
瑕疵担保責任とは、建築物に欠陥(瑕疵)があった場合に、建築業者や売主が負うべき法的責任のことです。「瑕疵(かし)」という言葉は「欠陥」を意味し、建物が通常有すべき品質や性能を欠いている状態を指します。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)では、新築住宅について、構造耐力上主要な部分(基礎、柱、梁など)と雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁など)について、引き渡し後10年間の瑕疵担保責任を義務付けています。この責任は、建築業者が倒産しても消費者を保護するための重要な制度です。
瑕疵担保責任が適用される具体的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。
これらの欠陥は、実際に建物が傾いたり雨漏りしていなくても、将来的に影響する可能性がある場合には瑕疵と判断されることが多いです。
瑕疵担保責任の対象となる範囲は、法律で明確に定められています。品確法では、新築住宅の「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」が対象となり、これらの部分については10年間の瑕疵担保責任が課せられます。
【構造耐力上主要な部分】
【雨水の浸入を防止する部分】
瑕疵担保責任の期間については、基本構造部分は10年間ですが、それ以外の部分については契約で定めることができます。一般的には以下のような期間設定が多いです。
なお、瑕疵が発覚した場合、買主は売主に対して発覚後1年以内にその旨を通知し、発覚後5年以内に損害賠償等の請求を行わなければなりません。10年間の責任期間と5年間の請求期間の時効は、早い方が優先されます。
建築における瑕疵は、「客観的瑕疵」と「主観的瑕疵」の2種類に分類されます。この区別は、瑕疵担保責任を考える上で非常に重要です。
客観的瑕疵とは、建物が通常有すべき品質・性能を有していない状態を指します。例えば、建築基準法に違反する構造的欠陥や、耐震強度の不足、防水処理の不足による雨漏りなどが該当します。これらは一般的な建築基準や法令に照らして欠陥と判断されるものです。
一方、主観的瑕疵とは、当事者間で特に契約で定めた合意内容に違反する欠陥を指します。例えば、特定の工法や材料を使用することを契約で合意したにもかかわらず、異なる工法や材料で施工された場合などが該当します。
主観的瑕疵に関しては、平成15年10月10日の最高裁判決(いわゆる「鉄骨事件」)が重要な先例となっています。この事件では、マンションの主柱について300mm×300mmの鉄骨を使用することが契約で合意されていたにもかかわらず、施工者が250mm×250mmの鉄骨を使用した事例について争われました。最高裁は、たとえ安全性に問題がなくても、契約で特に約定された重要な内容に違反した施工には瑕疵があると判断しました。
この判決は、建築における瑕疵担保責任が単に法令違反や安全性の問題だけでなく、契約内容の遵守という観点からも重要であることを示しています。建築業者は、契約で合意した仕様や工法を厳守する必要があり、それに違反した場合は瑕疵担保責任を負うことになります。
2020年4月1日に施行された民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」という概念は「契約不適合責任」へと変更されました。この変更は建築業界にも大きな影響を与えています。
主な変更点は以下の通りです:
ただし、注意すべき点として、新築住宅については品確法に基づく瑕疵担保責任(10年間)が引き続き適用されます。つまり、新築住宅の基本構造部分については「瑕疵担保責任」という言葉が継続して使用され、それ以外の部分については「契約不適合責任」という言葉が使用されるという二重構造になっています。
実務上は、新築住宅の売買契約や工事請負契約では、基本構造部分以外の契約不適合責任の期間を「引き渡し後2年以内」とするのが一般的です。また、建築設備の機器本体、室内の仕上げ・装飾、家具、植栽などについては、引き渡し前の内覧会時に指摘しなかった場合は契約不適合責任を負わないとする規定も多く見られます。
この民法改正により、建築業者はより明確な契約内容の策定と、それに基づく施工が求められるようになりました。
建築業者が倒産した場合でも消費者を保護するため、2007年に「住宅瑕疵担保履行法」が制定されました。この法律により、新築住宅の売主や施工会社は、「保険に加入する」または「保証金を供託する」ことが義務付けられています。
1. 住宅瑕疵担保責任保険
住宅瑕疵担保責任保険は、国土交通大臣が指定する保険法人が提供する保険で、新築住宅の引き渡し後10年以内に瑕疵が見つかった場合、補修を行った事業者に保険金が支払われる仕組みです。
この保険の最大の特徴は、建築業者が倒産した場合でも、住宅所有者が保険法人に直接請求できる点です。保険金の上限は通常2,000万円程度で、支払われる保険金は主に以下の費用をカバーします。
また、この保険に加入している住宅は、住宅紛争処理制度も利用できます。この制度では、住宅の不具合や契約違反などのトラブルが発生した場合、住宅紛争審査会(各地の弁護士会)の弁護士や建築士があっせんや調停・仲裁などの処理を行います。申請料は1万円と比較的安価です。
2. 保証金の供託
保証金の供託は、建築業者が法律で定められた額の保証金を法務局などの供託所に預けておく制度です。供託金額は、過去10年間の引渡し戸数に応じて計算されます。
建築業者が倒産などで瑕疵の補修ができない場合、住宅所有者は供託所に対して、保証金から必要な金額の還付を請求することができます。
住宅瑕疵担保履行法の対象
住宅瑕疵担保履行法の対象となるのは「新築住宅」です。具体的には、新たに建設された住宅で、建設工事の完了から1年以内で、かつ人の居住の用に供したことのないものが対象となります。また、建築後1年を経過した住宅や、既に人が住んだことのある住宅でも、一定の条件を満たせば「新築住宅」として扱われる場合があります。
この制度により、建築業者の倒産というリスクから消費者を守る仕組みが整備され、安心して住宅を購入できる環境が整えられています。建築業者としては、この制度を理解し、適切に対応することが信頼獲得につながります。
建築業者として瑕疵担保責任や契約不適合責任に適切に対応するためには、予防的な取り組みと問題発生時の対応の両面が重要です。以下に、建築業者が取るべき実務対応をまとめます。
予防的対応
問題発生時の対応
建築業者が特に注意すべき点として、主観的瑕疵(契約で特に合意した内容に違反する欠陥)についても責任を負うことが挙げられます。前述の「鉄骨事件」の最高裁判決のように、たとえ安全性に問題がなくても、契約で特に約定された重要な内容に違反した施工には瑕疵があると判断される可能性があります。
また、リフォーム工事の場合は、新築時と異なる業者が工事を行った場合、その工事が原因で発生した問題については、新築時の建築会社は瑕疵担保責任を負いません。リフォーム業者が責任を負うことになるため、リフォーム工事を請け負う際には、既存部分と新設部分の境界を明確にしておくことが重要です。
瑕疵担保責任や契約不適合責任は、建築業者にとって大きなリスク要因となりますが、適切な予防策と対応策を講じることで、そのリスクを最小化し、顧客との信頼関係を構築することができます。