オールケーシング工法のケーシングチューブと場所打ち杭の施工の精度

オールケーシング工法のケーシングチューブと場所打ち杭の施工の精度

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オールケーシング工法の要点
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鉄壁の孔壁保護

ケーシングチューブを全長に使用し、崩壊を完全防止。

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全旋回と揺動

地盤の硬さに応じて回転方式を使い分け、障害物も撤去。

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引き抜きの難所

周面摩擦によるチューブの固着(ジャミング)に要注意。

オールケーシング工法のケーシングチューブ

オールケーシング工法は、場所打ちコンクリート杭の施工において最も信頼性が高いとされる工法の一つです。その最大の特徴は、掘削孔の全長にわたって「ケーシングチューブ」と呼ばれる鋼製の円筒を挿入することにあります。このチューブは単なる型枠ではなく、地盤の崩壊を防ぎ、高い鉛直精度を維持するための「要」となる存在です。
建設現場、特に都市部の不安定な地盤や、地下水位の高いエリアでの施工管理において、このケーシングチューブの取り扱いは工期と品質を左右します。アースドリル工法やリバース工法と比較しても、コストは掛かりますが、その分「失敗が許されない現場」で選定される技術です。ここでは、ケーシングチューブが果たす物理的な役割から、現場監督が知っておくべき運用上の注意点までを深掘りします。

オールケーシング工法のケーシングチューブによる孔壁保護と地盤

オールケーシング工法において、ケーシングチューブが果たす最大の役割は「物理的な孔壁の保護」です。アースドリル工法が安定液(ベントナイト溶液)の水圧で孔壁を保持するのに対し、オールケーシング工法は鋼鉄の壁で土砂を物理的に遮断します。


  • 崩壊の完全防止: 軟弱な粘性土や、ボイリング(砂質土での底面破壊)が起きやすい地盤でも、チューブが遮断壁となるため、掘削中の孔壁崩壊リスクが極めて低くなります。

  • 地下水の影響遮断: 被圧地下水がある地盤でも、チューブのジョイント(継ぎ手)が密閉されていれば、外部からの水の流入を防ぎ、良質なコンクリート打設が可能になります。

  • 鉛直精度の保持: 剛性の高いチューブがガイドとなるため、掘削の鉛直精度(垂直に掘る正確さ)が保たれやすく、杭の傾斜を防ぎます。

ケーシングチューブ自体の構造も非常に堅牢に作られています。一般的に使用されるチューブは、厚さ数センチメートルの高張力鋼で作られており、先端には「カッティングエッジ」と呼ばれる超硬合金のビットが溶接されています。
一般社団法人 基礎施工協会:場所打ちコンクリート杭工法の技術詳細と環境対応について
※上記リンクには、各工法の適用範囲やケーシングチューブによる孔壁保護のメカニズムが詳細に記載されており、施工計画の参考になります。
また、地盤の特性に合わせたチューブの選定も重要です。例えば、巨石や転石が混じる地盤では、通常よりも肉厚のチューブや、強化されたカッティングエッジを使用することで、障害物を切削しながら貫入させることが可能になります。これにより、従来であれば施工不能とされた地盤でも、杭の構築が可能となるのです。

オールケーシング工法のケーシングチューブの揺動と全旋回の違い

ケーシングチューブを地中に圧入する方法には、大きく分けて「揺動(ようどう)式」と「全旋回(ぜんせんかい)式」の2種類が存在します。現場の状況や地盤の硬さによって使い分けられますが、それぞれの特性を理解していないと、施工トラブルの原因となります。

特徴 揺動式(ベノト工法) 全周回転式(オールケーシング工法)
動作 左右に反復してねじり込む 360度一方向に回転し続ける
掘削能力 普通土、砂礫層に適する 岩盤、地中障害物、巨石に対応可能
騒音・振動 比較的大きい 比較的小さい
機械規模 中型〜大型 大型(強力なトルクが必要)
精度 鉛直精度の管理が必要 非常に高い鉛直精度を維持しやすい


