耐火建築物と準耐火建築物の違いと構造

耐火建築物と準耐火建築物の違いと構造

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耐火建築物の基礎知識と構造

耐火建築物の基本情報
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高い耐火性能

最長3時間の火災に耐える性能を持ち、建物の倒壊や延焼を防止します

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主な構造

RC造、SRC造、耐火被覆を施したS造、近年では技術の進歩により木造でも可能に

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法的要件

建築基準法で定められた主要構造部の耐火性能基準を満たす必要があります

耐火建築物の定義と基本的な特徴

耐火建築物とは、建築基準法第2条第9号の2に定められた、建物の主要構造部(柱、梁、床、屋根、壁、階段など)に高い耐火性能を持つ材質が使用されている建築物のことを指します。これらの主要構造部は、火災発生時に建物利用者が避難するまでの間、倒壊することなく性能を維持し、近隣への延焼を防ぐことができる構造となっています。

 

耐火建築物の主な特徴は以下の通りです。

  • 火災時に一定時間(最長3時間)建物の倒壊を防ぐ能力
  • 火災の拡大を抑制し、避難時間を確保
  • 周辺建物への延焼を防止する性能
  • 防火区画や防火設備の設置による安全性の確保

一般的に耐火建築物は、鉄筋コンクリート造RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、耐火被覆を施した鉄骨造(S造)などで建設されます。近年の技術進歩により、特殊な処理を施した木造でも耐火建築物の基準を満たすことが可能になってきました。

 

耐火建築物の主要構造部に求められる耐火時間

耐火建築物の主要構造部には、建物の階数や部位によって異なる耐火時間が建築基準法で定められています。これらの時間は、火災発生時に建物の安全性を確保するために必要な最低限の性能基準となります。

 

主要構造部ごとの耐火時間の基準は以下の通りです。

主要構造部 最上階・階数2~4の階 階数5~14の階 階数15以上の階
耐力壁 1時間 2時間 2時間
1時間 2時間 3時間
1時間 2時間 2時間
はり 1時間 2時間 3時間
屋根 30分 30分 30分
階段 30分 30分 30分

これらの耐火時間は、「非損傷性」「遮熱性」「遮炎性」という3つの性能基準に基づいて評価されます。

 

  • 非損傷性:構造耐力上支障のある変形、溶解、破壊その他の損傷を生じないこと
  • 遮熱性:加熱面以外の面の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないこと
  • 遮炎性:屋内に火災を出す原因となるき裂その他の損傷を生じないこと

これらの基準を満たすことで、火災発生時に建物の構造的安全性を確保し、避難時間を十分に確保することができます。

 

耐火建築物と準耐火建築物の違いと選択基準

耐火建築物と準耐火建築物は、どちらも火災に対する安全性を高めるための建築物ですが、求められる性能レベルに違いがあります。

 

【主な違い】

  1. 耐火性能の差
    • 耐火建築物:最長3時間の火災に耐える性能
    • 準耐火建築物:最長1時間の火災に耐える性能
  2. 構造上の要件
    • 耐火建築物:主要構造部すべてが耐火構造であることが必要
    • 準耐火建築物:耐火建築物の条件を満たさないが、それに準じた耐火性能を持つ
  3. 適用される建築物
    • 耐火建築物:高層建築物や大規模建築物、防火地域内の建築物に要求
    • 準耐火建築物:中規模建築物や準防火地域内の建築物に多く採用

【選択基準】
建築物の種類や用途、立地条件によって、耐火建築物と準耐火建築物のどちらを選択するかが決まります。

 

  • 防火地域内の建築物:原則として耐火建築物が要求される
  • 準防火地域内の建築物:規模や用途によって耐火建築物または準耐火建築物が要求される
  • 高層建築物(高さ13m超または軒高9m超):耐火建築物が要求されることが多い
  • 特定用途の建築物(劇場、病院、ホテルなど):規模によって耐火建築物が要求される

建築計画の初期段階で、建物の用途や規模、立地条件を考慮し、適切な耐火性能を選択することが重要です。コスト面では、準耐火建築物の方が経済的ですが、安全性や保険料の面では耐火建築物の方が有利な場合があります。

 

耐火建築物の構造例と使用される材料

耐火建築物を実現するための構造方法と使用される材料は多岐にわたります。ここでは代表的な構造例と材料について解説します。

 

【鉄筋コンクリート造(RC造)】
最も一般的な耐火建築物の構造で、鉄筋とコンクリートの複合構造により高い耐火性能を実現します。コンクリートは熱伝導率が低く、火災時に内部の鉄筋を高温から保護する役割を果たします。

 

【鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)】
鉄骨と鉄筋コンクリートを組み合わせた構造で、RC造よりもさらに高い強度と耐火性能を持ちます。大規模な建築物や高層建築物に適しています。

 

【耐火被覆を施した鉄骨造(S造)】
鉄骨自体は高温で強度が低下するため、耐火被覆材で保護することで耐火性能を確保します。耐火被覆材には以下のようなものがあります。

  • 耐火モルタル
  • ロックウール
  • けい酸カルシウム板
  • 耐火塗料

【耐火木造】
近年技術の進歩により、木造でも耐火建築物の基準を満たすことが可能になりました。主な方法

  • 燃エンウッド工法:木材を不燃材料で覆う方法
  • 木質ハイブリッド集成材:木材の内部に難燃処理を施す方法
  • 石膏ボードなどによる被覆:木材を耐火性能のある材料で覆う方法

【その他の耐火材料】

  • ALC(軽量気泡コンクリート)パネル
  • コンクリートブロック
  • レンガ
  • 石材
  • 耐火ガラス(開口部用)

