
掘削液は大きく分けて水ベースと油ベースの2種類に分類されます。それぞれの特性や用途は掘削作業において重要な選択基準となります。
水ベースの掘削液は、一般的に広く使用されており、主成分は水とベントナイト(粘土)の懸濁液です。主な特徴としては、コストが比較的安く、取り扱いが容易であることが挙げられます。また、環境への影響も油ベースに比べて少ないため、環境規制の厳しいエリアでの使用に適しています。
水平掘削では主に水ベースの掘削液が使われ、比較的浅い掘削作業や一般的な工事現場で用いられることが多いです。しかし、高温や高圧条件下では性能が低下する傾向にあり、特定の地層に対しては効果が限定的であるという欠点もあります。
一方、油ベースの掘削液は、従来はディーゼル油をベースとして使用されてきましたが、現在では環境への配慮から低毒性の鉱物油や合成油、エステルなどが使用されるようになっています。油ベースの掘削液は水/油のエマルジョン形態で、水ベースの掘削液よりも潤滑性や温度安定性に優れており、深い井戸の掘削に適しています。
油ベースの掘削液のメリットとしては以下が挙げられます。
一方でデメリット
掘削条件や地層の特性、環境要因、コスト制約などを総合的に考慮して、最適な掘削液のタイプを選定することが重要です。
ベントナイト系掘削液は、水ベース掘削液の中でも最も基本的かつ広く使用されているタイプです。ベントナイトは、モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物で、水と混合すると膨潤して高い粘度を示す特性があります。
ベントナイト系掘削液の主な特徴は以下の通りです。
ベントナイト泥水は、一般的に清水に適量のベントナイトを加えた基本形態で、掘削条件によっては分散剤や加重剤などを添加することもあります。このタイプの掘削液は主に浅層の掘削に使用されますが、いくつかの短所も存在します。
ベントナイト系掘削液の短所
これらの短所を補完するために、様々な添加剤が開発されています。例えば、リグノスルフォネート泥水は、ベントナイト泥水にリグニンスルフォン酸誘導体とフミン酸誘導体を加え、pHを調整したもので、泥岩保護機能や温度安定性、塩分・セメント耐性が向上しています。
地中連続壁工法や場所打ち杭工法では、ベントナイトの配合率によってベントナイト系安定液とCMC系安定液に分類されることもあります。特に掘削深度が深く、地盤の安定性が重要な工事では、ベントナイト系掘削液の性能と管理方法が工事品質に大きく影響します。
掘削液としてのベントナイト泥水は、その粘性により掘削孔の安定性を保ち、掘削屑の除去を効率的に行うことができます。また、比較的安価で環境負荷が少ないという利点から、多くの建設現場で標準的に使用されています。
ポリマー系掘削液は、従来のベントナイト系掘削液と比較して、様々な優れた特性を持つ現代的な選択肢として注目されています。ポリマー系掘削液の特徴は、ベントナイトの添加量を最小限にして、様々な高分子ポリマーを添加していることです。
主なポリマー系掘削液に使用される成分には以下のようなものがあります。
キサンタンガムは特に注目されるポリマーで、少ない配合量で高い粘度を実現できる特性があります。また、水や塩水のマッドを安定させる機能も備えており、レオロジー(流動特性)の改善に効果的です。
高吸水性ポリマー(SAP)を利用した掘削安定液は、従来のベントナイト系安定液と比較して、掘削地盤の安定性向上、場所打ちコンクリート構造物の品質向上、産業廃棄物処分量の減量化などの利点があります。これらのポリマーは、原料体積の500倍前後に吸水膨張し、粘性を持つ特性があります。
最新技術として、複合高分子系添加材も開発されています。例えば、高吸水性樹脂(SAP)とノニオン系増粘剤(HEC)を主体とした複合高分子系添加材は、砂礫地盤の土砂圧送用に特化しています。この添加材は増粘作用に加えて、吸水樹脂によって形成された粒状体が地山の細粒分の代わりとなり、高い流動性を付与します。
