

目視では異常なしでも、実は舗装内部で層間剥離が起きていてブリスタリング直前の状態になっていることがあります。
ブリスタリング(blistering)とは、アスファルト舗装の内部に閉じ込められた水分が気化し、その水蒸気圧によって舗装表面が円形に膨れ上がる現象です。英語の「blister(水ぶくれ)」が語源で、名前のとおり、路面にぷくぷくとした水ぶくれが多数発生する状態になります。
膨れのサイズは直径数cmの小さなものから、直径20〜30cm以上の大きなものまでさまざまです。はがきの横幅(約15cm)と同じかそれ以上の膨れが舗装全体に広がるケースもあり、路面の平坦性が著しく失われます。
発生の流れを順番に整理すると、次のようになります。まず、舗装体の層間や床版と防水層の間に水分が滞留します。次に、夏季の強い日射によって舗装体の温度が上昇し(路面温度が60℃前後になることも珍しくありません)、滞留していた水が水蒸気に変わります。そして、表層の空隙率が低下していると水蒸気の逃げ道がなくなり、蒸気圧が上昇して表層を押し上げるのです。
研究データによれば、温度60℃のときの水蒸気圧は約0.02MPaとされています。これは体重70kgの人が靴サイズ25cmの足底に受ける圧力と同程度です。一見わずかな力のようですが、空隙率が2〜3%程度まで低下した表層に対しては、高さ10mm以上の膨れを引き起こすには十分な圧力になります。
つまり、水蒸気圧が問題なのではなく、「空隙率の低下」によって逃げ場を失った蒸気が原因ということですね。
ブリスタリングが進行すると、膨れ部分にひび割れが発生し、そこから雨水がさらに浸入する悪循環が始まります。コンクリート床版が湿潤状態になると、乾燥状態と比べて50〜300倍の速さで疲労破壊に至るという研究報告もあり、放置は絶対に避ける必要があります。
<参考:独立行政法人土木研究所 Webマガジンによるブリスタリング現象の解説>
研究成果の紹介|積雪寒冷地における空港舗装のブリスタリング現象の調査と対策(土木研究所)
ブリスタリングの原因は「水分+高温+不透気」の3つが揃ったときに発生します。それぞれの要因を現場目線で掘り下げてみましょう。
まず水分の浸入経路について、最も多いのが「施工目地」からの浸水です。既設舗装と新設舗装の継ぎ目は温度差があるため、加熱合材が既設舗装に熱を奪われて締め固まりにくく、弱点部になりやすいのです。この弱点部から雨水が入り込み、表層と基層の間に滞留します。国土技術政策総合研究所の調査では、「施工目地部の透水性が高い」ことがブリスタリングの主要因として挙げられています。
次に、見落とされがちな原因が「基層の交通開放中の降雨」です。粗粒度アスコンで施工された基層は空隙が多く、雨水を吸いやすい性質があります。基層施工後に雨天となり、その状態で表層を施工すると、翌夏にブリスタリングが発生したという実例が国内空港で報告されています。これは教訓です。
また、橋面舗装では「床版コンクリート内の水分」がブリスタリングを引き起こすケースもあります。山の神大橋(函館江差自動車道、L=241m)の事例では、基層施工後に令和3年5月の時点で直径15〜20cmのブリスタリングが100箇所以上確認されました。防水工施工の3日前に48.5mm/日の降雨があったことが、床版コンクリート内の水分を増加させた要因と推察されています。
さらに、タックコートの施工不良も重大リスクです。タックコートは表層と基層を接着するために散布する瀝青材料ですが、養生不足や雨天時施工、あるいは合材搬入車両のタイヤによる剥がれなどが原因で付着力が低下します。タックコートの付着力が弱いと、表層が基層から離れやすい状態(層間剥離)になり、ブリスタリングの下地が整ってしまいます。
これは意外ですね。タックコート不足は「接着不良」の問題だと思われがちですが、ブリスタリングの引き金にもなるのです。
最後に空隙率の問題があります。国土交通省の事例では、ブリスタリングが発生した箇所の改良前の空隙率が表層混合物で2〜3%まで低下していたことが確認されています。通常の密粒度アスコンの設計空隙率は3〜6%程度ですが、供用後に航空機や車両の荷重で締め固められ、2〜3%台に低下すると通気性がほぼ失われます。空隙率の低下が原因という点が基本です。
<参考:国土交通省航空局によるアスファルト舗装破損メカニズムの詳細資料>
アスファルト舗装破損のメカニズムと対策の方向性(国土交通省航空局)
ブリスタリングを防ぐには、設計・配合・施工の3段階で対策を講じることが重要です。一つだけ対処しても根本的な解決にはなりません。3つが揃って初めて実効性のある予防になります。
📐 設計段階の対策
国土交通省の空港舗装補修要領(平成23年4月改訂)では、ブリスタリング対策として「表層の1層仕上がり厚は8cm、表層の空隙率は3%以上を原則とする」と明記されています。表層を厚くする理由は2つあります。一つは、アスコン自体の重量が増えることで膨れに対する抵抗力が上がること、もう一つは、表層を5cmから8cmに厚くすることで、舗装体内の最大温度が約4℃低下するというデータがあるためです。4℃の差は一見小さく見えますが、水蒸気圧の発生量に直接影響するため、無視できない数字です。
🧪 配合段階の対策
改質Ⅱ型アスファルト混合物の使用が標準的な対策として推奨されています。改質アスファルトは供用後の交通荷重による空隙率低下を抑制する効果があります。剥離防止剤の使用もあわせて検討に値します。
🔧 施工段階の対策
施工段階では主に以下の3点が重要です。