揺動式のメカニズムと注意点
揺動式は、一般的に「ベノト掘削機」とも呼ばれます。ケーシングチューブを左右に揺さぶりながら(オシレートさせながら)押し込みます。


  • メリット: 比較的設備が簡易で、コストを抑えやすい。

  • デメリット: 掘削深度が深くなると、チューブと地盤の周面摩擦が増大し、揺動だけでは押し込み・引き抜きが困難になる場合があります。また、左右の動きを繰り返すため、長時間施工すると孔壁周辺の地盤を緩めてしまうリスクがあります。

全旋回式のメカニズムと優位性
全旋回式は「ローテーター」や「全周回転機」を使用します。チューブを一方向に回転させ続け、カッティングエッジで地盤を「切削」しながら進みます。


  • 切削能力: 鉄筋コンクリート製の既存杭や、硬い岩盤であっても、ケーシングチューブ自体が巨大なドリルとなって切削・貫通します。

  • 引き抜きの容易さ: 常に回転しているため、静止摩擦が働きにくく、深い深度でも引き抜き抵抗を低減できます。

施工管理においては、N値50を超えるような硬質地盤や、古い建物の基礎が残っている可能性がある場合は、迷わず全旋回式を選定することが、工程遅延を防ぐ鍵となります。

オールケーシング工法のケーシングチューブとハンマグラブの掘削

ケーシングチューブの圧入とセットで行われるのが、ハンマグラブによる掘削作業です。この連携作業こそが、オールケーシング工法の心臓部と言えます。


  1. 掘削サイクルの基本


    • まず、ケーシングチューブを先行して圧入します。

    • 次に、チューブ内部にハンマグラブ(クラムシェルバケットのような形状をした重機のアタッチメント)を落下させます。

    • グラブの自重と爪の閉じる力で土砂を掴み、地上へ排土します。

    • この「圧入→掘削→排土」のサイクルを繰り返して、支持層まで到達させます。


  2. スライム処理の重要性
    掘削が完了した後、杭の底(孔底)には「スライム」と呼ばれる掘削屑や沈殿物が溜まります。これが残っていると、コンクリートと支持層の間に泥の層ができ、杭の支持力が著しく低下します。


    • 一次処理: ハンマグラブで可能な限り底の土砂を取り除きます。

    • 二次処理: 鉄筋かごを挿入した後、トレミー管や水中ポンプを使って、底に溜まった微細なスライムを吸い上げます。

    • ケーシングチューブがあることで、外部からの土砂流入がないため、スライム処理の品質確認(検測)が確実に行えるのもメリットです。


  3. 掘削時のトラブル:ボイリングとヒービング
    ケーシングチューブは万能に見えますが、チューブ先端よりも深く掘りすぎてしまう(先掘り)と、チューブの外側から土砂が回り込んでくる「ボイリング(砂質土)」や「ヒービング(粘性土)」が発生します。


    • 対策: 常に「ケーシング先端 > 掘削底面」の位置関係を保つことが鉄則です。特に地下水位が高い場所では、チューブ内に注水して水圧バランス(水頭差)を保つ管理(水張り施工)が不可欠です。

一般社団法人 日本建設あと施工アンカー協会:施工技術と安全管理の指針
※あと施工アンカーの協会ですが、コンクリート打設や穿孔技術に関する資料が豊富で、基礎杭の品質管理にも通じる知見が得られます。

オールケーシング工法のケーシングチューブと鉄筋かごの施工管理

掘削が完了すると、鉄筋かごの建込みとコンクリート打設へと移りますが、ここでもケーシングチューブならではの「施工管理」のポイントがあります。
鉄筋かごの「共上がり(ともあがり)」現象
これはオールケーシング工法特有の重大なトラブルです。コンクリートを打設しながらケーシングチューブを引き抜く際、中の鉄筋かごがチューブと一緒に持ち上がってしまう現象です。


  • 原因: チューブ内壁へのコンクリートの付着、鉄筋かごの変形による引っ掛かり、コンクリートの急激な凝結など。

  • 対策:


    • ケーシングチューブを引き抜く際は、常に鉄筋かごの天端(上端)レベルを測量し、動いていないか監視する。

    • 鉄筋かごが浮き上がりそうになったら、チューブを少し逆回転させたり、上下動(ニッキング)を行って縁を切る。

    • チューブの内面を清掃し、剥離剤を塗布しておく等の予防措置を講じる。

コンクリート打設の管理
コンクリートは「トレミー管」を使って、孔底から静かに流し込みます。


  • 管の埋没深度: トレミー管の先端は、常に打設されたコンクリートの中に2m以上埋没させておく必要があります。これを怠ると、コンクリートの中に泥水やスライムが巻き込まれ、杭の途中に「断層」のような欠陥ができてしまいます。

  • ケーシングの引抜タイミング: コンクリートの充填レベルに合わせて、ケーシングチューブを徐々に引き抜きますが、チューブの下端がコンクリート面から出ないように(常に2m以上ラップさせる)管理表を用いて厳密に計算します。早すぎて抜いてしまうと孔壁が崩れ、遅すぎるとコンクリートが固まって抜けなくなります。

【独自視点】オールケーシング工法のケーシングチューブの周面摩擦と引抜

多くの解説記事では「ケーシングチューブは引き抜いて再利用する」と簡単に書かれていますが、実際の現場、特に大深度や特殊な地盤では、この「引き抜き」こそが最大の難関となることがあります。ここでは、あまり語られない「周面摩擦」と「ジャミング(拘束)」のメカニズムについて解説します。
周面摩擦による「締め付け」の恐怖
地中深く挿入されたケーシングチューブは、土圧によって常に周囲から締め付けられています。深度が深くなるほど、この力(周面摩擦力)は増大します。


  • 時間効果(タイムラグ): チューブを挿入してから引き抜くまでの時間が長くなればなるほど、地盤が徐々に締まり、摩擦力が指数関数的に増大することがあります。特に粘性土では、地盤がチューブにへばりつく現象(吸着)が起きます。

  • 熱膨張: 全周回転機で硬い岩盤を掘削する場合、カッティングエッジやチューブ自体が摩擦熱で高温になります。金属が熱膨張した状態で掘削を止め、冷えて収縮する過程や、逆に冷えた地盤で熱を持ったまま停止することで、微細な隙間がなくなり、物理的にロックされることがあります。

「ジャミング」への独自対策
検索上位にはあまり出てきませんが、熟練のオペレーターは以下のような感覚と対策を持っています。


  1. 捨て回し(アイドリング): コンクリート打設待ちの間や、鉄筋かごの溶接待ちの時間でも、ケーシングチューブを完全に停止させず、時折ゆっくりと回転(または揺動)させます。これにより、静止摩擦係数が最大になるのを防ぎます。

  2. ダブルウォールケーシング: 特に引き抜き困難が予想される大深度施工では、外管と内管の二重構造になったケーシングを使用する場合があります。

  3. フリクションカット塗料: チューブの外面に特殊な摩擦低減材を塗布することで、物理的に摩擦係数を下げます。

  4. 油圧ジャッキの増設: 掘削機本体の引き抜き能力(例えば200トン)を超えた場合に備え、別途、地上に超強力な油圧ジャッキ(ケーシングジャッキ)をセットし、数百トンの力で強制的に引き抜く準備をします。

国立研究開発法人 土木研究所:地盤工学に関する研究報告
※土木研究所のデータベースには、地盤と杭の周面摩擦に関する学術的なデータや、過去のトラブル事例の解析が含まれており、トラブルシューティングの際の理論的支柱となります。
オールケーシング工法における「ケーシングチューブの引き抜き」は、単なる撤去作業ではなく、地盤との摩擦との戦いです。「抜けないからコンクリートが固まってしまう」という最悪の事態(ケーシング残置、杭の作り直し)を避けるため、地盤に応じた摩擦の計算と、余裕を持った重機の選定が、プロジェクトの成否を分けるのです。
まとめ
オールケーシング工法は、ケーシングチューブという「鎧」で孔壁を守りながら施工する、非常に信頼性の高い工法です。


  • 孔壁崩壊を防ぐ安全性

  • 揺動と全旋回の使い分けによる対応力

  • ハンマグラブと連携した確実な掘削

  • 鉄筋の共上がりやコンクリート打設の厳密な管理

  • そして、地盤との摩擦を制する引き抜き技術

これら全てが噛み合って初めて、建物を支える強固な杭が完成します。見えない地中の作業だからこそ、一切の妥協を許さない施工管理が求められています。