

今回「令和6年4月1日施行」を軸に、子育て支援から虐待対応、社会的養護の自立支援までを“つなぎ直す”改正が進みました。特に、市区町村での包括的相談支援(こども家庭センター等)と、児童相談所・一時保護所の質の底上げが同時に走る点が特徴です。根拠資料としては、改正全体の骨格がまとまった厚生労働省の「改正法概要」資料が最短で全体像を掴めます。
実務で重要なのは「施行=即日フル運用」ではなく、自治体の体制整備・委託先確保・予算化の進捗により、地域ごとに立ち上がり時期や密度がズレることです。例えば、こども家庭センターの設置は努力義務として位置づけられ、既存組織(子ども家庭総合支援拠点/子育て世代包括支援センター)を見直して統合的な相談支援を行うとされています。結果として、建築・設備の世界でも「既存施設の改修(相談ブース、個室化、動線分離)」と「新設(センター機能の集約)」の両方が案件化しやすくなります。
・改正の概要(制度全体/施行期日/各施策の箱)
https://www.mhlw.go.jp/content/000994205.pdf
・関係通知やガイドラインの所在(自治体運用・現場向けの入口)
https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/Revised-Child-Welfare-Act
改正の核の一つが、市区町村に「全ての妊産婦・子育て世帯・子ども」を対象にした包括的な相談支援の仕組みを置き、必要な人には支援計画(サポートプラン)を作ることです。資料では、こども家庭センターが「子ども家庭総合支援拠点」と「子育て世代包括支援センター」を見直した上で、相談支援を一体で行う機関として整理されています。つまり“福祉の相談窓口”が、母子保健・虐待予防・家庭支援のハブとして再設計されるイメージです。
ここで建築従事者が押さえるべきは、窓口が増えるというより「扱う相談の重さと守秘性が上がる」点です。妊娠届から産後支援、虐待リスク、要支援児童、特定妊婦など、センターが扱う相談テーマは幅広く、面談のプライバシー確保が施設計画の品質に直結します。具体的には、①受付(初期相談)と②継続面談(サポートプラン作成)と③関係機関連携(会議・オンライン含む)を同一フロアで無理に混在させると、音・視線・導線の衝突が起きやすく、利用控えを招きます。
また「身近な子育て支援の場(保育所等)における相談機関の整備」にも触れられているため、保育施設側でも相談スペース(個室・半個室、録音防止、待合の分離)が求められる局面が増えます。改修案件としては大規模でなくても、パーテーションで済ませない“音の設計”が実は効きます(吸音、扉の気密、換気騒音、BGM運用など)。
改正では、家庭に入り込む支援や、家・学校以外の居場所をつくる支援が、制度として整理されました。厚労省資料では、市区町村事業として「子育て世帯訪問支援事業(家事・養育支援)」や「児童育成支援拠点事業(居場所)」「親子関係形成支援事業」などが示されています。加えて、支援が必要な場合には市区町村が利用勧奨・措置を行うことも明記され、任意の“善意のサービス”から、行政の支援メニューとしての位置づけが強まっています。
建築・施設運営の観点では、「居場所」系の拠点が増えるほど、求められる性能が“学童クラブ+相談機能+安全配慮”のミックスになります。例えば居場所は、食事提供、学習支援、生活リズム調整、メンタル面のフォロー、関係機関調整などが例示されており、単なるフリースペースでは運用が破綻しやすいです。必要になりやすい要素は次の通りです。
意外に見落とされがちなのは、訪問支援(家事支援)と居場所支援が同時に回り始めると、「訪問スタッフの拠点(出退勤・着替え・記録・物品補充)」が要ることです。訪問スタッフが保育所や役所の片隅で記録を作る運用になると、情報管理・労務管理のリスクが跳ね上がります。小さくても“バックヤードを設ける”ことが、支援の継続性を左右します。
改正の中でもインパクトが大きいのが、一時保護の開始時に関する司法審査の導入です。厚労省資料では、児童相談所が一時保護を開始する際、親権者等が同意した場合などを除き、事前または開始から7日以内に裁判官へ一時保護状を請求する手続が示されています。これは“現場の判断”を否定する仕組みではなく、手続の透明性・適正性を制度として補強する方向です。
この変更は、建築実務にも間接影響します。なぜなら、司法審査が入ると、記録の正確性・説明可能性が今まで以上に問われ、結果として一時保護所・児童相談所の面接室や観察室、記録環境(情報セキュリティ、オンライン会議、文書出力)の整備が重要になるからです。さらに資料では、一時保護所について新たに設備・運営基準を策定し環境改善を図ること、第三者評価を受けること、定員超過がある自治体は解消計画を作ることなどが示されています。
「施設性能=子どもの権利に直結する」局面が増えるため、設計・施工側の提案も変わります。例えば、子どもにとって“生活の場”である以上、見守りのための死角対策と、監視しすぎない尊厳のバランスが必要です。防犯カメラの設置一つでも、設置位置や運用ルール(録画期間、閲覧権限)まで含めた合意形成がないと、後からトラブルになりやすい領域です。
検索上位の解説は法改正の“制度の説明”が中心になりがちですが、建築従事者向けに一段深掘りするなら「改正は“部屋の用途”を増やす改正でもある」という捉え方が有効です。こども家庭センター、地域の相談機関、居場所拠点、里親支援センター、一時保護所の環境改善、意見表明支援など、制度側が求める機能が増えるほど、施設側は“複合用途化”します。複合用途化は便利な反面、計画の甘さがあると、守秘・安全・感染症対応・クレーム対応が一気に噴き出します。
そこで、設計初期に決めておくと効く「運用から逆算した建築要件」を、現場目線で整理します(発注者・運営者との合意形成に使える観点です)。
意外な落とし穴として、施設が整うほど「関係者会議」が増え、会議室不足がボトルネックになりやすい点があります。こども家庭センターがサポートプランを作り、関係機関と連絡調整する役割を担うことが明示されている以上、会議(対面・オンライン)を回す部屋は“あれば便利”ではなく“なければ機能しない”設備になります。小規模でも、可動間仕切り+オンライン会議対応の会議室を確保する提案は、発注者に刺さりやすい実装ポイントです。