

印紙税の出発点は「契約書だから貼る」「請求書だから貼らない」といった通称ルールではなく、印紙税法の別表(課税物件表)に掲げられた“課税文書”かどうかです。国税庁が公開している印紙税額一覧表には、文書の種類(物件名)ごとに税額が整理されており、まずは自社の書類がどの番号(第1号〜第20号など)に該当するかを当てに行くのが最短ルートです。
特に建築実務では、契約書の表題が「業務委託契約書」「設計契約書」「工事請負契約書」など多様で、タイトルだけ見て判断するとズレやすいです。別表で見ているのは“実質”であり、例えば「仕事の完成を約し、報酬を支払う」関係なら請負(第2号文書)に寄っていきます。
次に重要なのが「1通(又は1冊)につき」という考え方です。印紙税額一覧表は原則として文書1通ごとに課税する設計で、同内容を2通作って双方が保管する運用なら、2通それぞれに印紙が必要になる方向で整理されます(現場では“原本2通”が普通なので見落としがちです)。
また、別表には「主な非課税文書」の例も添えられており、「同じ領収書でも5万円未満は非課税」など“金額ラインで課税・非課税が分かれる”論点が混ざります。つまり、建築の書類は「文書の種類」+「記載金額」+「作成形態(紙/電子)」の三点セットで判定すると事故が減ります。
参考:国税庁の公式「印紙税額一覧表(別表の税額)」がまとまっている(号数・税額・軽減も含む)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_ichiran_r0204.pdf
建築従事者に最も直結するのが、別表の「請負に関する契約書」(第2号文書)です。国税庁の説明では、請負とは「一方が仕事の完成を約し、他方が報酬を支払うことを約束することで成立する契約」で、建設工事のような有形の成果だけでなく、警備・機械保守・清掃など無形的な結果を目的とするものも含むとされています。つまり「工事」だけでなく、建物設備の保守点検、清掃、警備などを紙の契約書で締結する場合も、第2号文書の射程に入る場面があります。
税額は「契約書に記載された契約金額」で決まり、例えば1万円未満は非課税、1万円以上100万円以下は200円、100万円超200万円以下は400円…という段階構造です。さらに、国税庁は「建設工事の請負契約書」について、一定期間に作成するものは印紙税額が軽減される旨も明示しています(軽減対象かどうかで額が変わるため、現場の定型書式に“いつ作成する契約か”の管理が必要になります)。
ここで実務上ありがちな失敗は、「契約金額の記載がないから貼らない」と短絡することです。第2号文書は“契約金額の記載のないもの”でも200円と整理されています。工期や仕様は書いてあるが金額欄が空欄、あるいは「別紙見積による」だけで契約書本文に金額が書かれていない、といった書式運用だと、200円の貼付漏れが起きやすいので注意してください。
参考:国税庁「請負に関する契約書(第2号文書)」の定義・具体例・税額表がある
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7102.htm
工事の現場では、フルの「工事請負契約書」だけでなく、発注側の「工事注文書」と受注側の「注文請書」で契約成立を運用するケースが多いです。国税庁の説明でも、第2号文書の具体例として「工事注文請書」が挙げられており、注文請書は第2号文書に該当し得る前提で整理すべき書類です。つまり「契約書(製本)ではないから印紙不要」とは言えません。
判断のコツは、“それが契約の成立(承諾)を示す文書として行使されるか”という実務の使われ方に寄せて考えることです。発注書単体が「申込みの意思表示」にとどまり、承諾を示す請書が戻って初めて契約成立、という運用なら、課税リスクは請書側に集まりやすくなります。現場あるあるとして、発注書に「本書をもって契約とする」などの文言が入ると、発注書側も“契約書としての性格”を帯びてしまい、双方で貼付漏れ・二重貼付など運用事故の原因になります。
また、注文書・注文請書は、紙で交わすか、PDFでメール送付するか、電子契約サービスで締結するかで、印紙税の要否がブレます。紙で作成して押印・交換しているなら第2号文書として貼付を検討すべき一方、電磁的記録のみで完結する運用なら、そもそも印紙税が問題になる“課税文書(紙)”に当たらない設計になります(ただし、どこかのタイミングで紙に印刷して原本保管する運用に戻ると話が変わります)。
建築会社では「現場は紙、バックオフィスは電子」の混在が起きがちなので、契約成立の証拠をどの媒体で保存するのか、社内ルールを先に確定してから帳票を整えると、印紙の判断も安定します。
建築業では、請負契約(第2号)だけでなく、「受取書・領収書」の印紙も頻出です。印紙税額一覧表では、売上代金に係る金銭等の受取書(第17号文書)について、原則は1通につき課税される一方で、「記載された受取金額が5万円未満のもの」は非課税と整理されています。工事代金の一部入金、手付金、出来高払いなどで領収書を切る運用だと、この5万円ラインが現場の分岐点になります。
さらにややこしいのが、同じ「受取」でも、それが売上代金か、売上代金以外(例:借入金の受取、損害賠償金、補償金など)かで区分が分かれる点です。建築の現場では、遅延損害金、協力金、立替金精算、保険金、補助金など“売上代金と混ざりやすいお金”が発生することがあります。受取書の但し書きが曖昧だと、後から「これは売上代金(請負代金)の領収なのか、立替金の精算なのか」が判別しづらくなり、印紙の要否の説明も苦しくなります。
実務上は、領収書の但し書きを以下のように“別表の観点でブレない言い方”に寄せると安全です。
もちろん、但し書きだけで結論が決まるわけではありませんが、税務調査や社内監査で説明するときに、帳票の書き方がロジックの足を引っ張ることは多いです。印紙税は少額でも“形式ミス”が見つかりやすい分野なので、経理・現場事務が共有できるテンプレを作っておく価値があります。
検索上位の記事は「いくら貼るか」「電子契約なら不要」といった結論寄りの説明が多い一方で、建築実務で効いてくるのは“契約書の金額欄をどう設計するか”という地味な論点です。第2号文書は契約金額の記載があれば段階税率、記載がなければ200円という整理なので、帳票設計次第で「貼る印紙が常に200円に固定されてラク」という誘惑が生まれます。ですが、金額欄を空欄運用にすると、別表上は200円で済んだとしても、別のリスク(契約トラブル時の証明力、下請法・建設業法の書面性、社内決裁の統制、監査での説明困難)を同時に抱え込みやすくなります。
建築の契約は、追加変更・設計変更・VE提案・スライド条項などで金額が動きやすく、契約締結時点で確定できない事情もあります。その場合の落としどころとしては、次のような“金額記載の粒度”を意識すると、印紙税だけでなく契約管理としても破綻しにくいです。
意外と見落とされがちなのが、「軽減税率(軽減措置)がある」場面は、作成年月日が判断要素になるため、契約書の版管理・日付管理がそのまま税額の根拠資料になる点です。紙の契約書は、現場で“日付空欄のまま回覧”→“押印後に日付を入れる”といった運用が起きがちですが、印紙税の軽減の適用期間が絡むと、いつ作成した文書かの説明が必要になります。結果として、金額欄だけでなく「日付欄・作成欄・版数」の運用設計が、印紙税の実務コストを左右します。
最後に、印紙税は「貼った/貼ってない」だけでなく、貼り方(消印)まで含めて完了です。現場でありがちな“印紙は貼ったが消印がない”“複数社の割印運用が曖昧”といった点も、別表の判定以前にミスとして見つかりやすいので、契約事務の手順書に「貼付→消印→保管」までを一連で書いておくと再発防止になります。