
組み合わせ最適化は、離散的な値を取る変数の中から、目的関数を最大化または最小化する最適な組み合わせを見つける問題です。建築事業においては、限られた資源(人員、時間、予算)を効率的に配分する際に活用される重要な手法となっています。例えば、工程間の関連性や各作業に必要な能力、人員の希望条件などを満たしながら、最適な工程計画と人員配置を策定する場面で威力を発揮します。
参考)最適化技術を活用した建設プロセスの業務効率化
組み合わせ最適化問題の多くはNP困難と呼ばれる問題に属しており、厳密な最適解を求めるには膨大な計算時間が必要です。30都市の巡回セールスマン問題を例にすると、10テラフロップスの計算機でも全組み合わせを調べるのに25京年かかる計算となります。しかし、近似解法を用いることで、実用的な時間内で最適解に近い答えを得ることが可能になっています。
参考)組合せ最適化の意味や活用方法は?例題や応用事例をご紹介します…
この問題に対する解法は大きく4種類に分類されます。基礎的な探索(幅優先探索、深さ優先探索など)、OR(オペレーションズ・リサーチ)による解析的アプローチ、ヒューリスティック探索、そしてメタヒューリスティック探索です。建築事業では、問題の特性に応じてこれらの手法を使い分けることで、現場の課題を効率的に解決できます。
参考)組み合わせ最適化問題の解法あれこれ|CO-WRITE ─ A…
Pythonで組み合わせ最適化問題を解くための代表的なライブラリには、PuLP、Pyomo、CVXPY、DEAPなどがあります。PuLPは数理最適化のためのライブラリで、線形計画問題や整数計画問題、混合整数計画問題を扱うことができ、歴史が長く日本語資料も豊富です。Pyomoはオープンソースの最適化フレームワークで、より広範囲な問題に対応しています。
参考)線形計画問題・混合整数計画問題をソルバーで解く
ソルバーとは、定式化された最適化問題を実際に解くツールのことです。PuLPにはCBCというソルバーが付属しており、特別な設定なしで利用できます。その他の高性能な商用ソルバーとしてCPLEXやGurobiがあり、線形計画法や混合整数計画法に強みを持っています。オープンソースのソルバーとしてはGoogle OR-Toolsも人気があり、PuLPと処理速度を比較した検証も行われています。
参考)【技術Tips】Pythonの数理最適化ライブラリ「PuLP…
ライブラリとソルバーの選択は問題の規模や性質によって異なります。小規模な問題であればPuLP+CBCの組み合わせで十分ですが、大規模で複雑な問題には商用ソルバーの導入が効果的です。建築事業における工程計画では、数千の変数と制約条件を扱うことも珍しくないため、適切なツール選択が計算時間に大きく影響します。
参考)https://zenn.dev/asagumo/articles/7c6e7c0144ee9f
PuLPを使った基本的な実装方法を紹介します。まずライブラリをインポートし、最適化問題オブジェクトを作成します。問題の種類(最大化または最小化)を指定し、変数を定義します。変数には連続変数(LpContinuous)、整数変数(LpInteger)、0/1変数(LpBinary)の3種類があります。
参考)Python SciPyで手を動かしながら学ぶ数理最適化href="https://www.salesanalytics.co.jp/datascience/datascience201/" target="_blank">https://www.salesanalytics.co.jp/datascience/datascience201/amp;#…
制約条件の追加にはaddConstraint
メソッドを使用し、目的関数はsetObjective
で設定します。複数の項を合計する場合、Python組み込みのsum()
よりもlpSum()
を使うと高速に処理できます。最後にsolve()
メソッドでソルバーを実行し、problem.status
で解の状態を確認します。
実装例として、ナップサック問題のコードでは、商品の重量と価値のリストから、重量制限内で価値を最大化する組み合わせを求めます。変数には各商品の個数を表す整数変数を使い、重量合計の制約条件と価値合計の目的関数を設定します。このような基本パターンを理解すれば、建築事業特有の問題にも応用できます。