KCl(塩化カリウム)泥水は、カリウム・イオンの優れた粘土膨潤抑制効果を活用したポリマー泥水の一種です。従来は扱いが困難でしたが、塩類溶液中でも効果を発揮するポリマー類や分散剤の開発により、現在では泥岩層の安定化や掘進率の向上、掘りくずの運搬能力向上などに活用されています。
ポリマー系掘削液のメリット
一方、デメリット
ポリマー系掘削液は、環境負荷の低減や特殊条件下での性能向上など、様々な現代的ニーズに応える技術として、今後もさらなる発展が期待されています。
掘削液の選定において、環境への影響を考慮することは現代の建設・掘削業界において不可欠な要素となっています。掘削液は、地下への注入および地上での廃棄プロセスにおいて環境に影響を与える可能性があります。
掘削液が環境に与える主な影響には以下のようなものがあります。
環境への懸念から、多くの政府機関や環境保護団体は掘削液の使用と廃棄に関する厳しい規制を実施しています。例えば、米国環境保護庁(EPA)は、2001年に石油およびガス採掘部門に対して、合成ベースの流体やその他の非水性流体の使用に関連する排水ガイドラインを発行しました。
これらの規制に対応するため、業界では以下のような環境配慮型の掘削液が開発されています。
日本国内においても、環境負荷低減のための取り組みが進んでいます。例えば、天然由来の成分を使用した高分子添加剤(α-グルコースアミロペクチンなど)を用いた掘削液は、環境への影響が少ないとされています。
掘削液選定の際の環境配慮ポイント。
特に水源保護区域や生態学的に敏感なエリアでの作業では、より厳格な環境配慮が求められます。油ベースの掘削液は水質汚染のリスクが高いため、このような地域では水ベースの掘削液や環境配慮型の特殊掘削液の使用が推奨されます。
今後の規制動向としては、さらに厳しい環境基準の導入や、リサイクル・再利用の促進、環境監視要件の強化などが予想されます。建設業界は、これらの規制変更に先駆けて対応策を検討し、環境に配慮した掘削液の選定と管理を実践することが重要です。
掘削液の効果を最大限に発揮し、環境負荷を最小限に抑えるためには、適切な管理と廃棄処理が不可欠です。ここでは現場での掘削液の管理方法と廃棄処理における重要なポイントについて解説します。
掘削液の日常管理
掘削液は使用中に様々な要因で性能が変化するため、定期的な監視と調整が必要です。
水溶性掘削液の場合、希釈方法にも注意が必要です。水質、添加順序、攪拌時間などが最終的な性能に影響します。エマルジョンタイプ(A1種)の水溶性切削油剤は乳白色の外観となり、潤滑性に優れていますが、適切な管理が性能維持に不可欠です。
ポリマー系掘削液では特に、添加剤の効果を最大限に引き出すための適切な混合手順を遵守することが重要です。高吸水性ポリマー(SAP)を使用した掘削液は、その特性を活かすためには正確な配合と管理が必要となります。
廃棄処理のポイント
掘削液の廃棄処理は環境規制に準拠しつつ、コスト効率も考慮する必要があります。
掘削液の管理と廃棄処理におけるベストプラクティス。
これらの取り組みは、環境保護コンプライアンスを確保するだけでなく、コスト削減や作業効率の向上にも寄与します。特に長期的なプロジェクトでは、掘削液の適切な管理によって、液の寿命延長やパフォーマンス維持が可能となり、総合的なコスト効率が向上します。
最新の管理技術としては、IoTセンサーを活用したリアルタイムモニタリングシステムやAIによる最適配合の自動調整なども開発されており、今後の掘削液管理の効率化と精度向上が期待されています。これらの技術を活用することで、現場の状況に応じた最適な掘削液性能の維持と環境負荷の低減を両立させることが可能になるでしょう。