
効率性分析とは、企業が保有する資産をどれだけ効率良く売上高に転換できているかを測定する経営分析手法です。建設業では、完成工事高に対して総資産や棚卸資産、固定資産がどの程度効率的に活用されているかを定量的に評価することで、経営改善の方向性を明確にできます。効率性分析における主要な指標には、総資産回転率、棚卸資産回転率、固定資産回転率、受取勘定回転率などがあり、それぞれが異なる視点から企業の資産活用状況を示します。
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建設業特有の経営環境では、プロジェクトごとに大きな資材や設備投資が必要となり、工事の進捗に応じて資産の状態が大きく変動します。そのため、効率性指標を定期的にモニタリングすることで、資金繰りの問題や資産の遊休化を早期に発見し、適切な対策を講じることが可能になります。建設業情報管理センターの調査によると、平成26年度における建設業全体の棚卸資産回転率は72.35回転となっており、これは業界平均として参考になる数値です。
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効率性分析の実施により、経営者は自社の強みと弱みを客観的に把握できるだけでなく、同業他社や業界平均と比較することで競争力の現状を理解できます。特に建設業では、総資本回転率が20年間にわたり1.16回転から1.33回転の範囲で推移しており、この数値を基準として自社の位置づけを評価することが重要です。また、効率性指標は収益性や安全性といった他の財務指標と組み合わせることで、より多角的な経営分析が可能となります。
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総資産回転率は、企業の総資産が1年間に何回売上高という形で回転したかを示す指標で、「売上高÷総資産」という計算式で求められます。この数値が高いほど、保有する資産を効率的に活用して売上を生み出していることを意味します。建設業における総資産回転率の業界平均は1.09回転とされており、製造業の0.96回転や小売業・卸売業と比較すると中程度の水準にあります。
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総資産回転率を向上させるためには、2つのアプローチがあります。第一に、総資産を増やさずに販売戦略や営業活動の強化によって売上高を増加させる方法です。第二に、売上高を維持しながら不要な資産を処分したり、遊休資産を活用したりすることで総資産を圧縮する方法です。建設業では、資材置き場や重機などの固定資産が多額になる傾向があるため、これらの稼働率を高めることが効率性向上の鍵となります。
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総資産回転率は日数で表されることもあり、「総資産が売上高の何日分に相当するか」という視点から分析できます。例えば、総資産回転率が1.2回転の場合、365日÷1.2≒304日となり、総資産が約10ヶ月分の売上高に相当することを示します。この日数が短いほど資産効率が良いと評価されます。また、総資産回転率はROA(総資産利益率)の構成要素でもあり、「売上高当期純利益率×総資産回転率」という分解式によって、収益性と効率性の両面から企業の総合的な収益力を分析できます。
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棚卸資産回転率は、材料や仕掛品などの在庫がどれだけ速く販売されて回転しているかを示す指標で、「売上高÷棚卸資産平均」または「売上原価÷棚卸資産平均」という計算式で求められます。建設業では、材料貯蔵品や販売用不動産を含めて棚卸資産回転率を測定するのが一般的で、平成26年度の業界平均は72.35回転と非常に高い数値を示しています。これは、建設業が受注生産型のビジネスモデルであり、過剰在庫を抱えにくい業態であることを反映しています。
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棚卸資産回転率が高いほど、在庫の滞留が少なく資本効率が良いと評価されます。例えば、売上高5,000万円で棚卸資産平均500万円のA社は回転率10回転ですが、売上高が同じ5,000万円で棚卸資産平均300万円のB社は回転率16.7回転となり、B社の方が資本効率が優れていると判断できます。建設業では、プロジェクトごとに必要な資材を適切なタイミングで調達することが重要で、過剰発注や早期発注は資金を圧迫する要因となります。
棚卸資産回転期間は、在庫がどの程度の期間で販売されるかを日数で示す指標で、「365日÷棚卸資産回転率」で計算されます。この期間が短いほど在庫の回転が速く、資金繰りに余裕が生まれます。建設業における棚卸資産回転率の改善には、Just-In-Time方式による資材調達、デジタル技術を活用した在庫管理システムの導入、プロジェクト間での資材融通の仕組み構築などが効果的です。また、売上高規模が小さい企業ほど棚卸資産回転率が高い傾向があるため、企業規模に応じた適正在庫水準の設定が重要です。
参考)https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2016/02/bunseki_H26.pdf
建設業における労働生産性は、従業員一人当たりの完成工事高や従業員一人当たりの付加価値額によって測定されます。従業員一人当たりの完成工事高は「完成工事高÷従業員数」で計算され、人的効率を表す指標です。一方、従業員一人当たりの付加価値額は「付加価値額÷従業員数」で算出され、この数値が高いほど一人当たりの労働生産性が高いと評価されます。付加価値額は「完成工事高-(材料費+労務外注費+外注費)」という計算式で求められ、企業が生み出した本質的な価値を示します。
参考)建設業経営者が持つべき危機意識と、経営分析の計算方法とは
中小企業庁が公表している建設業分野の経営力向上指針では、労働生産性の基本指標として「(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働投入量」が推奨されています。また、建設業に特化した指標として「(完成工事総利益+完成工事原価のうち労務費)÷直庸技能労働者数」も用いられており、これらの指標を定期的にモニタリングすることで、労働力の効率的な活用状況を把握できます。労働生産性は「労働装備率×有形固定資産回転率×付加価値率」という分解式でも表現でき、設備投資や資産活用の観点からも分析可能です。
