
光ケーブルの規格選定は建築プロジェクトの成功を左右する重要な要素です。現在の市場では多様な規格が並存しており、用途や距離、将来の拡張性を考慮した適切な選択が求められています。
建築業界では特に、建物内配線から長距離バックボーンまで幅広い用途で光ケーブルが使用されるため、各規格の特性を正確に理解することが不可欠です。近年のデジタル化推進により、従来以上に高性能な光通信インフラの需要が急増しています。
シングルモード規格は長距離通信において最も重要な規格となっています。OS1とOS2は共にコア径8~9μmの同一構造を持ちながら、性能面で明確な差異があります。
OS1規格は伝送損失が1310nmで0.5dB/km以下、1550nmで0.4dB/km以下と定められており、一般的な長距離通信に適用されます。一方、OS2規格はOS1よりも厳格な品質基準を設けており、特に1550nm帯での性能が優れています。
建築物のバックボーン配線では、OS2規格の採用が推奨されます。理由として、将来的な高速化への対応力と、長期運用における信頼性の高さが挙げられます。特に大規模建築物や複数棟を結ぶ配線では、OS2の優位性が顕著に現れます。
許容曲げ半径についても重要な差があります。標準的なOS1は30mm、低曲げ損失対応のOS2では15mmや7.5mmまで対応可能な製品があり、建築物内の狭小スペースでの配線に大きなメリットをもたらします。
波長1310nmと1550nmでの使い分けも実用上重要です。1310nm帯は機器コストが安価で短~中距離に適しており、1550nm帯は伝送損失が最小で長距離通信に最適化されています。建築プロジェクトでは両波長への対応を考慮した規格選定が望まれます。
マルチモード規格は短距離高速通信における主力規格として、建築物内LAN構築で広く採用されています。OM1からOM5まで5段階の規格が存在し、それぞれ異なる特性を持っています。
OM1規格はコア径62.5μm、LED光源対応で最小モード帯域200MHz・kmの性能を持ちます。建設コストは最も安価ですが、伝送距離が限定的なため、小規模オフィスビルでの使用に適しています。
OM2規格はコア径50μm、LED光源対応で最小モード帯域500MHz・kmとなっており、OM1よりも性能向上が図られています。中規模建築物での構内LAN構築において、コストパフォーマンスに優れた選択肢となります。
OM3規格からレーザー光源対応となり、性能が大幅に向上します。コア径50μm、最小モード帯域2000MHz・kmの高性能により、10ギガビットイーサネットでの300m伝送が可能です。現代の高速通信需要に対応する標準規格として位置づけられています。
OM4規格はOM3をさらに進化させ、最小モード帯域4700MHz・kmを実現しています。10ギガビットイーサネットで550m、40ギガビットイーサネットで150mの伝送が可能で、大規模建築物や将来の高速化を見据えた設計に最適です。
最新のOM5規格は最小モード帯域28000MHz・kmという高性能を誇り、短波長分割多重(SWDM)技術に対応しています。被覆色もライムグリーンと識別しやすく、次世代通信への準備として注目されています。
光ケーブルのコネクタ規格選定は、建築プロジェクトの配線密度と保守性に直結する重要な要素です。主要なコネクタタイプには、LC、SC、MPOがあり、それぞれ異なる特性を持っています。
LCコネクタは小型設計により高密度実装を可能にし、データセンターや高密度配線が必要な建築物で採用されています。片側ラッチ機構により誤挿抜防止機能を備え、保守作業時の安全性も確保されています。
SCコネクタは最も一般的な規格として広く普及しており、LANの世界標準となっています。プッシュプル機構により操作性に優れ、建築物内の一般的な光配線で標準的に使用されています。コネクタ外径が大きいため、高密度実装には不向きですが、堅牢性と信頼性に優れています。
MPOコネクタは多芯光ファイバの接続に特化した規格で、12芯や24芯の一括接続が可能です。データセンターや基幹系統の配線で威力を発揮し、配線工数の大幅削減を実現します。建築物内での幹線配線において、特に効果的な選択肢となります。
