アルミニウム合金の種類と建築業への活用法

アルミニウム合金の種類と建築業への活用法

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アルミニウム合金の種類と建築分野での活用

建築業向けアルミニウム合金ガイド
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アルミ合金の基本分類

1000系から8000系までの系統別特性と建築用途の最適解

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熱処理と時効硬化

強度向上のメカニズムと建築構造材への応用技術

独自の選定基準

建築環境に適した合金選択と長期耐久性の確保方法

アルミニウム合金のJIS規格による基本分類

アルミニウム合金は日本工業規格(JIS)において、主要添加元素に基づき1000系から8000系に体系的に分類されています。この分類体系は、建築業従事者が適切な材料選定を行う上で極めて重要な指標となります。
1000系(純アルミニウム) は純度99.00%以上を保持し、優れた加工性・耐食性・熱伝導性を有しているため、照明器具の反射板や厨房設備に使用されます。ただし強度は低いため、構造材料としての使用は限定的です。
2000系(Al-Cu系) は銅を主要添加元素とし、熱処理により高強度を実現しますが、耐食性がやや劣るため表面処理が必要です。建築分野では主に航空機構造材に採用されており、一般建築での使用は少ないとされています。
3000系(Al-Mn系) はマンガンを添加した非熱処理型合金で、耐食性と成形性のバランスに優れ、屋根材や外装材として広く利用されています。アルミ缶の材料としても採用されており、建築における汎用性の高い素材です。
4000系(Al-Si系) はケイ素を多く添加した合金で、耐熱性・耐摩耗性に優れ、熱膨張が抑制される特性を持ちます。建築分野では建築パネルや外装材として使用され、特に温度変化の激しい環境での寸法安定性に優れています。
参考)アルミニウム合金は、アルミホイルやジュースの缶などの日頃よく…

 

5000系(Al-Mg系) はマグネシウムを添加した非熱処理型合金で、中程度の強度と優れた耐食性を兼ね備えています。特に海水環境に対する抵抗性が高く、沿岸地域の建築物外装材として最適です。
6000系(Al-Mg-Si系) は建築用アルミ合金の代表格で、マグネシウムとケイ素を同時添加することで熱処理による強度向上が可能です。押出成形性に優れ、アルミサッシや構造材として最も多用されています。
7000系(Al-Zn-Mg系) は亜鉛とマグネシウムを添加した合金で、アルミニウム合金中最高の強度を持ちます。航空機や新幹線の構造材として使用されますが、建築分野では高強度が要求される特殊な用途に限定されます。
参考)メッキライブラリ

 

8000系 は上記7系統に分類されないアルミニウム合金の総称で、リチウムや鉄を添加したものがあり、特殊な性能要求に対応した合金群です。

アルミニウム合金の建築構造材としての強度特性

建築分野において最も重要視される強度特性について、アルミニウム合金は系統により大きく異なる性能を示します。引張強度のランキングでは、A7075(7000系)が約570N/mm² という最高強度を誇り、超々ジュラルミンとして航空機や新幹線の構造材に使用されています。
参考)アルミ合金の引張強さランキング!どれが強い?使い分けのポイン…

 

6000系(Al-Mg-Si系) は建築用アルミ合金の代表格で、A6063とA6061が広く採用されています。A6061-T6は引張強さ約310N/mm²を示し、強度・耐食性・溶接性のバランスが良好なため、フレームや構造部品に多用されています。特に建築分野では、熱処理により強度が向上するMg₂Si化合物の析出を利用した時効硬化特性が重要な役割を果たします。
5000系(Al-Mg系) は中程度の強度(A5052で約260N/mm²)を持ち、優れた耐食性、特に海水環境への抵抗性を示すため、沿岸地域の建築物外装材として最適です。また、溶接性に優れているため、構造部材の接合において信頼性の高い施工が可能です。
建築における比強度(強度/密度) の観点では、アルミニウム合金は鉄の約1/3の比重でありながら、適切な合金選択により鋼材に匹敵する強度を実現できます。これにより、建築物の軽量化と構造性能の両立が可能となり、地震荷重の軽減や基礎構造の簡素化に貢献します。
参考)https://www.kanameta.jp/column/aluminum-alloy-strength-comparison

 

温度特性も重要な要素で、アルミニウム合金は高温では強度が著しく低下しますが、低温環境では逆に強度が向上する特性を持ちます。建築用途では、この特性を考慮した設計が必要となります。

