
鍋ネジ(なべ小ねじ)は、JIS B 1111で規定された日本の標準規格に基づいて製造されています。鍋をひっくり返したような頭部形状が特徴で、現在最も多く使用されている小ねじの代表格です。
規格表示では、材質・表面処理・ねじの種類・呼び径・呼び長さで表現されます。例えば「鉄ニッケルナベ3×6」の場合、材質「鉄」、表面処理「ニッケルメッキ」、「ナベ小ねじ」の呼び径「M3」、呼び長さ「6mm」を意味します。
基本的な呼び径範囲はM2からM8までで、すりわり付きなべ小ねじの場合はM1からM8まで対応しています。強度区分は鋼小ねじで4.8と8.8が標準です。
標準的な鍋ネジの寸法は以下の通りです:
呼び径 | 頭部径(mm) | 頭部高さ(mm) | 十字穴番号 | 呼び長さ範囲(mm) |
---|---|---|---|---|
M2 | 3.5 | 1.3 | 1 | 4-20 |
M2.5 | 4.5 | 1.7 | 2 | 5-30 |
M3 | 5.5 | 2.0 | 2 | 5-40 |
M4 | 7.0 | 2.6 | 2 | 6-50 |
M5 | 9.0 | 3.3 | 3 | 8-50 |
M6 | 10.5 | 3.9 | 3 | 8-60 |
M8 | 14.0 | 5.2 | 3 | 10-60 |
詳細な規格表では、頭部径(dk)、頭部高さ(k)、十字穴の深さ(m)について、それぞれ基準寸法と許容差が定められています。M2の場合、頭部径は3.5mm(許容差0~-0.4mm)、頭部高さは1.3mm(許容差±0.1mm)となっています。
鍋ネジの材質は主に鋼(炭素鋼)、ステンレス鋼、黄銅の3種類があります。建築現場では用途に応じて材質を選択することが重要です。
鋼製鍋ネジは最も一般的で、表面処理として三価ホワイト、三価ブラック、ニッケルメッキが施されます。三価ホワイトは環境に配慮した防錆処理として広く採用されており、従来の六価クロムに代わる標準的な表面処理です。
ステンレス製鍋ネジは生地(無処理)のまま使用され、M2からM10まで幅広いサイズ展開があります。耐食性に優れており、屋外や湿気の多い環境での使用に適しています。
半ネジタイプ(ネジ部50)も製造されており、M2.6からM8のサイズで提供されています。これは部分的にねじ山を設けることで、特定の締結条件に対応した製品です。
鍋ネジと皿ネジの最も重要な違いは、締結後の表面状態にあります。鍋ネジは板金の表面にネジ頭が出っ張った状態で止まるのに対し、皿ネジは表面が平らになります。
皿ネジを使用するためには、ねじ穴の周辺を皿状に削り取る皿加工が必要です。これに対して鍋ネジは、通常の穴あけ加工のみで使用できるため、施工の簡易性において優位性があります。
また、鍋ネジは十字穴の座面積が大きく、ドライバーにしっかりかみ合うため強く締め付けることができます。皿小ねじと比較して、締付けトルクの伝達効率が高いという特徴があります。
位置決め精度の面では、皿ネジの方が物を正確な位置に固定できるという利点がありますが、鍋ネジは汎用性が高く、特に決まった用途がない場合の第一選択肢となっています。
建築現場における鍋ネジの選定では、環境条件と荷重条件を最優先に考慮する必要があります。特に、屋外使用では耐候性を重視してステンレス製を選択し、屋内の一般的な締結にはコストパフォーマンスに優れた鋼製を使用するのが基本です。
マイクロねじという特殊な鍋ネジも存在し、JIS B 1111付属書規格の頭部高さに比べて3種でおよそ30%、1種でおよそ50%低い設計となっています。これは薄型機器や精密部品の締結に使用される特殊規格です。
座金組込みねじ(セムスねじ)として、あらかじめ座金が組み込まれた鍋ネジも製造されています。製造工程でねじ山を作る前に座金を組み込むため、座金の脱落防止と作業効率の向上を同時に実現できます。
建築現場での独自の活用法として、電気設備の配線器具取付けや内装パネルの仮止めにも鍋ネジが使用されます。特に、M3サイズは電気工事における標準的なサイズとして定着しており、配電盤や制御盤の組立てに欠かせない存在となっています。
また、0番ねじという特殊な十字穴規格も存在し、M1.4の#0番から規格化されていますが、それ以下の径は各社独自規格として製作対応されています。これらは精密機器や電子機器の組立てで使用される超小型の鍋ネジです。