参考)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/kihonhoushin/shishinbunya12.pdf
労働生産性を向上させるためには、業務プロセスの効率化とデジタル技術の活用が不可欠です。具体的には、タブレット端末を活用したリアルタイム情報共有システムの導入により情報伝達時間を60%削減した事例や、IoTセンサーによる資材管理で在庫金額を40%減少させた事例が報告されています。また、BIM(Building Information Modeling)とリーン建設の原則を組み合わせることで、設計段階での無駄を削減し、プロジェクト全体の管理効率を大幅に向上させることができます。三井住友建設では、現場ノンコア業務の集約効率化によって生産性向上を実現しており、安全・品質・工程・原価といったコア業務に集中できる環境を整備しています。
参考)https://www.mdpi.com/2075-5309/13/3/654/pdf?version=1677739892
固定資産回転率は、建物や機械設備などの固定資産がどれだけ効率的に売上高の創出に貢献しているかを示す指標で、「売上高÷固定資産」という計算式で求められます。建設業では、重機や車両、事務所建物などの固定資産が経営資源の大きな部分を占めるため、この指標による分析が特に重要です。建設業情報管理センターのデータによると、売上高規模が小さい企業ほど固定資産回転率が高い傾向にあり、これは大規模な設備投資を抑制しながら外注や機械レンタルを活用している経営スタイルを反映しています。
参考)https://www.keiri-kentei.jp/data/pdf/exam/R6A_hiritu.pdf
固定資産回転率を改善するには、遊休資産の売却や処分、機械設備の稼働率向上、シェアリングエコノミーの活用などが有効です。例えば、複数のプロジェクト間で重機を効率的に配分する仕組みを構築することで、固定資産への投資を抑制しながら売上を維持・拡大できます。また、リース契約やレンタルの活用により、固定資産を圧縮してバランスシート上の総資産を減らすことも効率性向上につながります。建設業経理士検定試験の財務分析主要比率表では、固定資産回転率は活動性分析の重要指標として位置づけられており、経営資本回転率や自己資本回転率とともに総合的に評価されます。
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実際の改善事例として、清水建設では配筋検査の効率化と品質向上にデジタル技術を導入し、現場管理の効率化に成功しています。また、真柄建設ではPCログと連動した出勤簿システムを導入し、残業実績データを部門別・個人別に分析することで労働時間の効率化を推進しています。これらの取り組みは、直接的には労働生産性の向上を目指すものですが、結果として固定資産の稼働率向上や総資産回転率の改善にも寄与します。効率性指標は単独で見るのではなく、収益性指標(完成工事営業利益率、完成工事経常利益率など)や安全性指標とともに多角的に分析することで、経営課題の本質を明らかにし、実効性の高い改善策を立案できます。
参考)建設業がまず行うべき業務効率化とは?効率化に成功した事例も紹…
効率性分析を経営改善に活かすためには、適切なKPI(重要業績評価指標)の設定と継続的なモニタリングが不可欠です。KPIには財務KPI、顧客KPI、プロセスKPI、マーケティングKPIなど様々な種類がありますが、効率性分析においてはプロセスKPIが特に重要です。プロセスKPIは業務プロセスの効率性を測る指標であり、生産性は業務の効率を、リードタイムは業務の所要時間を、不良率は品質管理の状況を評価します。これらの指標は業務改善の方向性を示し、企業の競争力向上に寄与します。
参考)KPI設定の完全ガイド|失敗しない選定から運用まで解説【20…
建設業における効率性KPIの具体例としては、工事原価管理の精度向上を測定する原価差異率、現場ごとの進捗状況を把握するための工程達成率、資材調達の効率性を示す調達リードタイム短縮率などが挙げられます。これらのKPIを設定する際には、SMART原則(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)に基づいて目標値を設定することが重要です。また、ローカルベンチマークなどの参考ツールを活用し、業種別・規模別の基準値と自社の実績を比較することで、客観的な評価が可能になります。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/pdf/changepoint2018.pdf
継続的モニタリングの実践においては、デジタル技術の活用が効果的です。例えば、A建設が手がけた超高層ビル建設現場では、全作業員にタブレット端末を配布してリアルタイム情報共有システムを導入し、情報伝達時間を60%削減しました。また、IoTセンサーを活用した資材管理システムにより在庫状況をリアルタイムで把握し、在庫金額を40%減少させ、工期を2週間短縮することに成功しています。中外電工では、20時以降の残業や休日出勤に事前承認制を導入し、未申請の場合はパソコンを強制的にシャットダウンする仕組みを構築することで、長時間労働の是正と業務効率化を実現しました。
参考)2025年最新版【建設業の業務改善と効率化】実践的な改善手法…
効率性指標のモニタリングにおいて重要なのは、単に数値を追跡するだけでなく、その背景にある業務プロセスや組織文化の問題を深掘りすることです。例えば、総資産回転率が業界平均より低い場合、その原因が過剰な在庫保有にあるのか、固定資産の遊休化にあるのか、あるいは売上獲得活動の不足にあるのかを特定する必要があります。原因分析には、財務三表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)を活用し、「収益性・効率性・安全性・成長性・総合力」という5つの視点から多角的に検討することが推奨されます。このような体系的なアプローチにより、効率性分析は単なる数値管理から戦略的な経営改善ツールへと進化し、建設業の持続的成長を支える基盤となります。
効率性分析における4つの指標や生産性分析との違いを解説 - jinjer株式会社
【建築業】経営分析とは?方法、目的、重要な指標を解説 - アイピアネット
建設業分野に係る経営力向上に関する指針 - 国土交通省(PDF)