
フランジナットの規格はJIS B1189:2014に規定されており、ISO規格に準じた国際基準として制定されています。この規格では、従来の日本独自規格である付属書JA規定と、国際標準規格の2つのサイズ体系が併存している状況です。
現在市場で主流となっているのは、付属書JA規定(旧来からの規格)に基づくフランジナットです。例えば、M10サイズの場合、ISO準拠の現行規格では六角対辺が15mmとなっているのに対し、付属書JA規定では14mmとなっており、日本国内では14mmの方が広く流通しています。
フランジナットの基本的な構造は以下の要素から構成されます。
この一体構造により、通常のナットと比較してワッシャーが不要となり、組立て工程の簡素化と誤組立ての防止を実現しています。
現在主流の付属書JA規格(旧来規格)の詳細寸法は以下の通りです:
ねじの呼び | 平径(s) | 対角(e) | フランジ径(dc) | 全高(m) | 六角部高さ(m1) | フランジ厚さ(c) |
---|---|---|---|---|---|---|
M3×0.5 | 5.5mm | 6.08mm | 8mm | 3.7mm | 2.4mm | 1mm |
M4×0.7 | 7mm | 7.74mm | 10mm | 4.2mm | 3mm | 1.1mm |
M5×0.8 | 8mm | 8.87mm | 12mm | 5.5mm | 3.3mm | 1.1mm |
M6×1.0 | 10mm | 11.05mm | 13mm | 6mm | 4mm | 1.5mm |
M8×1.25 | 12mm | 13.25mm | 17mm | 7.5mm | 5mm | 1.5mm |
M10×1.5 | 14mm | 15.5mm | 19mm | 9mm | 6mm | 1.8mm |
ISO準拠の現行JIS規格では、より大きなサイズまで対応しており、M20まで標準化されています:
ねじの呼び | 六角対辺 | フランジ外径 | フランジ厚み | 高さ |
---|---|---|---|---|
M5 | 8mm | 11.8mm | 1.0mm | 5.0mm |
M6 | 10mm | 14.2mm | 1.1mm | 6.0mm |
M8 | 13mm | 17.9mm | 1.2mm | 8.0mm |
M10 | 15mm | 21.8mm | 1.5mm | 10.0mm |
M12 | 18mm | 26.0mm | 1.8mm | 12.0mm |
M16 | 24mm | 34.5mm | 2.4mm | 16.0mm |
M20 | 30mm | 42.8mm | 3.0mm | 20.0mm |
細目ねじも規格化されており、M8(1.0mm)、M10(1.0mm、1.25mm)、M12(1.25mm、1.5mm)などの選択肢があります。
フランジナットの材質は用途に応じて以下の種類から選定します:
🔩 ステンレス鋼(SUS304/316L相当)
⚙️ 鉄(SWCH相当)
✨ チタン合金
🏗️ BUMAX88(スーパーステンレス)
材質選定時の重要なポイントは、接触する相手材との電位差を考慮することです。異種金属接触による腐食を防ぐため、同一材質もしくは近い電位を持つ材質同士を組み合わせることが推奨されます。
フランジナットの施工において、規格に準拠した正しい取付け方法を理解することが重要です。
📐 適正トルク値の設定
各サイズに応じた締付けトルクの管理が必要です。過度な締付けはフランジ部の変形や破損を引き起こし、不足は緩みの原因となります。
🔄 緩み止め効果の活用
セレート付きフランジナットは、フランジ底面のギザギザが相手材に食い込むことで緩み止め効果を発揮します。この効果を最大限活用するため、相手材の表面状態(塗装、メッキ厚など)を考慮した選定が必要です。
⚡ 電気的接続での注意点
電気機器の接続では、フランジナットの導電性を活かした施工が可能です。従来のスプリングワッシャーを併用する方法と異なり、フランジナット単体で導電性と締結力を同時に確保できます。
🛠️ 工具選定のポイント
付属書JA規格品を使用する場合、対辺寸法が従来サイズのため、一般的なスパナ・レンチが使用可能です。一方、ISO準拠品では対辺が大きくなるため、対応する工具の準備が必要となります。
施工時の品質管理では、以下の検査項目を設定することを推奨します。
一般的な規格解説では触れられない、実際の現場で重要となる選定ポイントを解説します。
🌡️ 温度環境での材質劣化対策
高温環境(150℃以上)では、ステンレス鋼でも炭化物析出による粒界腐食が発生する可能性があります。このような環境では、BUMAX88やインコネル系合金製フランジナットの採用を検討すべきです。
🔬 微細振動下での緩み防止
従来のセレート付きフランジナットでも、微細で連続的な振動環境では緩みが発生することがあります。この場合、フランジ底面に嫌気性接着剤を塗布する手法や、ダブルナット構造との併用が効果的です。
💧 防水・防塵性能の向上
IP等級が要求される機器では、フランジナットの選定だけでなく、Oリング溝付きワッシャーとの組み合わせや、シーリング材の併用による防水対策が必要となります。
⚖️ 法規制対応での材質証明
建築基準法や消防法が適用される構造物では、使用する締結部材の材質証明書や試験成績書の提出が求められる場合があります。特にJIS認証品の使用が指定されることが多く、海外製品では対応できない場合があります。
🔄 メンテナンス性を考慮した選定
定期点検が必要な設備では、フランジナットの再使用可能回数を考慮する必要があります。セレート付きタイプは初回締付け時に相手材に食い込むため、再使用時の緩み止め効果が低下します。メンテナンス頻度が高い箇所では、セレート無しタイプと液状ガスケットの併用が推奨されます。
これらの検討ポイントを総合的に評価することで、長期間にわたって安定した性能を発揮するフランジナット選定が可能となり、建築物や設備の信頼性向上に寄与します。