
日本建築学会(AIJ: Architectural Institute of Japan)は、建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達を図ることを目的として1886年(明治19年)に設立された日本の学会です。当初は「造家学会」として発足し、現在では一般社団法人として運営されています。会員数は3万5千名を超え、研究教育機関、総合建設業、設計事務所をはじめ、官公庁、公社公団、建築材料・機器メーカー、コンサルタント、学生など多様な分野から構成されています。
建築学会は単なる研究発表の場にとどまらず、建築界全体の発展と社会への貢献を目指し、調査研究の振興、情報の発信と収集、教育と建築文化の振興、業績の表彰、国際交流、提言・要望など幅広い事業を展開しています。特に専門分野別に設置された16の常置調査研究委員会と、その下に設けられた約560の小委員会やワーキンググループでは、延べ7,000名の委員が年間約2,300回の会合を開いて専門的な調査研究活動を行っています。
日本建築学会大会は、建築に関する研究成果や技術開発の発表の場として毎年開催される重要なイベントです。全国を巡回する形式で開催され、研究論文の発表だけでなく、企業の規模に関わらず技術発表や建築デザインに関する発表など、多彩なプログラムが用意されています。
2024年度の大会は関東地区で開催され、「暮らす」をキーワードに、都市の暮らし方や豊かさの価値について考える機会となりました。大会では学術講演会や建築デザイン発表会のほか、研究協議会、研究懇談会、パネルディスカッションなど様々な形式での意見交換が行われています。
大会の特徴的なプログラムとしては以下のようなものがあります。
これらのプログラムを通じて、最新の研究成果や技術動向について情報交換が行われ、建築界全体の発展に寄与しています。
日本建築学会賞は、建築分野における最も権威ある賞の一つとして知られています。この賞は、建築に関する学術・技術・芸術の発展に貢献した優れた業績を表彰するもので、複数のカテゴリーに分かれています。
2025年の日本建築学会賞では、以下のカテゴリーで受賞者が選ばれました。
【日本建築学会賞(論文)】
近年中に完成し発表された研究論文であって、学術の進歩に寄与する優れた論文が対象です。2025年は以下のような研究が選ばれています。
【日本建築学会賞(作品)】
近年中、主として国内に竣工した建築の設計(庭園・インテリア,その他を含む)であって、技術・芸術の進歩に寄与する優れた作品が対象です。2025年は「天神町place」や「高槻城公園芸術文化劇場」などが選ばれています。
【日本建築学会賞(技術)】
近年中に完成した建築技術であって、技術の発展に寄与し、優れた成果に結実した技術が対象です。2025年は「建物内完結型バイオガスシステムの開発と展開」などが選ばれています。
これらの賞は、建築界における最先端の研究や技術、デザインの方向性を示す指標となっており、業界全体の発展に大きく貢献しています。
日本建築学会は、建築に関する専門的知見を活かし、社会的課題に対する提言活動も積極的に行っています。これらの提言は、建築業界だけでなく、政策決定や社会全体に影響を与える重要な役割を果たしています。
近年の主な提言としては以下のようなものがあります。
関東大震災から100年を経て、災害に強い建築やまちづくりの新たな指針を示しています。
持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた建築分野からの具体的なアクションプランを提示しています。
原発事故の影響に対する建築的観点からの対策を提言しています。
公共建築物の設計者選定における課題と改善策について言及しています。
京都アニメーション放火火災を踏まえた防火・安全対策の強化を提言しています。
これらの提言は、学会のウェブサイトで公開されており、多くの場合、パンフレットや報告書・資料集としてまとめられています。建築関係者はこれらの提言を参考にすることで、社会的責任を果たしながら専門性を高めることができます。
日本建築学会は、建築教育の質の向上と次世代の建築家・研究者の育成にも力を入れています。学会と教育機関との連携は、理論と実践を結びつける重要な役割を果たしています。
学会大会では、「日本建築学会全国大学高専卒業設計展示会」が同時開催されることが多く、若手の才能を発掘し、評価する場となっています。例えば、過去の大会では通信教育部造形学部建築学科から安武朋美さんの卒業研究「博多といふまち 〜参道から學、感じる〜」が出展されるなど、学生の研究成果を広く公開する機会が提供されています。
また、学会では「日本建築学会奨励賞」を設け、会員により近年中に発表された独創性・萌芽性・将来性のある建築に関する優れた論文等の業績を表彰しています。2025年の受賞者には、以下のような若手研究者が選ばれています。
このような若手研究者の表彰は、次世代の建築研究を奨励し、業界全体の活性化につながっています。
建築業界においてもデジタル化・自動化の波が押し寄せており、日本建築学会でもこの分野の研究が活発に行われています。2024年の学会大会では「建築施工の自動化・ロボット化の変遷と今後―ロボットを建築現場で有効活用する秘策はあるのか」というテーマでオンライン研究会が開催されるなど、最新技術の導入に関する議論が進んでいます。
建築のデジタル化・自動化に関する主な研究トレンドとしては以下のようなものがあります。
設計から施工、維持管理までの一貫したデジタルデータ活用に関する研究が進んでいます。
2025年の学会賞受賞論文にも見られるように、深層学習などのAI技術を建築構造解析や環境シミュレーションに応用する研究が増えています。
施工現場での自動化・ロボット化に関する研究が進み、労働力不足や安全性向上、生産性向上などの課題解決が期待されています。
3Dプリンティングなどのデジタル製造技術を建築に応用する研究が進んでいます。
センサーネットワークを活用したスマートビルディングの研究開発が進んでいます。
これらの技術革新は、建築の設計・施工・維持管理のあり方を大きく変える可能性を秘めており、日本建築学会はこうした新技術の評価や標準化にも取り組んでいます。
建築業界に携わる専門家は、こうした最新の研究動向を把握し、自身の業務に取り入れることで、競争力を維持・向上させることができるでしょう。日本建築学会の大会や各種発表会は、そのための貴重な情報源となっています。
日本建築学会の2025年各賞受賞者の詳細情報
2024年度日本建築学会大会[関東]の公式サイト
日本建築学会の提言一覧ページ
日本建築学会は、建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達を図る中心的な組織として、今後も建築界全体の発展に貢献し続けるでしょう。建築に携わる専門家は、学会の活動に参加し、最新の研究成果や技術動向を把握することで、自身の専門性を高め、社会的課題の解決に貢献することができます。
建築は単なる技術や芸術にとどまらず、社会全体の持続可能性や人々の暮らしの質に直結する重要な分野です。日本建築学会の活動を通じて、より良い建築環境の創造に向けた取り組みが今後も続いていくことでしょう。