が必要となり、業種や排水の性状に応じた適切な阻集器の選定が求められます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a1bf550c7a6b19a883aa7af258dc1e04e2662d29

排水設備のマス・通気管の配置基準

排水設備におけるマスの設置基準は、下水道法施行令第8条に規定されており、もっぱら雨水を排除すべき管渠の始まる箇所、下水の流路の方向又は勾配が著しく変化する箇所、管渠の長さがその内径または内のり幅の120倍を超えない範囲内の箇所に設けることとされています。
参考)https://www.morioka-water.jp/corporation/pdf/se_kijun.pdf

汚水マスの配置については、1敷地当たり1個を原則とし、設置場所は道路境界から民地側1.0m以内(道路境界からマス縁まで0.3m程度を標準)に設置します。マス蓋は原則として道路面と同じ高さとし、常時蓋を開けて点検できるよう、上部および周囲の空間を確保する必要があります。
参考)https://www.city.toyonaka.osaka.jp/joho/reiki/youkou/jogesuido/kanri.files/y35-003.pdf

マスの底部には、雨水を排除するマスの場合は深さ15cm以上のどろだめを設け、その他のマスには接続する管渠の内径に応じた相当の幅のインバートを設けることが規定されています。インバートとは、マス底部の半円形の溝のことで、排水の流れをスムーズにし、汚物の堆積を防ぐ役割を果たします。
参考)https://www.city.komaki.aichi.jp/material/files/group/43/53046388.pdf

通気管は、排水管内の圧力変動を低減させ、排水トラップの破封を防ぐために不可欠な設備です。通気設備には「伸頂通気方式」と「通気立て管方式」の2種類があり、建物の高さや排水系統の合流形態により使い分けられます。伸頂通気方式は排水立て管の先端を延長して屋上または最上階の外壁等で大気に開口する方式であり、通気立て管方式は排水立て管に最下層よりも低い位置で接続して通気管を立ち上げる方式です。
参考)https://www.kanzai.co.jp/tips/2021/%E6%8E%92%E6%B0%B4%E3%83%BB%E9%80%9A%E6%B0%97%E3%81%AE%E4%BB%95%E7%B5%84%E3%81%BF/

排水設備の通気管の配管計画の詳細な設計ポイント
通気管の開口部には、虫や小動物が入り込まないように防虫ネットを設置し、排水の流入の恐れがない構造とすることが求められます。近年では、通気弁(ドルゴ等)が通気管の代替手段として使用されるケースも増えており、空気を取り入れることで排水時の圧力変化を調整し、排水トラップ内の水が引き抜かれることを防ぐ効果があります。
参考)排水管と通気管の仕組みを徹底解説!その役割と快適な排水システ…

排水設備設計における材料規格と施工上の留意点

排水設備に使用する材料は、日本下水道協会規格(JSWAS)に適合した製品を使用することが原則であり、これにないものは日本工業規格(JIS)、日本水道協会規格(JWWA)、空気調和・衛生工学会規格(SHASE-S)等の公的規格に適合した製品を使用することが推奨されています。
参考)https://www.pref.tochigi.lg.jp/h02/town/koukyoujigyou/kensetsu/documents/05gesuidouhenn.pdf

排水管の材料としては、硬質塩化ビニル管(VU管・VP管)、鋳鉄管(排水用鋳鉄管)、鉄筋コンクリート管などが用途に応じて選定されます。各材料には耐久性・施工性・コストなどの特性があり、設置場所や排水の性状に応じた適切な選定が必要です。
参考)https://www.city.habikino.lg.jp/material/files/group/44/03364015.pdf

施工上の留意点として、排水管の土被りは特別な理由のない限り20cm以上とし、通路に埋設する場合は通路幅員や管種に応じた適切な土被りを確保する必要があります。通路幅員2.0m以上では土被り0.5m以上、通路幅員2.0m~1.5mでは0.35m以上、通路幅員1.5m以下では0.2m以上が基準となっています。
参考)https://www.city.kobe.lg.jp/documents/10757/4syo.pdf

排水配管の接合部や継手部の施工不良は漏水の主要な原因となるため、接着剤の適切な使用、継手の正確な組み立て、配管勾配の確保など、施工品質の管理が重要です。特に排水横管の合流部では、T形継手ではなく45度Y形継手やY形継手を使用し、排水同士の衝突による流れの阻害や逆流を防ぐ配管計画が求められます。
参考)住宅紛争処理技術関連資料集

神戸市による排水設備の施工基準に関する詳細な技術資料
また、うどん店など塩分を多く含んだ排水を使用する施設では、排水管材料として鋼管を採用すると腐食リスクが高まるため、耐食性のある材料を選定することが重要です。高層マンションの1階設置の洋風大便器では、伸頂通気管だけでは不十分な場合があり、1階の排水系統は単独排水系統とする設計上の配慮が必要です。
参考)配管工事トラブルクレーム:給排水衛生設備編 【通販モノタロウ…

排水設備の設計不良は、排水不良・漏水・悪臭・害虫侵入など様々なトラブルの原因となるため、設計段階から法規制と技術基準を十分に理解し、現場の状況に応じた適切な設計判断を行うことが建築事業者には求められます。​