
景品表示法は、一般消費者を保護し公正な競争市場を維持するための法律として、事業者が提供する景品類に厳格な金額規制を設けています。建築業界においても、住宅購入や建築請負契約に関連する景品提供の際には、この法律を正しく理解し遵守する必要があります。
景品類の金額規制は、消費者が景品の魅力に惑わされることなく、商品やサービスの本質的な品質や価格を基準として合理的な選択を行えるようにすることを目的としています。過度に高額な景品を提供すると、消費者の適正な判断を阻害し、他の事業者との競争が不公平になる恐れがあるため、提供できる景品の上限額が明確に定められています。
景品表示法における景品類とは、事業者が商品やサービスの取引条件として提供する物品やサービスのことを指します。具体的には、商品の購入やサービスの利用に対して追加で提供されるプレゼントや特典が該当し、正常な商慣習に照らしてアフターサービスや付属的な経済上の利益と認められない限り、金額規制の対象となります。
建築業界では特に不動産取引に関して特別な景品規制が適用されており、建築条件付土地の場合は土地の売買契約と建物の建築請負契約でそれぞれ異なる規制が適用される点に注意が必要です。土地売買契約については不動産の景品規約の適用を受け、建築請負契約については一般ルールの適用を受けることになります。
一般懸賞とは、くじ引きや抽選などの偶然性を用いて消費者に景品を提供する方法を指します。建築業界でも新築物件の契約者を対象とした抽選キャンペーンなどで活用されることがあります。
一般懸賞における景品類の最高額は、取引価額によって明確に区分されています。取引価額が5,000円未満の場合は取引価額の20倍まで、5,000円以上の場合は一律10万円までが上限となります。例えば、3,000円の商品を対象とした抽選では、1名に対する景品の最高額は60,000円(3,000円×20倍)または10万円のいずれか低い方となるため、60,000円が上限となります。
さらに重要なのは景品類の総額規制です。一般懸賞では、キャンペーン全体で提供する景品の総額が、懸賞にかかる売上予定総額の2%以内に抑える必要があります。この規制により、事業者は景品提供の規模を適切に管理することが求められます。
建築業界で具体的に考えると、5,000万円のマンション販売キャンペーンで抽選を実施する場合、取引価額が5,000円以上なので景品類の最高額は10万円までとなります。また、売上予定総額が10億円の場合、景品総額は2,000万円(10億円×2%)以内に収める必要があります。
総付景品とは、消費者が一定の取引を行った場合に懸賞によらず確実に提供される景品を指します。「先着100名様にプレゼント」や「購入者全員にもれなく進呈」といった形式が該当し、建築業界では住宅見学会来場者へのノベルティ配布などで頻繁に活用されます。
総付景品の金額規制は、取引価額が1,000円未満の場合は景品の最高額が200円まで、1,000円以上の場合は取引価額の20%(10分の2)までと定められています。例えば、3,000円の商品購入者全員に景品を提供する場合、その景品の価値は600円(3,000円×20%)までとなります。
建築業界では高額な取引が多いため、総付景品の計算において注意が必要です。例えば、住宅購入契約者全員に家具や家電製品をプレゼントする場合、住宅価格が3,000万円であれば、提供できる景品の上限は600万円(3,000万円×20%)となります。ただし、不動産取引の場合は特別な景品規約が適用されるため、実際には取引価額の10%または100万円のいずれか低い額が上限となります。
購入を条件とせずに来店者にもれなく景品を提供する場合、取引価額は原則として100円として計算されるため、提供できる景品は20円(100円×20%)が上限となります。この点を理解せずに高額なノベルティを配布すると、景品表示法違反となる可能性があります。
景品類の上限額を正確に算定するためには、取引価額を正しく計算することが不可欠です。取引価額とは、景品類の価額の算定の基礎となる金額であり、購入者を対象として購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を取引価額とします。
複数の商品やサービスの両方を購入することを条件とする場合は、それぞれの商品等の購入額を合算した額を取引価額として扱います。建築条件付土地の例で考えると、土地代金が900万円で建物の請負代金が1,500万円の場合、土地売買契約については不動産景品規約による提供限度額(900万円×10%=90万円)、建物請負契約については一般ルールによる提供限度額(1,500万円×20%=300万円)となり、合計390万円までの景品類が提供できます。
