

ガス軟窒化処理は、窒素と炭素を同時に浸入拡散させ、表面に炭窒化の化合物層(ε層など)を作り、その内側に窒化拡散層が形成されるのが基本構造です。
この「二層構造」を理解していないと、硬度の数字だけ見て「硬い=良い」と誤解し、狙った性能(耐摩耗、耐焼付き、疲労など)に届かないことがあります。
建築系の金物や設備部材で、たとえば摺動・嵌合・カム・ピン・ローラー周りの“かじり”を止めたい場合、表層の化合物層は摩耗や焼付きに効きやすい一方、厚くし過ぎると脆さ(欠けやすさ)側のリスクも増えます。
参考)窒化/軟窒化処理の種類と適用 【通販モノタロウ】
一方で拡散層は、母材近傍へ窒素が入って強化されるため、接触応力や繰返し荷重に対して「支える役」として効きますが、化合物層ほど表面の摩擦特性を支配しないこともあります。
参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/66/9/KJ00002657690.pdf
硬度の実務では、表面硬さ(最外層の硬さ)と、硬さ分布(深さ方向の硬さ勾配)をセットで見ると判断が安定します。
参考)軟窒化したJIS SCM420鋼の回転曲げ疲労試験における破…
実際に、ガス軟窒化を施した試験片で硬さ分布測定(マイクロビッカース)が行われるなど、評価が「表面一点」だけではないことが研究でも一般的です。
ガス軟窒化処理は、アンモニア系雰囲気に炭素供給源(例:CO2など)を組み合わせ、400〜600℃帯(通常は580℃)で処理する説明が一般に見られます。
この温度域は、焼入れのような相変態を伴う処理に比べて歪みが小さくなりやすい、といった文脈で語られることが多く、部品精度を崩したくない用途で選ばれやすい要因になります。
温度と時間は、硬度(表面硬さ)だけでなく、硬化層の厚さ(化合物層厚さ、拡散層深さ)にも直結します。
一般論として、温度が上がるほど拡散が進んで層は深くなりやすい一方、窒素濃度の関係で表面硬さが単純増加しない(むしろ低下し得る)という注意点が知られています。
ガス軟窒化は処理時間が比較的短い枠に収まりやすいとされ、たとえば「2〜5時間」程度の条件帯で説明される例があります。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/marketplace/51437/
ただし、同じ「ガス軟窒化」でも鋼種、前処理、目的(耐摩耗重視か、疲労重視か)で最適条件が変わるため、現場では硬さ分布や層厚の検証を前提に仕様化するのが安全です。
窒化・軟窒化加工の硬さ試験は、JIS B 6915においてJIS G 0563による旨が示されています。
JIS G 0563は、窒化層(窒化および軟窒化加工など)による表面硬さの測定方法を扱い、ビッカース、ヌープ、ショアなど、層厚に応じた手法の適用が整理されています。
ここで実務的に大事なのは「硬度計の種類」よりも、層厚に対して押込みが深くなり過ぎない荷重設定です。
参考)JISG0563:1993 鉄鋼の窒化層表面硬さ測定方法
たとえば窒化層深さが約0.01mm以上の場合にヌープ表面硬さ測定方法を適用する、といった目安が規格本文に示され、層が薄いほど測定条件がシビアになることが分かります。
また、目的によっては「化合物層を除去した試験品で硬さ試験を行う」ケースがあることも、規格側の備考として触れられています。
つまり「表面硬さ=製品性能」と決め打ちせず、白層(化合物層)を残した状態で評価するのか、除去して拡散層側の性格を評価するのかを、仕様書の段階で合意しておく必要があります。
硬さ分布を見たい場合、研究事例でもマイクロビッカース硬度計を用い、荷重(例:300 gf)を指定して測るように、条件固定が評価の前提になっています。
