無水マレイン酸構造式の書き方!マレイン酸の脱水と共鳴

無水マレイン酸構造式の書き方!マレイン酸の脱水と共鳴

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無水マレイン酸の構造式完全ガイド
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構造式の書き方

五員環の描き順と二重結合の位置をマスター

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脱水反応と異性体

マレイン酸(シス型)とフマル酸(トランス型)の違い

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現場での役割

不飽和ポリエステル樹脂(FRP)の原料としての重要性

無水マレイン酸構造式の書き方

建築や製造の現場で「樹脂」を扱う際、その原料である化学物質の正体を知っておくことは、品質管理や安全管理の上で非常に重要です。特にFRP(繊維強化プラスチック)などの不飽和ポリエステル樹脂の主原料となる「無水マレイン酸」は、名前は知っていても、その具体的な形(構造式)まで即座にイメージできる人は少ないかもしれません。
この記事では、無水マレイン酸の構造式を正確に書く手順を解説しながら、なぜその形になるのか、現場でどう役立っているのかを深掘りしていきます。構造式を書くことは、その物質の性質を理解する第一歩です。

無水マレイン酸の基本構造とマレイン酸からの脱水

 

無水マレイン酸の構造式を書く前に、まずその「出自」を理解しましょう。名前の通り、これは「マレイン酸」から「水(H₂O)」が無い状態になったものです。これを化学用語で脱水と言います。


  • マレイン酸とは?
    マレイン酸は、炭素数が4つのジカルボン酸です。化学式はC₄H₄O₄。
    重要なのは、炭素の二重結合(C=C)を中心にして、2つのカルボキシ基(-COOH)が同じ側(シス型)についているということです。

  • 脱水反応のメカニズム
    マレイン酸を加熱すると、隣り合った2つのカルボキシ基から水分子(H₂O)が1つ抜けます。
    具体的には、一方の-COOHからOHが、もう一方の-COOHからHが取れて結合します。
    この結果、残った酸素原子が橋渡しをする形で環状の構造が出来上がります。これが無水マレイン酸(C₄H₂O₃)です。

この反応を理解していると、構造式を書くときに「どこに二重結合があるんだっけ?」「酸素はいくつだっけ?」と迷うことがなくなります。「マレイン酸の腕と腕がくっついた形」とイメージするのが最初のステップです。
無水マレイン酸 - Wikipedia(基本的な化学的性質と合成法)
参考)無水マレイン酸 - Wikipedia

無水マレイン酸の構造式をきれいに書く手順

では、実際に紙やホワイトボードに無水マレイン酸の構造式を書く際の手順を解説します。バランスの良い五員環(ごいんかん:原子5個でできた輪)を書くのがポイントです。


  1. 酸素原子(O)を頂点に配置する
    まず、酸無水物の特徴である酸素原子を一つ書きます。通常は上、または右側に書くことが多いですが、ここではわかりやすく「上」に書くスタイルで説明します。

  2. カルボニル炭素(C=O)を描く
    その酸素原子の両斜め下に、炭素原子(C)を書きます。
    そして、それぞれの炭素原子の外側に、二重結合で酸素原子(=O)を付けます。この「C=O」の部分をカルボニル基と呼びます。この時点で、ウサギの耳のような形になります。

  3. 炭素間の二重結合で閉じる
    最後に、先ほど書いた2つの炭素原子の下側を、二重結合(=)で結びます。
    ここにさらに炭素(C)を書く必要はありません。マレイン酸の炭素骨格はC-C=C-Cの4つですが、環状になるときは酸素を挟んでつながるためです。
    ただし、骨格だけを描く場合(線だけで表す場合)は、五角形の下辺を二重線にします。

  4. 水素原子(H)を補う
    二重結合で結ばれた下の2つの炭素原子には、それぞれ水素原子が1つずつ付いています。丁寧な構造式を書く場合は、このHも忘れずに書き足しましょう。

完成した形は、酸素を頂点とした五角形で、底辺に二重結合があり、左右に飛び出した酸素(=O)がある、という非常に特徴的な形状になります。
無水マレイン酸の分子モデルと構造式(3Dモデルでの確認)
参考)無水マレイン酸

無水マレイン酸とフマル酸の立体異性体としての違い

無水マレイン酸を語る上で避けて通れないのが、「なぜ『無水フマル酸』ではないのか?」という疑問です。ここには構造異性体(立体異性体)の面白さがあります。


  • シス型(マレイン酸)
    マレイン酸は、炭素の二重結合に対して、2つのカルボキシ基が「同じ側」にあります。距離が近いため、加熱すると容易に手をつないで脱水し、環状の無水マレイン酸になれます。