コネクタ研磨規格についても重要な検討項目です。PC(Physical Contact)研磨が標準的で、APC(Angled Physical Contact)研磨は反射減衰量の改善が可能ですが、コストが高くなります。建築プロジェクトでは用途に応じた適切な研磨規格の選択が求められます。
実装時の注意点として、コネクタタイプの統一性があります。建築物内で異なるコネクタタイプが混在すると、将来の保守や拡張時に変換アダプタが必要となり、追加コストと性能劣化の原因となります。
建築物内配線では限られたスペースでの配線が常に課題となり、光ケーブルの曲げ半径特性が重要な選定要因となります。従来の光ケーブルでは曲げ半径30mmが標準でしたが、近年の技術進歩により15mmや7.5mmまで対応可能な製品が登場しています。
小径曲げ対応技術の原理は、光ファイバのコア・クラッド構造の最適化にあります。屈折率分布の制御と特殊な材料設計により、急激な曲げでも光の漏洩損失を最小限に抑制することが可能になりました。
ITU-T G.657.A1規格では曲げ半径15mmでの性能が規定されており、建築物内の配線ボックスやパネル内での配線に大きなメリットをもたらします。さらに進歩したG.657.A2規格では7.5mmまで対応可能で、超狭小スペースでの配線も実現できます。
実用面では、曲げ半径の小型化により配線ボックスの小型化、建築物内スペースの有効活用、施工作業の効率化が実現されます。特に既存建物への追加配線や改修工事において、その効果は顕著に現れます。
注意すべき点として、小径曲げ対応ファイバは一般的に高価格となることが挙げられます。プロジェクトのコスト制約と配線環境を総合的に評価し、必要な箇所にのみ適用することが現実的なアプローチとなります。
建築設計段階からの配慮も重要です。光ケーブルの配線ルートと曲げ箇所を事前に計画し、適切な曲げ半径規格の選定を行うことで、施工効率とコストパフォーマンスの最適化が図れます。
建築業界では5G、IoT、AI技術の普及に伴い、従来以上の高速大容量通信インフラが求められています。光ケーブル規格もこうした次世代通信技術への対応が重要な要素となっています。
400ギガビットイーサネットや800ギガビットイーサネットといった超高速規格の実用化が進んでおり、これらに対応可能な光ケーブル規格の選定が将来への投資として重要になっています。
短波長分割多重(SWDM)技術は、既存のマルチモードファイバを活用しながら伝送容量を大幅に向上させる革新的技術です。OM5規格がこの技術に対応しており、建築物の既設配線を有効活用しながら高速化が可能となります。
空間分割多重(SDM)技術も注目すべき技術で、マルチコアファイバやモード分割多重により、物理的な配線数を増やすことなく伝送容量の拡大を実現します。建築物内での配線スペース制約を解決する有効な手段として期待されています。
AOC(Active Optical Cable)技術は、光ケーブル自体にトランシーバー機能を内蔵し、従来の光モジュールが不要になる革新的な製品です。建築物内の機器間接続において、大幅な省スペース化と低電力化を実現します。
将来の建築プロジェクトでは、これらの次世代技術への適応性を考慮した光ケーブル規格の選定が重要です。初期コストは高くなりますが、長期的な運用コストと将来の拡張性を総合的に評価することで、最適な投資判断が可能となります。
特殊な建築用途として、耐火性能や耐震性能を重視した光ケーブルの開発も進んでいます。非常時通信の確保や災害対策において、建築物のライフライン機能を支える重要な要素として、今後さらなる技術発展が期待されます。
住友電工の技術情報によると、光ファイバの性能向上と多様化が継続的に進んでおり、建築業界のニーズに対応した製品開発が活発化しています。
住友電工オプティフロンティアの光ファイバ技術情報
パンドウイットの解説記事では、光ファイバ規格の体系的な理解に役立つ情報が提供されています。