
令和3年9月29日、国土交通大臣により株式会社ベストランドに対して宅地建物取引業法第65条第1項に基づく業務改善命令が発出されました。この処分は、平成26年12月頃から平成30年5月頃にわたる長期間での違反行為に対するものでした。
処分の具体的な内容は以下の通りです。
この処分が注目される理由は、ベストランドが中古マンションの販売件数で年間2,000戸以上と全国1位の実績を持つ大手不動産会社であることです。同社は2010年11月に設立され、中古住宅の買取再販事業を中心に急成長を遂げてきました。
業務改善命令では、講じた措置について令和3年10月29日までに報告するとともに、措置の実施状況について概ね6ヶ月後に文書をもって報告することが求められました。この報告義務は、処分の実効性を確保するための重要な仕組みです。
監督処分後の事業者による業務改善措置については、任意の提出により掲載されることとなっており、透明性の確保が図られています。この仕組みにより、他の不動産事業者も処分事例から学び、同様の違反行為を防ぐことができます。
不動産業界では、このような処分事例が公表されることで、業界全体のコンプライアンス意識向上が期待されています。特に、大手企業の処分事例は業界に与える影響が大きく、他社も自社の業務体制を見直すきっかけとなることが多いです。
不動産業界以外でも、業務改善命令は金融機関や保険会社などで頻繁に発出されています。例えば、苫小牧信用金庫が2025年5月に業務改善命令を受けた事例では、金融関連以外の事業(不動産賃貸や仲介)を営んでいたことが問題となりました。
J-REIT運用会社においても、過去に複数の業務改善命令事例があります。
これらの事例は、リーマンショック前後の不動産市場の混乱期に集中しており、市場環境の変化が業務改善命令の発出に影響を与えることを示しています。
ベストランドの事例は、不動産業界におけるリスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。特に中古不動産の買取再販事業では、以下のようなリスクが存在します。
同社のような大手企業でも長期間にわたって違反行為が続いていたことは、業界全体にとって大きな教訓となります。特に、年間2,000戸以上という大量の取引を行う企業では、一件一件のチェック体制の構築が極めて重要です。
不動産業界では、グループ会社の管理体制についても注意が必要です。企業統治に関する実務指針では、グループ全体の企業価値向上を図るためのガバナンスの重要性が指摘されています。ベストランドも2016年8月に株式会社ビルエステートを吸収合併してグループ展開を加速させており、統合後の管理体制の構築が課題となっていた可能性があります。
この処分事例は、不動産業界全体のコンプライアンス意識向上に大きな影響を与えています。特に以下の点で業界慣行の見直しが進んでいます。
内部統制システムの強化
大手不動産会社では、内部監査機能の充実や法務部門の強化が進んでいます。従来は営業重視の体制が多かった業界ですが、法令遵守を最優先とする企業文化への転換が求められています。
従業員教育の体系化
宅地建物取引業法の理解不足による違反を防ぐため、従業員に対する継続的な教育プログラムの導入が進んでいます。特に、中途採用者や経験の浅い従業員に対する教育に注力する企業が増えています。
取引プロセスの標準化
人的ミスを防ぐため、取引プロセスの標準化とシステム化が進んでいます。重要事項説明書の作成や契約書面の確認において、チェックリストの活用や複数人による確認体制の構築が一般的になっています。
第三者による監査の活用
内部監査だけでなく、外部の専門家による監査を定期的に実施する企業も増えています。これにより、客観的な視点から業務プロセスの問題点を発見し、改善につなげることが可能になります。
また、資産運用会社や保険会社でも業務改善命令が発出されており、金融・不動産業界全体でコンプライアンス強化の流れが加速しています。これらの処分事例から学び、自社の業務体制を継続的に見直すことが、持続可能な事業運営のために不可欠となっています。
不動産業界においては、顧客との信頼関係が事業の根幹であり、一度失った信頼を回復するには長期間を要します。ベストランドの事例は、短期的な業績向上よりも長期的な信頼構築が重要であることを業界全体に示した重要な教訓となっています。