

世界のデータセンター冷却市場は2024年に168億4000万米ドルと評価され、2032年までに424億8000万米ドルへ成長すると予測されています。この急速な拡大の背景には、生成AIの普及によるGPUサーバーの需要増加があり、従来型サーバーと比較して消費電力が格段に高いという特性があります。データセンターが全世界の電力消費量の4%を占める状況となり、冷却システムはデータセンター全体のエネルギー消費の35~60%を占めるため、効率的な冷却技術の開発が市場成長の鍵となっています。
参考)https://diamond.jp/zai/articles/-/1034336
日本市場においても、データセンター冷却市場は2024年の25億米ドルから2033年には69億米ドルへ成長し、年平均成長率11.6%での拡大が見込まれています。この成長を牽引するのは、ハイパースケールデータセンターの需要増加、クラウドサービスの拡大、AIおよび高性能ワークロードの導入増加です。特に不動産従事者にとって重要なのは、データセンター開発が物流施設やオフィスビルよりも高い利回りを提供する投資対象として注目されている点です。
参考)https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E6%A5%AD%E7%95%8C-%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88/%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E5%86%B7%E5%8D%B4%E5%B8%82%E5%A0%B4-101959
AIデータセンターの電力需要は2034年度には2025年度比で約13倍になることが予測されており、1サーバラック当たりの電力消費量は2027~2029年ごろには1MWに達する見込みです。この電力密度の上昇に伴い、従来の空冷方式では対応困難な状況が生じており、液体冷却技術への転換が業界全体の課題となっています。データセンターの立地選定においても、電力供給能力が最優先事項となり、不動産開発における新たな評価基準が形成されつつあります。
参考)https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202406100951
液体冷却システム関連の主要銘柄として、三菱重工業(7011)はKDDI(9433)、NECネッツエスアイ(1973)と共同開発した液浸冷却技術で、従来の空冷方式と比較して冷却にかかる電力消費量を94%削減することに成功しています。この液浸冷却システムは2024年度以降の発売が計画されており、既存データセンターでも活用可能な「ラック型液浸冷却システム」も開発されています。三菱重工業は液浸冷却技術を成長分野に位置づけ、市場での存在感を高めています。
参考)https://kabukarin.net/data-center/5904/
ニデック(6594)は米サーバー大手スーパー・マイクロ・コンピューターとサーバー用水冷モジュールを共同開発し、タイにおける生産能力を月産200台から2024年6月までに月産2000台へ、将来的には月産3000台以上に拡大する計画を発表しました。2025年3月期の純利益予想は前期比3割増の1650億円と3期ぶりの最高益更新を見込んでおり、データセンター向け水冷モジュールが今後の成長の牽引役として位置づけられています。
三櫻工業(6584)は日本企業として初めてリアドア式冷水熱交換器タイプの水冷式冷却装置を開発し、サーバーラックの背面に取り付けてパイプ内を循環する水で熱を吸収する仕組みを実現しました。この製品は世界トップクラスのスーパーコンピュータ「富岳」にも採用されており、データセンター向けサーマル・ソリューション事業の注力分野として展開されています。NTTデータグループ(9613)は三菱重工業と共同で既存データセンターでも活用可能な「ラック型液浸冷却システム」を構築し、実機検証において冷却にかかるエネルギーを自社ビル基準で92%削減することに成功しています。
参考)https://diamond.jp/zai/articles/-/1057629
データセンターの冷却技術は大きく分けて空冷方式、水冷方式、液浸冷却方式の3つに分類されます。従来の空冷方式は冷たい空気でサーバーを冷やす方法で、1ラックあたり20キロワット程度までの発熱しか冷却できないとされており、最新型GPU「H100」を搭載したサーバー2台の最大消費電力が合計20.4キロワットに達するため、対応限界に近づいています。空冷方式では大量のファンを稼働させる必要があり、多くの電力を消費するうえ、サーバラックの間や天井などに十分な空間を確保して空気の循環を促す必要があるため、スペース効率も低くなります。
参考)https://www.sbbit.jp/article/cont1/159638
水冷方式は約20度の水を管に通して循環させてサーバー内のチップを直接冷やす方法で、電力効率を約30%向上できるとされています。水冷方式は空冷よりも効率が良いものの、配管設備の設置や保守管理のコストが発生し、漏水リスクへの対策も必要となります。NTTコミュニケーションズは2025年3月までに日本で初めて液冷方式のサーバーをデータセンターに導入する計画を発表しており、直接液冷方式を国内のデータセンターで提供するのは国内初の見通しです。
参考)https://www.fanatic.co.jp/report/liquid_cooling_technology/
液浸冷却方式は絶縁性(電気を通さない性質)の液体にサーバー本体を丸ごと浸し、チップを直接冷媒に触れさせることで効果的にサーバーを冷却するシステムです。KDDI、三菱重工業、NECネッツエスアイの3社が開発した液浸冷却システムでは、1ラックあたり40キロワットの消費電力に対応可能で、消費電力も空冷方式に比べて9割以上の削減が期待できます。液浸冷却は冷却効率の高さに加えて、設置スペースを有効活用でき、サーバのハードウェア故障リスクを抑える効果も期待できるため、次世代の標準技術として注目されています。
参考)https://immersion-cooling.jp/faq/