アルミニウム合金の熱処理と時効硬化メカニズム

建築用アルミニウム合金の性能を最大限に活用するためには、熱処理による時効硬化のメカニズムを理解することが不可欠です。時効処理は「析出硬化」に基づくプロセスで、合金内に溶け込んでいた元素が熱処理により析出し、材料全体の構造を補強する現象です。
人工時効硬化処理 では、溶体化処理後に200℃付近で再加熱することで、過飽和に溶け込んだ元素を人工的に析出させます。この処理により、6000系合金ではMg₂Si化合物が析出し、材料の硬度と強度が大幅に向上します。処理温度と時間の管理が重要で、温度が低すぎると析出が不完全になり、高すぎると過剰析出により脆化が生じる可能性があります。
時効硬化曲線 において、硬度は時間経過とともに上昇し、最大値(ピーク時効)に到達した後、過時効により低下する現象が確認されます。最大硬度到達時間は時効温度が低いほど長くなり、適切な処理条件の設定が品質管理上重要となります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/54/2/54_20234142/_pdf

 

建築構造材として使用される際の調質記号も重要な指標となります。T6処理(焼入れ後焼戻し) は最も一般的で、A6061-T6として機械構造材に広く採用されています。一方、T5処理(高温加工から急冷後焼戻し) はA6063-T5として建築用押出形材に使用され、適度な強度と優れた加工性を両立しています。
焼戻し処理 は鋳造品の組織安定化にも重要で、200℃付近での保持により内部応力を除去し、長期使用における寸法安定性を確保します。建築部材では、設置後の経年変化を最小限に抑制するため、この処理が特に重要視されます。

アルミニウム合金の建築用途における耐食性評価

建築分野でのアルミニウム合金選定において、耐食性は構造物の長期耐久性を左右する重要な要素です。アルミニウムの優れた耐食性は、表面に自然形成される薄い酸化皮膜(アルミナ層)に起因し、この皮膜は自己修復性を持つため長期間の保護効果を発揮します。
海洋環境における応用 では、5000系合金が特に優れた性能を示します。A5083は沿岸地域の建築物において、塩害に対する高い抵抗性を発揮し、船舶や車両部材としても実績があります。また、A5052は海水環境での耐食性が純アルミニウムを上回る場合もあり、建築外装材として長期信頼性を提供します。
合金元素と耐食性の関係 について、銅を多く含む2000系合金は耐食性がやや劣るため、建築用途では表面処理が必須となります。一方、6000系合金は中程度の耐食性を持ち、硫酸法による陽極酸化処理により無色透明の皮膜が得られるため、建築用サッシの美観性と耐久性を両立できます。
コンクリート構造との併用 において、6061-T6アルミニウム合金の近表面補強材としての適用性が研究されており、塩化物溶液、模擬酸性雨、飽和Ca(OH)₂溶液環境での腐食抵抗性が確認されています。これは、コンクリート構造物の補強材として従来の鋼材に代わる可能性を示唆しています。
参考)301 Moved Permanently

 

建築環境下での腐食防止には、適切な設計による水はけ確保、接合部の腐食防止対策、そして加工後の表面処理が重要な要素となります。特に異種金属との接触部では電食の可能性があるため、絶縁材の使用や適切な表面処理が必要です。

アルミニウム合金における展伸材と鋳物材の建築利用特性

建築分野におけるアルミニウム合金の活用には、展伸材と鋳物材の適切な使い分け が重要です。展伸材(wrought aluminum alloy)は圧延や押出加工により製造され、板材、形材、管材、棒材などの形状で提供される材料で、建築構造材の主力となっています。
建築用展伸材の特徴 として、6000系合金の押出成形性が挙げられます。A6063は「建築用アルミ合金」と呼ばれるほど重要な素材で、複雑な断面形状の連続成形が可能なため、断熱材を封入する多層構造サッシや装飾性を持つ窓枠の製造に適しています。押出加工により、アルミサッシ、ドア枠、カーテンウォール、手すりなど多様な建築部材が効率的に生産されます。
押出形材の設計自由度 は建築意匠の多様化に大きく貢献しており、単純な矩形断面から複雑な多室構造まで一体成形が可能です。これにより、断熱性能と構造性能を同時に満足する高機能建材の実現が可能となっています。
一方、鋳物用アルミ合金 は砂型鋳物やダイカスト用に最適化されており、複雑な三次元形状の部材製造に使用されます。建築分野では、装飾金物や特殊形状の構造部材として限定的に使用されていますが、展伸材では製造困難な複雑形状部品の実現が可能です。
機械的性質の相違 について、展伸材は圧延や押出による加工硬化により基本的に高い強度を持ちますが、鋳物材は鋳造組織により強度がやや劣る場合があります。しかし、鋳物材は形状自由度が高いため、応力集中を避ける最適な形状設計により、実用的な強度を確保できます。
展伸材は切断・切削・研削加工に適した材料特性を持ち、建築現場での加工性に優れている点も重要な特徴です。これにより、現場での寸法調整や追加工が容易に行えるため、建築施工の効率性向上に貢献しています。