これらの材料や構造方法を適切に組み合わせることで、建築基準法で定められた耐火性能を満たす建築物を実現することができます。材料選択の際には、耐火性能だけでなく、コスト、施工性、意匠性なども考慮する必要があります。

 

耐火建築物の保険料メリットと維持管理のポイント

耐火建築物は火災に対する安全性が高いことから、保険料面でのメリットがあります。また、その性能を長期間維持するためには適切な管理が必要です。

 

【保険料のメリット】
火災保険では、建物の構造によって保険料率が異なります。一般的に住宅の構造は以下の3つに分類されます。

  • M構造(マンション構造):コンクリート造、コンクリートブロック造、レンガ造、石造の集合住宅、耐火建築物の集合住宅
  • T構造(耐火構造):コンクリート造、コンクリートブロック造、レンガ造、石造、鉄骨造の建物、耐火建築物、準耐火建築物(集合住宅以外)
  • H構造(非耐火構造):上記に該当しない建物

保険料率は一般的に M構造 < T構造 < H構造 の順に高くなります。つまり、耐火建築物(M構造またはT構造)は非耐火構造(H構造)と比較して、火災保険料が安くなるメリットがあります。

 

具体的には、同じ条件で比較した場合、H構造に比べてT構造は約30〜40%、M構造は約50〜60%保険料が安くなることがあります。建物の規模や用途によって異なりますが、長期的に見ると大きなコストメリットとなります。

 

【維持管理のポイント】
耐火建築物の性能を維持するためには、以下のポイントに注意した定期的な点検と維持管理が重要です。

  1. 防火区画の維持
    • 防火扉や防火シャッターの作動確認
    • 区画貫通部の適切な処理の確認
    • 防火区画を破壊する改修工事の防止
  2. 耐火被覆材の点検
    • 鉄骨の耐火被覆材の剥がれや損傷の確認
    • 天井裏や壁内の耐火被覆材の状態確認
  3. 外壁の維持管理
    • ひび割れや損傷の早期発見と修繕
    • 外壁塗装による防水性・耐久性の維持
  4. 防火設備の点検
    • 消火器、スプリンクラー等の定期点検
    • 非常用照明、誘導灯の動作確認
  5. 定期的な法定点検
    • 建築基準法第12条に基づく定期調査・検査の実施
    • 消防法に基づく消防用設備等の点検

これらの維持管理を適切に行うことで、耐火建築物の性能を長期間維持し、火災時の安全性を確保することができます。また、適切な維持管理は建物の資産価値を保つことにもつながります。

 

定期的な点検と記録の保管は、保険契約上も重要な意味を持ちます。火災発生時に適切な維持管理がなされていなかった場合、保険金の支払いに影響する可能性もあるため注意が必要です。

 

東京消防庁:防火管理と消防計画について詳しい情報

耐火建築物における外壁塗装の重要性と選定基準

耐火建築物において、外壁塗装は単なる美観の維持だけでなく、建物の耐火性能を保持するための重要な要素です。適切な外壁塗装は建物の耐久性向上や防火性能の維持に大きく貢献します。

 

【外壁塗装の役割】

  1. 防水性の確保

    耐火建築物の主要構造部を水分から保護し、コンクリートの中性化や鉄筋の腐食を防止します。これにより構造体の耐火性能が長期間維持されます。

     

  2. 耐候性の向上

    紫外線や風雨による劣化から建物を保護し、外壁材の寿命を延ばします。

     

  3. 防火性の付加

    特殊な耐火塗料を使用することで、建物の防火性能を高めることができます。

     

【耐火建築物に適した塗料の選定基準】
耐火建築物の外壁塗装には、以下の性能を持つ塗料を選定することが重要です。

  • 不燃性・難燃性:JIS A 1321に基づく不燃性試験に合格した塗料や、建築基準法で定められた不燃材料、準不燃材料、難燃材料の基準を満たす塗料を選択します。
  • 耐久性:紫外線や風雨に強く、長期間性能を維持できる塗料が望ましいです。シリコン系、フッ素系、無機系塗料などが高い耐久性を示します。
  • 透湿性:内部の湿気を外に逃がす透湿性のある塗料は、壁体内部の結露を防ぎ、構造体の劣化を防止します。
  • 防汚性:汚れが付着しにくく、メンテナンス頻度を減らせる塗料は長期的なコスト削減につながります。

【おすすめの塗料タイプ】

  1. シリコン系塗料
    • 耐候性:約10〜15年
    • 特徴:バランスの良い性能と比較的リーズナブルな価格
    • 用途:一般的な耐火建築物の外壁塗装
  2. フッ素系塗料
    • 耐候性:約15〜20年
    • 特徴:非常に高い耐候性と防汚性
    • 用途:高層建築物や長期メンテナンスフリーを求める建物
  3. 無機系塗料(ラジカル制御型)
    • 耐候性:約15〜25年
    • 特徴:高い耐候性と防汚性、環境負荷の低減
    • 用途:高耐久性を求める公共建築物や商業施設
  4. 耐火塗料
    • 特徴:火災時に発泡して断熱層を形成し、構造体を保護
    • 用途:鉄骨造の耐火被覆や木造の耐火性能向上

【塗装工事の注意点】
耐火建築物の外壁塗装工事では、以下の点に注意が必要です。

  • 防火区画や防火設備を損なわないよう配慮する
  • 塗料の施工時に必要な養生を適切に行い、防火性能に影響を与えないようにする
  • 塗装後の検査で防火性能が維持されていることを確認する
  • 塗装工事の記録を保管し、建物の維持管理履歴として残す

適切な外壁塗装は、耐火建築物の性能維持と長寿命化に大きく貢献します。定期的な点検と計画的な塗り替えを行うことで、建物の資産価値を保ちながら安全性を確保することができます。

 

国土交通省:建築物の防火・避難規制の解説ページ