

IMD(国際経営開発研究所)が発表する世界競争力ランキングにおいて、日本は2023年に64カ国中35位と過去最低を記録しました。バブル崩壊までは世界1位だった日本が、30年間で大きく順位を下げている状況です。2024年には38位とさらに低下し、2025年版では若干改善して35位となったものの、依然として厳しい状況が続いています。
参考)https://www.imd.org/news/2024_03_rieti_jp/
この競争力ランキングは「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラストラクチャー」の4つの因子で構成されていますが、特にビジネスの効率性が著しく低迷しており、その多くが人材と組織の課題に起因しています。建築業従事者にとっても、このマクロ経済環境の変化は業界の国際展開や競争力に直結する重要な指標となっています。
参考)https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/24022201.html
日本の競争力低下において最も深刻なのがビジネス効率性の項目で、2024年には51位という低評価となっています。具体的には「企業の意思決定の迅速性(64位)」「変化する市場への認識(58位)」「機会と脅威への素早い対応(62位)」「変化に対する柔軟性と適応性(63位)」といった項目で順位が低くなっています。
参考)https://dentsu-ho.com/articles/9026
建築業界においても、この問題は顕著に現れています。国内市場を中心とした長年の取組スタンスにより、海外市場の様々なリスクに対応するのが困難であったことが指摘されています。さらに、サーベイ結果から企業の俊敏性や起業家精神に関する回答値が2014年と2023年を比較して低下しており、これが謙虚さによるものなのか、悲観主義によるものなのかを吟味する必要があります。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/economy/strategy/report.pdf
日系企業の「高い技術力」や「工期遵守」という強みは国内では際立っていますが、マーケットの慣習や規模、環境が異なる第三国において同じような強みを発揮できるかは疑問視されています。ローカルの行政とのパイプや現地手法に基づくノウハウを持つサブコンとのビジネス関係が薄い中で、日本と同様の競争力を世界のどのマーケットでも発揮できるという前提は現実的ではないという指摘もあります。
世界人材ランキングにおいて、日本は2023年に43位という過去最低を記録しました。この背景には、投資と開発、魅力、準備度という3つの因子があり、特に準備度に大きな課題があることが明らかになっています。管理職のスキル不足に対する危機感が強く、マネジメント教育がビジネスコミュニティーのニーズを満たしているかという問いに対する回答値は10点中4.6点と低迷しています。
建築業界特有の人材課題として、海外業務に従事する人材の固定化があります。長く海外業務に従事する人材が固定化され、次世代への知識・経験の承継が十分に行われてこなかった結果、今後本格的な海外展開の時代を迎えるに当たり、中核となる人材の不足が懸念されています。
国内では深刻な労働者不足と高齢化が進行しており、建設技能者の平均年齢は約48歳、55歳以上の従事者が全体の約3割を占める一方で、29歳以下の若手は約1割にとどまっています。2025年には約90万人の労働力不足が予測されており、技術継承の担い手不足が深刻化しています。海外展開を見据えた言語力(母国語、英語力)を持つ人材や、日本の建設技術への強い関心とスキル習得の意欲が高い人材の確保が急務となっています。
参考)https://www.kokudo-kc.co.jp/column/uncategorized/719/
日本の建設業が海外展開を推進するためには、進出先の国・地域の公的セクターおよび民間セクターの両方に対して、政府間交渉の機会や相手国の関係省庁との会議、関連業界との交流など、様々なチャネルを活用した積極的な働きかけが必要です。これを「建設外交」と位置付け、WTOやEPA等の多国間・二国間政府交渉の機会を活用することが重要とされています。
EPA交渉を通じた建設ビジネスの環境整備の事例として、日本・タイEPA交渉では外国事業法の建設業許可手続について詳細な改善・確認がなされました。契約後にしか申請できなかった手続きが内示書の添付で可能となり、同一工事現場における許可手続の省略、申請時提出書類の緩和などが実現しています。
建設業の強みを海外で発揮するためには、技術基準の普及や技術者資格の相互認証等の取組を推進していくことが求められます。安全基準や環境基準等の導入を通じて、相手国の公益を増進すると同時に、日本の建設業が強みを発揮し得る分野について潜在的な需要を掘り起こしていく取組も重要です。国土交通省と海外建設協会は、フィリピン、マレーシア、インド、ベトナム等において二国間の建設業の協働関係の構築に向けた会議を開催しており、各国の建設業が有する強みを日本の建設業の海外展開に活用する取組が進められています。
建築業界が国際競争力を回復するためには、デジタル技術の徹底活用が不可欠です。世界デジタル競争力ランキングで日本は2024年に31位となり、前年から1つ順位を上げましたが、人材やビジネスの俊敏性といった要素で遅れており、韓国や台湾など他の東アジア諸国との差は縮まっていません。
参考)https://www.docusign.com/ja-jp/blog/how-should-Japan-go-digital
建築業界におけるデジタル化の推進として、以下のような具体的な施策が考えられます。
日本の建設業の海外展開においては、現地におけるネットワークの形成・維持に注力し、現地顧客からの受注、現地における資機材・人材の確保、現地関係業界との協働関係の構築等を図り、一層のローカライゼーションを進めていくことが必要です。グローバルな企業として事業を展開していくためには、進出した国・地域のみで完結する事業モデルではなく、それぞれの国・地域で形成したネットワークをグローバルに活用していくことが期待されます。
リスクコントロールの強化も重要な課題です。建設業における貿易保険制度の活用状況は他業界と比べ概して低く、リスクコントロールのための資源配分も十分とは言えません。既存の制度や他産業で活用されているリスク管理手法を積極的に活用するとともに、必要なリソースを配分しリスクコントロールの強化に向けた体制を構築していくべきです。
経済産業研究所(RIETI)によるIMD競争力ランキングの詳細分析と対談記録
日本の競争力低下の要因分析と今後の方向性について、IMD北東アジア代表と経済産業省幹部による建設的な議論が記録されています。
国土交通省による建設業の海外展開戦略研究会報告書
建設業の国際競争力強化のための具体的な施策と、建設外交の推進、人材育成の方向性が詳述されています。