
2025年9月時点における全国主要都市のオフィス空室率は、地域によって大きな差が見られます。東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均空室率は2.68%と、前月比0.17ポイント低下し、7ヶ月連続で改善傾向が続いています。これは2020年6月以来の低水準であり、需給が大きく引き締まっている状況を示しています。
地域別に見ると、札幌4.05%、仙台5.86%、名古屋3.71%、大阪3.67%、横浜5.91%、福岡4.87%となっており、全国的に空室率は低下傾向にあります。特に東京では、三菱地所リアルエステートサービスの調査によると、主要7区全てで空室率が低下し、新宿区では60ヶ月ぶりに3%を切る水準まで改善しました。
需給均衡の目安とされる5%を下回る都市が増加しており、オーナー優位の市場環境が形成されつつあります。この背景には、新型コロナウイルス感染症収束後の出社回帰や、企業のオフィス拡張需要の高まりがあります。
オフィス空室率の変動には、複数の要因が複合的に作用しています。第一に、企業の働き方改革が大きな影響を与えています。コロナ禍で一時的にテレワークが拡大し空室率が上昇しましたが、2024年春頃から出社回帰の流れが加速しています。
第二に、新規供給量が重要な要因です。2025年以降は大規模な新規供給が一部後ろ倒しとなり、需要が供給を上回る状況が続いています。過去の傾向では、大量供給があった年は一時的に空室率が上昇しますが、企業の旺盛な需要により比較的早期に吸収される傾向が見られます。
第三に、経済環境と企業収益が挙げられます。企業の増益見通しによりテナント企業の賃料負担力が改善し、より広いスペースや好立地への移転需要が活発化しています。フリーアドレスなどの導入により1人当たりのオフィス面積が増加している企業も多く、これが需要を押し上げる要因となっています。
建築業への影響としては、空室率の低下によりオフィスビルの建設需要が再評価される可能性があります。特に好立地の大型ビル開発や、老朽化したビルの建て替え需要が高まることが予想されます。
オフィス空室率は地域によって大きく異なり、それぞれの地域特性を反映しています。以下は主要都市の詳細な比較です。
📍 東京圏の特徴
東京都心5区の空室率2.68%は全国で最も低い水準です。特に丸の内・大手町エリアでは1.8%という極めて低い空室率を記録しており、まとまったオフィススペースの確保が困難な状況です。西新宿エリアの潜在空室率も2.98%まで低下し、5年1ヶ月ぶりに2%台となりました。豊洲・晴海などの湾岸エリアでも大型物件の成約が進み、空室消化が加速しています。
📍 大阪圏の動向
大阪ビジネス地区の空室率は3.67%で、中小規模の成約が活発です。梅田地区では新規供給の影響を受けながらも、新築ビルでの成約により空室率は緩やかに低下しています。今後は2026年以降の新規供給が落ち着くことから、空室率はほぼ横ばいで推移すると予測されています。
📍 地方都市の傾向
札幌、名古屋、福岡などの地方都市でも空室率の低下傾向が見られます。札幌では新築ビルでの大型成約が4ヶ月連続で進み、空室率は4.05%まで改善しました。名古屋は3.93%、福岡は4.87%と、いずれも需給均衡の目安である5%を下回る水準を維持しています。
一方、仙台(5.86%)と横浜(5.91%)は他都市と比べて空室率が高めです。仙台は駅前や再開発エリアでの移転需要はあるものの全体では高水準、横浜はみなとみらい地区で9%弱と高めの空室率が全体を押し上げています。
オフィス空室率を正しく理解するには、その計算方法と意味を把握することが重要です。空室率には主に3つの算出方法があります。
💡 時点空室率
最も基本的な計算方法で、「空室数÷全体の部屋数×100」で算出されます。特定の時点での空室状況を示すため、シンプルで分かりやすい指標です。ただし、時期によって変動が大きく、引っ越しシーズンなどの影響を受けやすいという特徴があります。
💡 潜在空室率
現在の空室に加えて、近い将来に空室となることが確定している予定空室も含めた指標です。三菱地所リアルエステートサービスの調査では、東京主要5区の潜在空室率は2.30%と、実際の空室率よりも低い水準を示しており、今後の需給がさらに引き締まる可能性を示唆しています。
💡 稼働ベースの空室率
賃貸収入の観点から見た空室率で、実際の賃料収入への影響を把握するのに適しています。建築業従事者がオフィスビル開発を検討する際には、この指標が投資判断の重要な材料となります。
空室率5%が需給均衡の目安とされており、これを下回るとオーナー優位の市場、上回るとテナント優位の市場と判断されます。現在の東京都心部は明らかにオーナー優位の状況にあり、賃料交渉においてもオーナー側が有利な立場にあります。
今後3年間のオフィス空室率の見通しについて、複数のシンクタンクが予測を発表しています。これらの予測は建築業界の事業計画策定において重要な参考情報となります。
🔮 2026年までの短期予測
ニッセイ基礎研究所によると、東京都心5区の空室率は2026年第2四半期に1.4%まで低下すると予測されています。新規供給が低水準に止まる一方、企業の旺盛な需要により需要超過の状態が続く見込みです。この期間はオフィスビル開発の好機といえ、建築業界にとって事業機会が拡大する可能性があります。
🔮 2027-2028年の中期展望
2027年は空室率1.3%とさらに低下し、その後2028年第2四半期には2.4%まで上昇すると予測されています。これは新規大型供給の影響によるものですが、それでも過去の平均と比較すると低水準を維持する見通しです。
🔮 賃料動向との連動
空室率の低下に伴い、新規賃料は今後5年間で約15%上昇すると予想されています。賃料上昇は建築コストの増加にも関わらず、開発事業の採算性を確保できる環境が整いつつあることを示しています。
⚠️ 建築業界への影響と注意点
空室率の低下トレンドは、老朽化したオフィスビルの建て替え需要を喚起します。特に機能面で陳腐化したビルは空室率が高止まりしており、建て替えや大規模リノベーションのニーズが高まっています。また、人材確保難によりオフィス構築や原状復帰にかかる時間が長期化しており、建築工程の効率化が求められています。
一方で、2025年以降の関税引き上げによる経済見通しの下方修正や、テレワークの定着度合いなど、不確定要素も残されています。建築業従事者は、これらのリスク要因も考慮しながら、中長期的な事業戦略を立案する必要があります。
三鬼商事のオフィスマーケットデータ - 東京都心部の最新空室率と賃料相場の詳細な月次データが確認できます
三菱地所リアルエステートサービスの調査レポート - 東京オフィスマーケットの潜在空室率を含む詳細な分析データが掲載されています