
あり溝の規格における基本寸法は、用途と要求精度に応じて細かく規定されています。最も一般的なのは45度の傾斜角を持つ台形状で、この角度は加工性と保持力のバランスが最適とされています。
標準的なあり溝の寸法公差は以下のように設定されています。
特に注目すべきは、あり溝の充填率が通常の角溝より高くなる特徴があることです。これは溝形状が台形であるため、同じ線径のOリングでもより多くの材料が溝内に収容されるためです。
材料の種類によって、あり溝の設計仕様は大きく異なります。一般鋼材では標準的な公差で問題ありませんが、ステンレス鋼やアルミニウム合金では材料特性を考慮した調整が必要です。
鋼材系材料の場合:
非鉄金属の場合:
意外な事実として、あり溝加工では被削材の硬度よりも粘度の影響が大きく、粘性の高い材料ほど工具への負荷が増加します。そのため、材料選定時には硬度だけでなく切削性も重要な判断基準となります。
あり溝の規格適合性を確認するための測定方法は、従来の直角溝とは異なる専用の手法が必要です。最も重要なのは溝の底部寸法と開口部寸法の関係を正確に把握することです。
主要な測定項目:
測定には一般的にデジタルノギスと角度ゲージを組み合わせますが、高精度が要求される場合は三次元測定機による全形状測定を行います。特に量産部品では、専用のあり溝ゲージを作製して検査効率を向上させることも多くあります。
興味深いことに、あり溝の検査で最も見落とされがちなのが底部の仕上げ状態です。見た目には問題なくても、微細な切削痕や工具マークがOリングの寿命に大きく影響するため、表面粗さの管理も規格の重要な要素となっています。
あり溝加工における技術的な要点は、通常のエンドミル加工とは大きく異なります。最も重要なのは工具選定と切削条件の最適化です。
工具選定の基準:
切削条件の設定:
加工時の最大の注意点は、工具の折損防止です。あり溝カッターは形状が複雑なため、側圧に対して脆弱な面があります。そのため、粗加工と仕上げ加工を分離し、最終仕上げでは極めて軽い切り込みで行うことが重要です。
また、業界ではあまり知られていない技術として、「逆テーパー仕上げ法」があります。これは意図的に溝を浅めに加工した後、専用工具で底部を拡張する手法で、工具への負荷を大幅に軽減できます。
あり溝の品質管理では、従来の寸法管理に加えて機能的な検査が重要になります。単に寸法が規格内であっても、実際の使用時に問題が生じるケースがあるためです。
品質管理項目:
特に重要なのは、Oリング装着時の実証試験です。規格上問題なくても、実際にOリングを装着した際の密封性能や耐久性に影響が出ることがあります。
高度な品質管理を行う現場では、あり溝専用の「機能ゲージ」を作製し、寸法だけでなく実際の嵌合状態まで検査しています。このようなゲージを使用することで、後工程での組み付け不良を大幅に削減できます。
また、意外な盲点として、あり溝の経年変化があります。特に樹脂部品では、成形後の寸法変化により規格から外れるケースがあるため、一定期間後の再検査も品質管理の重要な要素となっています。