

国家公務員法は、職員に「職務上知ることのできた秘密」を漏らさない義務を課し、退職後も同様と明記しています。根拠は国家公務員法第100条で、在職中だけの話ではない点が実務で重要です。
人事院の「義務違反防止ハンドブック」でも、守秘義務は退職後も課され、漏えいが刑事罰に至り得ること、そして入札情報や個人情報が典型例として挙げられています。
参考:国家公務員法(第100条「秘密を守る義務」などの原文確認)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000120/20250601_504AC0000000068
参考:人事院「義務違反防止ハンドブック」(秘密の考え方、入札情報・個人情報の例、懲戒の考え方)
https://www.jinji.go.jp/content/900018083.pdf
現場で一番迷うのは「それは秘密なのか?」ですが、判例上は“非公知”であるだけでなく、“実質的にも秘密として保護する価値(要保護性)がある”ことがポイントになります。
人事院ハンドブックも、国家公務員法第100条の「秘密」は「非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの」と整理しています。
実務では「文書に秘区分が付いていないから大丈夫」ではなく、外に出たときに国・組織・個人の利益を害したり、行政の遂行を阻害したりする性質があるかを先に検討するのが安全です。
守秘義務違反は、刑事罰(罰則)と、組織内の懲戒処分が並走し得ます。刑事面では、国家公務員法の守秘義務違反に対し、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金といった罰則が論じられることが多く、根拠条文として第100条と罰則条項がセットで参照されます。
一方で、懲戒は「刑事事件になったか」とは別に評価され、停職や免職といった重い処分も起こり得ます。人事院ハンドブックの懲戒処分の標準例には「秘密漏えい(故意)」が含まれ、重大性や動機(自己利益目的など)によって量定が重くなる考え方が示されています。
建設・契約実務では、処分の重さは「漏えいそのもの」だけでなく、入札の公正・説明責任・対外信用への影響で跳ね上がるので、漏えい前の予防設計が最重要です。
建設分野で特に問題化しやすいのが、公共工事の入札・契約に関する秘密情報です。人事院ハンドブックの事例でも、工事入札において予定価格に関わる情報、技術評価点や順位などの教示が挙げられ、結果として免職処分になった例が示されています。
漏えいの典型パターンは、悪意ある売り込みだけではありません。例えば「事前相談のつもりで雑談」「過去案件のつもりで現行案件を混ぜる」「業者側の質問に“ヒント”を出す」「委員会資料のスクショ共有」など、本人の感覚では“親切”でも、入札の公正を壊す行為になり得ます。
現場運用としては、次の線引きを先に共有すると事故が減ります。
・予定価格、最低制限価格、積算内訳、技術評価の採点観点・配点の未公表部分、参加予定者名、指名理由の未公表部分は「原則として話さない」
・「公表済み」「公告・入札説明書・仕様書に明記」「同時に全社へ提供できる」の3条件を満たす情報だけを回答する
・回答は口頭より、質問受付→記録→全社への質疑回答公表、という手順に寄せる
検索上位の記事は法律解説に寄りがちですが、建設・公共工事の現場では「守秘義務違反が起きる構造」を潰す方が、再発防止として効きます。ポイントは“個人の注意喚起”ではなく、“情報の流れ”を設計し直すことです。
例えば、次のような「うっかり漏えい」を誘発する配置がよくあります。
・仕様検討、積算、質問回答、評価、契約、監督が同じ少人数のチャット・同じフォルダで混在
・庁内の会議資料が、協力会社との打合せ資料と同じPCローカルに保存され、境界が曖昧
・テレワークで画面共有する際、通知ポップアップや最近開いたファイル名が映り込む
ここを改善するための、実装しやすい対策例です(ツールや規程名は職場に合わせて調整してください)。
✅ フォルダと権限の分離
・「検討段階の積算」「評価資料」「契約前資料」は閲覧者を最小化し、共有リンクの発行を禁止または承認制にする
✅ 会話経路の固定
・業者質問は担当者の個人メールで受けず、必ず共有窓口で受付→記録→回答を残す
✅ “公開できる情報”のテンプレ化
・回答文のテンプレに「公告・仕様書の該当箇所」「追加で公開した資料URL」「全社同時提供の有無」欄を作る
✅ 退職・異動時のリマインド
・国家公務員法第100条は退職後も続くため、異動時に「持ち出し禁止データ」「口外禁止の典型」を短いチェックリストで再確認する
最後に、公益通報(いわゆる内部告発)との関係で「守秘義務があるから何も言えない」と誤解されがちですが、人事院ハンドブックでは、通報内容が通報対象事実に該当する場合、通常は守秘義務違反に問われない旨のQ&Aが示されています。重大不正を隠すための“守秘義務の盾”を作らないことも、建設行政の信頼確保では同じくらい重要です。