参考)整数計画法: pythonとgurobiを使って建設計画を最…
建築現場における工程計画と人員配置計画の策定は、組み合わせ最適化の典型的な応用例です。工程間の関連性、作業に必要な能力、各人員の希望などの条件を満たしながら、限られた人員リソースを適切に配置する必要があります。2024年からの建設業への労働時間上限規制の施行により、これまで以上に効率的な人員配置が求められています。
構造計画研究所では、OR技術を活用した独自の「最適工程・人員配置計算アルゴリズム」を開発し、複雑な条件を守りながら日々の工程と必要人員を自動配置するシステムを実現しました。これにより、計画担当者の負荷軽減と属人性の低減に成功しています。また、工期の遅れや変更に伴う計画の見直しも迅速に対応できるようになりました。
材料調達業務にも組み合わせ最適化が応用されています。生地幅の選択と切れ端廃棄金額の最小化、切り替え工数の削減を同時に実現する問題では、LpProblemを使った定式化により年間コストの大幅削減に成功した事例があります。資材の最適な発注量や配送計画の策定にも、同様のアプローチが有効です。
参考)組合せ最適化を材料調達に応用してみた #Python - Q…
組み合わせ最適化の最大の課題は、問題規模が大きくなると計算時間が指数関数的に増大することです。厳密な最適解を求めるのは現実的に困難なため、実務では近似解を用いることが一般的です。近似解は全ての組み合わせを調べずに最適だと思われる解を見つける方法で、計算時間を大幅に削減できます。
ソルバー選択では、問題の性質と規模を考慮する必要があります。無料で利用できるCBCソルバーは中小規模の問題に適していますが、大規模問題では商用ソルバーのCPLEXやGurobiが優れた性能を発揮します。Google OR-ToolsはPuLPよりも高速な処理が期待できるケースもあり、数独の解法比較では処理速度の違いが確認されています。
参考)Pythonで最適化問題を解く場合のライブラリとソルバー #…
実装における注意点として、変数の上下限制約の設定、制約条件の論理的な正確性、目的関数の適切な重み付けが挙げられます。また、解が得られない場合は制約条件が厳しすぎる可能性があり、条件の緩和や段階的な問題の分割が有効です。建築事業では、現場の実態に即した柔軟な定式化が成功の鍵となります。
建築業界で組み合わせ最適化を実装する際には、業界特有の制約条件を正確にモデル化することが重要です。例えば、施工の順序関係(基礎工事の後でなければ躯体工事ができない等)、特定の資格を持つ作業員の配置要件、天候による工程への影響などを考慮する必要があります。
参考)https://www.oracle.com/jp/construction-engineering/construction-scheduling/
整数計画法を用いた建設計画の最適化では、Pythonとgurobiを組み合わせた実装が効果的です。実行可能領域中に含まれる多数の整数の組み合わせからトライ&エラーで最適解を決定するアプローチにより、人員配置や施設配置計画などに広く利用されています。プレキャスト部材の生産スケジューリングでは、スタッフ配置制約、工程制約、工期制約を考慮した混合最適化モデルが活用されています。
参考)https://downloads.hindawi.com/journals/mpe/2021/6672753.pdf
BIMやIoTとの連携により、組み合わせ最適化の精度をさらに高めることができます。3Dモデルから自動的に工程情報を抽出し、IoTセンサーから収集した実績データを基に計画を動的に修正するシステムも実用化されています。清水建設や大成建設などの大手ゼネコンでは、こうした技術を積極的に導入し、現場の生産性向上と効率化を実現しています。
参考)ゼネコンのDX事例10選。建設業スーパーゼネコンや中堅ゼネコ…
整数計画法による建設計画最適化の詳細な解説
建設現場における最適化技術の具体的な活用事例
線形計画問題・混合整数計画問題をソルバーで解く実装ガイド