賃貸借契約において家財保険への加入を条件としている場合でも、保険料は保険会社が受領するものであるため、保険料は取引価額には含まれません。このように、取引価額の算定においては実際に事業者が受領する金額のみを基準とする点に注意が必要です。
建築業界では、媒介報酬を無料とした場合の取引価額や、リフォーム工事と設備機器販売を同時に行う場合の合算方法など、実務上の判断が難しいケースが多く存在します。景品提供を計画する際には、取引価額の算定方法を専門家に確認することが推奨されます。
建築業界では、不動産取引に関する特別な景品規制が適用されるため、一般的な商品販売とは異なる配慮が必要です。不動産業における景品提供については、「不動産業における一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」という告示に基づく規制が適用されます。
不動産取引における総付景品の限度額は、取引価額の10%または100万円のいずれか低い額の範囲内とされています。例えば、800万円の土地を販売する場合、総付景品の上限は80万円(800万円×10%)となります。一方、1,500万円の物件では150万円(1,500万円×10%)となるはずですが、100万円の上限規制により実際には100万円が上限となります。
建築請負契約においては、不動産景品規約の適用はなく、一般的な景品表示法のルール(取引価額の20%以内)が適用されます。このため、同じ建築業界内でも取引の種類によって適用される規制が異なる点を正確に理解しておく必要があります。
住宅展示場での来場者プレゼントや完成見学会でのアンケート回答者への謝礼なども景品類に該当する可能性があります。特に購入を条件としない来場者プレゼントの場合、取引価額は100円として扱われるため、提供できる景品は原則として20円相当までとなる点に注意が必要です。ただし、実務上は正常な商慣習の範囲内として一定の配慮がなされる場合もあります。
景品表示法に違反した場合、事業者には厳しい罰則が科される可能性があります。主な罰則として、消費者庁による措置命令、課徴金納付命令、さらに2024年10月1日から施行された直罰規定による罰金刑があります。
措置命令は、消費者庁が違反を認定した場合に発令されるもので、違反行為の停止や再発防止策の実施を求める内容となります。命令に従わない場合や悪質な違反の場合は、さらに重い制裁が科される可能性があります。令和4年度の実績では、景品事件に関する措置命令は0件でしたが、消費者庁による行政指導は計9件行われており、継続的な監視が行われています。
課徴金納付命令は、違反表示(優良誤認・有利誤認)によって得られた対象商品の売上額の3%を基準に算定されます。この課徴金は刑事罰ではなく行政上の措置として科されるものですが、企業にとっては大きな経済的負担となります。
2024年10月1日から施行された直罰規定は、優良誤認表示や有利誤認表示について、措置命令を経ずに直接100万円以下の罰金を科すことができる制度です。この改正により、悪質な違反行為に対する抑止力が大幅に強化されました。
罰則以外にも、景品表示法違反が報道されることによる社会的信用の喪失は、企業にとって計り知れないダメージとなります。建築業界では信頼が重要な要素となるため、法令遵守の徹底が事業継続の前提条件といえます。
これらの罰則を回避するためには、景品提供企画を実行する前に必ず景品表示法の規定を確認し、自社での判断が難しい場合は弁護士などの専門家にアドバイスを求めることが重要です。特に弁護士と顧問契約を締結すれば、景品表示法に関する疑問点についていつでも相談できる体制を整えることができます。
参考リンク(景品表示法の詳細な規制内容について)
https://www.89ji.com/keihyou-guide/keihyou_present.html
参考リンク(建築業における景品提供の具体的な計算方法について)
https://www.sfkoutori.or.jp/keihinteikyojirei/keihinteikyo-houho-gendogaku/
参考リンク(景品表示法違反時の罰則詳細について)
https://corporate.vbest.jp/columns/8166/