データセンターは不動産投資家にとって魅力的なアセットとして注目されており、安定した需要が見込めること、長期的な賃料収入が期待できることが主な理由です。不動産サービス大手JLLのシニアディレクターは「今後数年間、最新型データセンターの市場規模は年率20%程度成長する」との見通しを示しており、物流施設が供給過多に陥る中、需要が激増するデータセンターは不動産各社にとって次なる金脈となっています。三井物産アセットマネジメントは神奈川県内で稼働中のデータセンターを取得し、約20MWの電力容量を確保する計画を公表しています。
参考)https://toyokeizai.net/articles/-/857071?display=b
日本GLPはデータセンターに特化した不動産ファンドを組成し、3500億円を調達しました。これにより1兆円規模のファンド拡大を目指しており、AIやクラウド需要に対応する動きを加速させています。三井不動産は2035年までにデータセンター開発に3000億円を追加投資すると発表し、従来の大規模施設に加え、利便性が高く通信遅延リスクを抑えられる「都心型」の開発にも取り組む方針です。大和ハウス工業や三井不動産など不動産デベロッパーがデータセンター開発に積極的に取り組んでおり、海外でのデータセンター開発で実績がある豪グッドマンや香港のESRなど海外の不動産勢も開発に前のめりです。
参考)https://www.kotora.jp/c/116147-2/
データセンター投資において重要な評価基準は電力供給能力です。AIを含むDXや技術革新によって今後はデータセンターに求められる計算処理能力が飛躍的に高まり、それに伴う電力密度の上昇が立地選定の最優先事項となっています。日本のデータセンター不動産市場に国内外の投資家が高い関心を示し、投資利回りが低下している状況ですが、それでも価格高騰が不動産取引の減少には明確に繋がっておらず、不動産投資環境は良好な状況が継続しています。次世代技術対応型の施設、特に液体冷却システムを導入したデータセンターへの投資は、新たな収益性を生む可能性があり、不動産ファンドにとって競争優位性に直結する戦略となっています。
参考)https://www.jll.com/ja-jp/insights/three-trends-in-the-japanese-data-centre-real-estate-investment-market
海外市場では液体冷却関連銘柄が既に大きな盛り上がりを見せており、米スーパー・マイクロ・コンピューターは昨年初めの100ドル近辺から今年1200ドル台に急騰し、約1年で12倍化しました。データセンター向け冷却装置を製造する米バーティブ・ホールディングス(VRT)は昨年初めの15ドル前後から今年109ドル台と7倍超に膨らみ、欧州では仏電機大手シュナイダー・エレクトリックが約1.6倍、スウェーデン機械メーカーのアルファ・ラバルが約1.5倍に上昇しています。台湾IT機器メーカーのギガバイト・テクノロジーはおよそ3.5倍まで値上がりする場面があり、液体冷却技術への期待の高さがグローバル市場で株価に反映されています。
日本のデータセンター冷却市場における主要企業には、Vertiv Co.、Schneider Electric SE、STULZ GMBH、Daikin Industries Ltd、Trane Inc.、Johnson Controls International PLCなどが含まれており、グローバル企業が日本市場にも積極的に参入しています。これらの企業は空調・冷却技術の分野で長年の実績を持ち、データセンター特有の高密度冷却ニーズに対応した製品ラインアップを展開しています。日本板硝子(5202)は液浸冷却対応の多心光コネクターを開発中であり、展示会で初展示することを明らかにしました。
参考)https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/japan-data-center-cooling-market/companies
独自の視点として注目すべきは、冷却液自体を供給する企業の動向です。ENEOSホールディングス(5020)はKDDIや米インテルなどと協業してサーバー用液浸冷却液「ENEOS IXシリーズ」を開発し、国内・海外それぞれの基準に準拠した商品、植物を原料としたカーボンニュートラル対応品の3つのラインアップを取りそろえ、世界展開を目指す構えです。液浸冷却システムの普及に伴い、冷媒液の継続的な供給とメンテナンスサービスが新たなビジネスモデルとして確立される可能性があり、不動産投資においても運用コストの観点から冷媒液供給体制を含めた総合的な評価が重要となります。また、HPCシステムズ(6597)のような科学・工学向け高性能コンピューターのソリューションを提供する企業も水冷システムを採用した製品を開発しており、ニッチ市場での技術蓄積が今後のデータセンター市場拡大において競争優位性となる可能性があります。
不動産従事者が押さえるべき重要なポイントは、データセンターの冷却技術が単なる設備仕様ではなく、運用コストと環境負荷削減に直結する投資判断の核心要素となっている点です。液浸冷却技術を採用したデータセンターは、従来の空冷方式と比較して大幅な省エネルギー化を実現し、長期的な運用コストの削減とESG投資の観点からも優位性を持つため、不動産ファンドや機関投資家からの評価が高まっています。今後のデータセンター開発においては、冷却システムの選択が投資リターンと資産価値に直接影響を与える時代が到来しており、関連銘柄の技術動向と市場シェアの把握が不動産投資戦略において不可欠となっています。
参考)https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr435-20250627-sadaka.html
参考リンク:データセンター冷却市場の詳細な市場規模予測と技術トレンドについては以下が参考になります。
Fortune Business Insights - データセンター冷却市場規模、シェア予測レポート
参考リンク:日本のデータセンター冷却市場の主要企業情報については以下をご覧ください。
Mordor Intelligence - 日本データセンター冷却市場の主要企業一覧
参考リンク:液浸冷却技術の仕組みとメリットの詳細については以下が有用です。
液浸冷却技術FAQ - よくあるご質問
参考リンク:データセンター向け冷却銘柄の投資動向と株価分析については以下が参考になります。
ダイヤモンドZAi - データセンター冷却システム関連銘柄の紹介
参考リンク:不動産投資家向けのデータセンター投資戦略については以下をご参照ください。