- タックコートには改質タックコート(PKM-T等)を使用する。研究データでは通常のPK-4と比較して引張強度が0.25MPaと高く(PK-4は0.18MPa)、界面で破壊しにくいことが確認されています。
- 基層施工後の降雨時には、表層施工前に雨水をしっかり除去する。国内空港の事例では「基層の交通開放を行わない」という対応も取られています。
- 施工目地部については、既設舗装をバーナーで加熱してから施工するか、成形目地材を使用することで水分侵入を抑制できます。
改質タックコートが条件です。速乾性と付着性を兼ね備えており、夜間工事が多い空港や交通量の多い道路での施工に特に有効です。PKM-Tは従来タックコートと比較して母材破断率63%(PK-4は0%)と高く、界面破壊を起こしにくいことが示されています。これは現場担当者がタックコートの種類を見直すだけで実践できる対策です。
<参考:国土技術政策総合研究所による空港アスファルト舗装の層間剥離・ブリスタリング詳細解説>
空港アスファルト舗装の層間剥離・ブリスタリングについて(国土技術政策総合研究所)
すでにブリスタリングが発生してしまった場合、その規模や状況に応じて補修方法を選択します。補修の選択を誤ると、一時的に見た目が治っても数ヶ月後に再発する可能性があります。
🔍 まず発生規模と形態を確認する
補修前の調査が重要です。目視だけでは確認が難しいブリスタリングも多く、サーモカメラ(赤外線サーモグラフィ)を使った調査が有効です。気温上昇時に舗装内部の空隙(膨れ部分)は周囲よりも早く熱せられるため、サーモカメラ画像に高温スポットとして映ります。実際、山の神大橋の事例では目視では確認できない箇所もサーモカメラで特定されました。打音調査との組み合わせも効果的です。
| 膨れの大きさ | 対処方法 |
|---|---|
| 直径10cm以下の小さな膨れ | 経過観察でも可(放置してよい場合あり) |
| 直径10cm以上の膨れ | ドリルで孔を開けて排気・注入材充填 |
| 膨れが密集・広範囲 | 舗装打換えを検討 |
🛠️ 補修手順(直径10cm以上の膨れの場合)
補修の基本的な流れは次の通りです。まず、φ6mmのドリルで膨れの中央付近に削孔し、内部の空気・水蒸気を逃がします。削孔する位置は「転圧進行方向の端部1点」が最も効果的であることが、試験施工で確認されています。単純に中央に孔を開けてローラー転圧すると、空気が移動して別の箇所が新たに隆起することがあるため注意が必要です。これは施工上の落とし穴です。
次に、コンバインドローラー(4t)で削孔箇所に向かって縦断方向に空気を押し出すように転圧します。施工時期は路面温度が50℃前後になる7月中旬以降が最適です。アスファルト混合物が軟化している状態でないと、転圧で膨れが潰れにくくなります。
その後、削孔した穴に塗膜系防水材やエポキシ系注入材を充填して止水します。最後に路面ヒーターやプロパンバーナーで温めながらローラーで転圧し、舗装を密着させます。
⚠️ 打換えを選択すべき状況
膨れの数が非常に多く密集している場合は、応急処置よりも舗装打換えを選ぶほうが長期的なコストを抑えられます。応急補修はあくまで拡大防止の措置であり、根本的な改良にはなりません。また、層間剥離が深い箇所にまで及んでいる場合は、どの深さまで切削すべきかを慎重に判断する必要があります。現時点では「最も浅い層間は取るべき」という指針はありますが、それ以深の判断基準は現場条件に応じた検討が求められます。
<参考:北海道開発局による橋面舗装のブリスタリング発生事例と除去方法の詳細>
山の神大橋の橋面舗装におけるブリスタリング対応について(北海道開発局)
ここでは、教科書やガイドラインには載っていない、現場担当者の視点で整理した「事前に気づけるサイン」をお伝えします。大規模な改修を避けるために、施工前・施工中のこまめな確認が欠かせません。
📋 施工前のチェックリスト
施工前に確認しておきたい項目を以下にまとめます。
- 直近3日間に10mm以上の降雨があった場合は、基層表面の水分状態を確認してから表層施工する
- 既設舗装のコア試料で空隙率を測定し、3%を下回っていないかを確認する
- タックコートの種類が改質系(PKM-T等)かどうかを発注仕様書で確認する
- 施工目地となる箇所の既設舗装温度が十分に上がっているかを確認する(冷えたままだと合材が締め固まらない)
🌡️ 施工中のチェックポイント
アスファルト混合物の敷きならし中に小さな気泡や膨れが発生した場合は、初期段階のブリスタリングです。この段階であれば千枚通しや釘で空気を抜き、木ゴテで叩いて密着させることで対処できます。対応が速いほど修復も容易です。
また、橋面舗装やトンネル内舗装では敷きならし面に油汚れが付着していないかを確認することも大切です。油分も気化してブリスタリングを引き起こす原因になるためです。
🔬 電気抵抗値による水分検知という新技術
近年、舗装層間の水分状態を電気抵抗値で計測する技術が試行されています。水分が多い(湿潤状態の)箇所は電気抵抗値が低くなる性質を利用したもので、ブリスタリングの「予兆」を定量的に把握できる可能性があります。実際に山の神大橋での試験では、補修後の水分増加がなかったことをこの技術で確認しています。センサーを設置して継続計測するモニタリング体制が、今後の予防保全の鍵になりそうです。
現場で日常的に使えるチェック項目と、最新の計測技術を組み合わせることで、ブリスタリングによる突発的な破損リスクを大幅に下げることができます。早期発見が最大の対策です。
<参考:アスファルトナビによるブリスタリングの基本解説と補修工法のまとめ>
ブリスタリングとは?対策方法はどんなものがあるのか(アスファルトナビ)