  • トランス型(フマル酸)
    一方、フマル酸はマレイン酸の異性体ですが、カルボキシ基が「反対側」についています(トランス型)。
    構造式を書くとわかりますが、カルボキシ基同士が遠すぎて、物理的に手をつなぐ(脱水反応を起こして環を作る)ことができません。
    そのため、フマル酸を単に加熱しても無水物にはならず、非常に高温にして無理やり分子をねじ曲げる(異性化させる)等の工程を経ない限り、無水マレイン酸にはなりません。

現場で「マレイン酸」と「フマル酸」が混同されることがありますが、**「無水物を作れるのはマレイン酸だけ(シス型だから)」**と覚えておけば、構造式の書き方も自然と思い出せるはずです。
マレイン酸とフマル酸の構造の違い(映像授業での解説)
参考)【高校化学】「マレイン酸とフマル酸」

現場で役立つ無水マレイン酸と不飽和ポリエステル

ここからは少し視点を変えて、建築・建設現場の実務に関連する話をします。なぜ私たちがこの化学物質の構造式を知っておく必要があるのでしょうか?それは、この構造が不飽和ポリエステル樹脂の性能を決定づけているからです。


  • 架橋反応の鍵となる「二重結合」
    無水マレイン酸の構造式の下部にある「炭素間の二重結合(C=C)」。これこそが樹脂として硬化する際の主役です。
    不飽和ポリエステル樹脂は、無水マレイン酸とグリコール類を反応させて作りますが、この二重結合は反応せずにそのまま残ります。
    現場で硬化剤を入れると、この残った二重結合がスチレンなどの架橋剤と手をつなぎ、網目状の強固な構造(FRP)へと変化します。

  • 用途:水周りからタンクまで
    この反応によって作られる樹脂は、耐水性や強度が非常に高いため、浴槽(バスタブ)防水パン浄化槽貯水タンクなどの建材として広く利用されています。
    もし無水マレイン酸の構造にこの二重結合がなければ、樹脂は固まらず、FRPとしての強度も出ません。

  • 現場での危険性
    無水マレイン酸は、水と反応するとマレイン酸に戻りますが、この反応は発熱を伴います。
    また、粉塵は眼や呼吸器に対して強い刺激性(腐食性)を持ちます。現場で原料として扱う場合、構造式中の反応性の高い部分(酸無水物基)が、生体の粘膜とも激しく反応することを意識し、防塵マスクやゴーグルの着用を徹底する必要があります。

不飽和ポリエステル樹脂の用途と機能(レゾナックの技術情報)
参考)不飽和ポリエステル樹脂

無水マレイン酸のGHS対応モデルSDS(安全データシート)
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0203.html

無水マレイン酸の共鳴構造と電子の動き

最後に、検索上位の記事にはあまり書かれていない、少し専門的かつ独自視点の解説を加えます。それは共鳴(レゾナンス)についてです。構造式は一つだけ書いて終わりではありません。
通常、無水マレイン酸の構造式は「二重結合と単結合が固定されたもの」として描かれますが、実際には電子はもっと自由に動いています。


  1. 電子の非局在化
    無水マレイン酸の五員環には、二重結合(C=C)とカルボニル基(C=O)が交互に並んでいるように見えます(実際には間に単結合がありますが)。
    酸素原子は電気陰性度が高いため、電子を引っ張ります。これにより、環の中のπ電子(パイでんし)が酸素の方へと引き寄せられ、分子全体で電子の偏りが生じます。

  2. なぜ平面構造なのか
    無水マレイン酸の分子は、ほぼ完全に平らな形(平面構造)をしています。
    これは、共鳴によって電子が環全体に行き渡り、構造が安定化しているためです。この「平らである」という特徴は、他の分子と重なり合ったり、化学反応を起こしたりする際に非常に有利に働きます。

  3. 反応性への影響
    構造式を書くとき、二重結合の場所を意識しましたが、共鳴構造を考えると、この二重結合部分は電子が不足しがち(プラスに帯電気味)になります。
    そのため、電子を豊富に持っている他の分子(ジエンなど)からの攻撃を受けやすくなります。これが、接着剤や合成ゴムの原料として使われる際の「反応のしやすさ」の正体です。

単に「五角形を書けばいい」のではなく、「電子が引っ張り合って、平らで反応しやすい状態になっている」とイメージしながら構造式を書くと、プロフェッショナルとしての理解が深まります。
有機化学における共鳴構造式の書き方と意味(大学レベルの解説)
参考)【有機化学】共鳴構造式の意味・書き方を解説!【例題付き】

 

 




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