現場の受入検査でこの粒度まで毎回できないとしても、少なくとも初期立上げ時(試作・量産移行時)には「断面硬さ分布+組織観察」を一度セットで取り、後工程の検査を簡素化する流れが現実的です。
参考:窒化・軟窒化の表面硬さ測定(ビッカース/ヌープ/ショア、層厚と試験法の関係)
JIS G 0563:1993 鉄鋼の窒化層表面硬さ測定方法
硬度が設計値に届かないとき、最初に疑うべきは「処理そのもの」だけでなく、温度が硬さと深さに与える相反関係(高温で深くなるが表面硬さは下がり得る)です。
仕様が「表面硬さ(HV)だけ」になっていると、深さ方向の勾配が不足して荷重を支えられず、摩耗や早期な当たり負けとして現れる場合があります。
次に、材料側の要因として、窒化では鋼中の合金元素(例:Mo、Al、Crなど)が窒化物形成に関与する、という説明があり、鋼種の選定が硬さに影響し得ます。
参考)技術紹介
逆に、同じ処理条件であっても鋼種や熱履歴が違えば、化合物層・拡散層の出方が変わり、最終硬度も変わるため、「同じ炉で同じ時間」を当てにした横展開は危険です。
測定の落とし穴も大きく、層が薄いのに荷重が大きいと、母材の影響を拾って「硬度が低い」と出ます。
また、化合物層を残して測るのか、除去して測るのかで数値の意味が変わるため、発注側と加工側で“どの状態の硬度”か合意できていないと、検査で揉めます。
最後に、意外に見落とされやすいのが「耐食性・耐摩耗性=硬度ではない」という点で、例えばステンレスの窒化では拡散層が高硬度になり得る一方で耐食性が劣化する注意が述べられています。
建築設備で屋外・結露環境が絡むと、硬度を追うだけで材料選択を誤り、錆・外観劣化・摺動不良が別ルートで顕在化するため、硬度仕様に「環境条件」を必ず紐づけるのが安全です。
検索上位の解説は「処理の仕組み」や「硬度の一般論」に寄りがちですが、建築従事者の現場では「施工後に触れられる」「相手材が現場で変わる」ことが多く、硬度の扱い方に独特のコツがあります。
たとえば、同じ“高硬度表面”でも、相手材がSUS、亜鉛めっき鋼板、アルミ、樹脂ブッシュなどに変わると、摩耗形態が一気に変わるため、硬度値だけでなく“相手との組合せ”で仕様を切るべきです。
また、ガス軟窒化は相変態を伴わない処理として歪みが小さい文脈で扱われますが、建築金物では「穴位置」「ピッチ」「平面度」などの累積公差が効くため、歪みが小さいこと自体が大きな価値になります。
ここでの独自視点は、硬度目標を“最高値”に寄せるより、「許容する寸法変化」「再加工の有無」「現場での摺り合わせ可否」を先に決め、そこから層構成(化合物層・拡散層)と測定法(JIS条件)を逆算する設計プロセスです。
さらに、施工現場では潤滑が飛ぶ・粉塵が入る・水が回るなど、ラボと違う外乱があるため、硬度だけを合格基準にせず、耐焼付き・摩耗の評価観点を併記する方がトラブルが減ります。
疲労に関しても、ガス軟窒化後の評価で硬さ分布測定を行う研究例があるように、硬度の“分布”が性能と結びつくため、重要部位は断面硬さプロファイルを一度は取り、社内標準として残すと引継ぎが楽になります。
| 見るべき項目 | なぜ重要か | 根拠の方向性 |
|---|---|---|
| 化合物層(ε層) | 耐摩耗・耐焼付きに効くが、厚過ぎは脆さリスク | 化合物層+拡散層の二層構造として説明される |
| 拡散層 | 荷重支持・疲労に効くため、硬さ分布で評価すると安定 | 拡散層概念と硬さ分布測定の実施例 |
| 測定方法(JIS) | 層が薄いほど荷重条件で数値が変わるため、条件固定が必須 | JIS G 0563の適用範囲・手法区分 |