
建築業における労災保険料の計算は、一般的な事業とは異なる特別な方式が採用されています。基本的な計算式は「請負金額(消費税抜き)× 労務費率 × 労災保険料率 = 労災保険料」となり、下請業者の労働者の賃金を正確に把握することが困難なため、この特例的な計算方法が認められています。
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建築事業の場合、労務費率は23%、労災保険料率は9.5/1,000(0.95%)と定められています。例えば、請負金額が5,000万円の建築工事の場合、計算は次のようになります。
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具体的な計算例
この計算方法により、年間の労災保険料が算出されます。
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建築業における労災保険料を正確にシミュレーションするには、工事の種類ごとに異なる労務費率を正しく適用することが重要です。建築事業では既設建築物設備工事業を除き、労務費率23%が適用されます。
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工事規模別のシミュレーション例
請負金額 | 賃金総額(労務費率23%) | 労災保険料(保険率0.95%) |
---|---|---|
1,000万円 | 230万円 | 21,850円 |
3,000万円 | 690万円 | 65,550円 |
5,000万円 | 1,150万円 | 109,250円 |
1億円 | 2,300万円 | 218,500円 |
土木工事の場合は労務費率が異なり、道路新設事業では19%、その他の建設事業では24%が適用されます。自社の工事内容に応じた正確な労務費率を確認することが、適正な保険料計算の第一歩となります。
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労災保険料は年に一度、6月1日から7月10日までの期間に「年度更新」として申告・納付を行います。この手続きでは、前年度の確定保険料の精算と、当年度の概算保険料の前払いを同時に行う仕組みになっています。
参考)令和7年度労働保険の年度更新
概算保険料は、これから始まる新年度(4月~翌年3月)に支払う見込みの賃金総額から計算します。前年度の実績額を基準とすることが一般的ですが、工事量が大きく変動する見込みの場合は、その増減を反映させた金額で申告します。
確定保険料との差額調整により、前年度に納付した概算保険料が実際の賃金総額より多ければ、その過払い分は当年度の概算保険料に充当されます。逆に不足がある場合は、その差額を当年度の概算保険料と合わせて納付する必要があります。
概算保険料額が40万円以上の場合(労災保険のみの場合は20万円以上)は、年3回の分割納付が認められています。
参考)保険料の納期
労災保険料の計算過程では、端数処理のルールを正確に理解しておく必要があります。賃金総額を算出した際に1,000円未満の端数がある場合は切り捨て、最終的な保険料額に1円未満の端数がある場合も切り捨てとなります。
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端数処理の具体例
正しい業種分類の選択も重要なポイントです。複数の事業を行っている場合は、原則として最も主要な事業(賃金総額が最も多い、または従業員数が多いなど)の料率を適用します。判断に迷う場合は、所轄の労働局や労働基準監督署に確認することをお勧めします。
請負金額には消費税及び地方消費税相当額を含まない金額を使用することが、平成27年4月以降の改正により定められています。これは労務費率の算定基準が変更されたためで、消費税額を除いた請負金額で計算する必要があります。
参考)労務費率等について~労務費率、賃金総額の算定方法などが変わり…
建設業における労災保険には「メリット制」という制度があり、労働災害の発生状況に応じて保険料率が増減する仕組みが設けられています。一括有期事業の場合、連続する3保険年度中の各保険年度で確定保険料の額が40万円以上であれば、メリット制の適用対象となります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/rousaimerit.pdf
メリット制では、適用される労災保険率から非業務災害率(全業種一律1,000分の0.6)を引いた率を、一定の範囲で増減させます。年間の確定保険料が100万円以上の場合は±40%、40万円以上100万円未満の場合は±30%の範囲で調整されます。
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メリット制による保険料の変動例(建築事業・基本料率0.95%の場合)
過去3年間の労働災害発生状況が良好であれば保険料の割引を受けられるため、日頃からの安全管理の徹底が経済的メリットにもつながります。メリット制が適用される事業場には、労働局から「改定労災保険率決定通知書」が送付されますので、その料率を使用して概算保険料を計算します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/kakikata/dl/ikkatu-21.pdf
労災保険料の計算を効率化するために、厚生労働省が提供する「年度更新申告書計算支援ツール」の活用が推奨されます。Excel形式のファイルで、必要な数値を入力するだけで労働保険料を自動計算してくれるため、手計算によるミスを防ぎ、申告書作成をスムーズに進めることができます。
労働保険料計算シミュレーション(労働保険事務組合連合会)
主たる事業の種類、雇用保険種別、年間賃金見込額を入力するだけで、労災保険料と雇用保険料を自動計算できる便利なツールです。
クラウド型の給与計算ソフトを導入している事業所では、毎月の給与データから賃金総額を自動集計し、年度更新に必要な申告書様式のデータを作成する機能が利用できます。これにより転記ミスがなくなり、大幅な時間短縮につながります。
労働保険事務組合に事務を委託したり、社会保険労務士に手続きを依頼したりする方法も有効です。専門家に任せることで、複雑な計算や申告手続きから解放され、本業に集中できます。特に、担当者の知識に不安がある場合や、リソースが不足している場合に適した選択肢となります。
建設業の労災保険料計算は、請負金額、労務費率、労災保険料率の3つの要素を正確に把握することが基本です。定期的に厚生労働省のホームページで最新の料率を確認し、適正な保険料の申告・納付を行うことで、従業員の安全を守り、企業の信頼性を維持することができます。