
疎水性コーティングは、水となじまない性質を利用して建築物の外壁を保護する技術です。表面に塗布されたコーティング剤は、水分子との接触を最小限に抑え、水滴が塊となって流れ落ちる特性を持ちます。このメカニズムは、疎水性シリカ粒子が表面に微細な粗さを作り出し、水滴とコーティング面の接触面積を減少させることで実現されます。
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建築業界では、疎水性という用語を「水が流れやすい」という意味で使用しており、これは滑水性とも呼ばれています。コーティング剤の表面全体が疎水基を持つため、疎水性にムラがなく、建築構造物を塩害・凍害・中性化などの劣化から長期間保護できます。水切れが非常に良いため、外壁に長時間水が残ることを防ぎ、水が原因となる汚れやウォータースポットの発生を大幅に抑制します。
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コーティング剤に含まれる疎水性ポリマーやシリコーン系成分が、分子レベルで水を拒絶する構造を形成します。この構造により、雨水は外壁表面を素早く流れ落ち、ホコリや金属などの不純物も一緒に洗い流すセルフクリーニング効果を発揮します。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E7%96%8E%E6%B0%B4%E6%80%A7%20%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0/
建築用コーティングにおける水弾き性能は、接触角によって分類されます。一般的に接触角90度以上が撥水性、60度~90度程度が疎水性、60度未満が親水性とされていますが、この定義はメーカーによって若干異なります。
参考)撥水、親水、疎水の違い
性能 | 接触角 | 水の動き | 主な特徴 |
---|---|---|---|
撥水性 | 90度以上 | 小さな水玉を形成 | 強力な水弾きだが、水滴が残りやすい |
疎水性 | 60~90度 | 塊となって流れ落ちる |
水切れが良く、シミができにくい |
親水性 | 60度未満 | 薄い水膜を形成 | 水となじみ、ゆっくり流れる |
疎水性コーティングは、撥水性と親水性の中間に位置し、両者の利点を兼ね備えています。撥水性のように水玉が残ってウォータースポットを形成することが少なく、親水性のように水がゆっくり流れて長時間残留することもありません。水滴が表面に馴染みながら弾く性質があるため、イオンデポジットなどのシミ汚れが付着しづらくなります。
外壁塗装では、疎水性は親水性よりも水切れが良く、メンテナンス性に優れている点が評価されています。雨が降った後も水が素早く流れ落ちるため、建物の美観を長期間保持できます。
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建築業界における疎水性コーティングの適用範囲は多岐にわたります。主な用途としては、サイディング外壁、タイル、金属系・窯業系外壁塗料への塗布が挙げられ、基材の保護とセルフクリーニング効果による防汚を実現します。
参考)超親水性無機コーティング剤
🏢 主な適用箇所
超疎水性コーティングは、セメントコンクリート表面にも応用されています。微細なナノ基材を吹き付けて粗面構造層を作り、その上にシリコーンオイル変性エポキシ樹脂と低表面エネルギー物質を塗布する二段階施工法により、接触角154度を超える高い疎水性を実現した事例もあります。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4360/12/10/2187/pdf
ビアンコートB 超疎水タイプ外壁用
サイディング外壁への施工方法と標準工法が詳細に記載されており、塗布量や乾燥時間などの実務的な情報が参考になります。
意外な点として、疎水性コーティングは道路用防音壁や街灯のカバーガラスなど、従来考えられていなかった用途にも展開されています。これらの用途では、防汚性能により清掃頻度を大幅に削減でき、維持管理コストの低減に貢献しています。
疎水性コーティングの施工は、適切な下地処理が成否を分けます。まず、熱湯高圧洗浄装置で外壁表面を徹底的に洗浄し、有機塗装面の汚れを完全に除去します。この工程を怠ると、コーティング剤が基材に密着せず、剥離の原因となります。
🔧 施工手順の概要
塗装面にクラックが入っている場合は、プライマーG130などの専用プライマーでクラックを埋める必要があります。塗布ツールとしては、ロールコーター、フローコーター、エアースプレー、スポンジローラー、刷毛などが使用可能です。
塗布量の目安は、ウェット膜厚で30μm程度、ドライ膜厚で0.3μm以下とされています。硬化温度は常温から200℃×5分で、現場の状況に応じて調整します。サイディング外壁の場合、塗布量0.040~0.050L/㎡、夏期2時間・冬期3時間の乾燥時間が標準です。
超親水性無機コーティング剤 セラアクアNSコート
ポリシリケート系セラミックスコーティングの施工方法が詳細に記載されており、塗布条件や硬化温度の設定方法が参考になります。
疎水性コーティングの耐久性は、使用する材料と施工品質に大きく依存します。高品質なセラミックコーティング系の疎水性コーティング剤では、耐擦り性能・耐紫外線性能に優れ、長期間にわたって効果を維持します。
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⏱️ 耐久性に影響する要因
親水性コーティングと比較すると、疎水性は水滴が表面に残留しやすい傾向があります。そのため、最低でも2週間に一度の洗車(洗浄)が推奨されます。雨が降った後に長時間放置すると、イオンデポジットなどのシミ汚れが発生する可能性があるためです。
建築構造物への応用では、疎水性コーティングと通気性を両立させた製品が開発されており、外からの雨水浸入を防ぎながら、躯体の水分を外部に排出できる疎水通気性耐久塗膜を形成します。この特性により、コンクリート構造物の劣化・中性化防止に貢献し、長期的な建物保護を実現しています。
何度も重ね塗りすることで、より強固な被膜が形成され、耐久性がさらに向上します。定期的な点検と適切なメンテナンスを行うことで、疎水性コーティングの防汚効果を10年以上維持することも可能です。
参考)https://prostaff-jp.com/assets/imgupload/products/download/guide/S152_ts2.pdf
疎水性コーティングの施工では、いくつかの重要な注意点があります。施工直後の視覚的なインパクトは、撥水性コーティングほど派手ではないため、コーティング初心者には効果が分かりにくい場合があります。水玉がコロコロ転がるような「弾いている感」がないため、効果の確認には接触角測定や水切れの観察が必要です。
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⚠️ 施工上の注意事項
疎水性コーティングは万能ではなく、撥水系や親水系と比較して特化した性能はありませんが、その分バランスに優れた汎用性を持っています。強力な水弾きを求める場合は撥水性、完全なセルフクリーニングを求める場合は親水性の方が適している場合もあります。
建築現場における実務的な課題として、既存の生産ラインとの統合や、真空プラズマ方式と比較した大気圧プラズマコーティング技術の採用により、製造コストを大幅に削減できる可能性があります。ただし、新技術の導入には初期投資が必要なため、プロジェクトの規模と予算を慎重に検討する必要があります。
疎水性コーティングの選択は、建物の使用環境、メンテナンス頻度、予算などを総合的に判断して決定することが重要です。外壁の材質や既存の塗装状態によっても最適なコーティングタイプが異なるため、専門家への相談が推奨されます。