
モルタル磨き仕上げ、別名「人造石研ぎ出し仕上げ」は、セメントと種石を混ぜ合わせた材料を塗り付け、硬化のタイミングを見計らって研磨する伝統的な左官技術です。この技法は、塗装では得られない独特の質感と耐久性を兼ね備えており、近年再び注目を集めています。
研磨によって表面を仕上げるため、塗装のように剥離する心配がなく、メンテナンス費用を抑えられるという大きなメリットがあります。また、セメントの色と種石の色の組み合わせによって多様な表現が可能であり、床や巾木、手すり、カウンターなど様々な部位に使用されています。
モルタル磨き仕上げは、かつては人件費が安く石材が高価だった時代に、本物の石に近い仕上がりを経済的に実現する方法として広く用いられていました。丸の内や霞ヶ関などの古いビルの床や手すりには、この技法が多く使われていました。
縮めて「ジントギ」と呼ばれることもあり、種石の大きさによって「人造石研ぎ出し仕上げ」(種石5-12mm程度)と「現場テラゾ仕上げ」(種石15mm以上)に分類されることもあります。
かつては学校の地流しや公園の滑り台など公共施設でよく見られた仕上げでしたが、一時期は施工時のホコリ問題などから敬遠される傾向にありました。しかし、近年の研磨機器の進化により、ほとんどホコリを出さずに施工できるようになったことで、再び注目を集めています。
特に、塗装では表現できない独特の質感や耐久性が見直され、モダンなインテリアデザインにおいても活用されるようになってきました。
モルタル磨き仕上げの施工は、以下の手順で行われます。
研磨作業では、荒いものから細かいものへと砥石やペーパーを数回に分けて使用し、最終的に水磨きを行うことでツルツルとした質感を実現します。
施工に必要な主な道具は以下の通りです:
最近の研磨機器は集塵カバーが付いており、掃除機に直結することでほとんどホコリを出さずに作業できるようになっています。また、大型の研磨機を使用することで、広い面積も効率よく施工することが可能になりました。
モルタル磨き仕上げの魅力は、種石の選び方によって様々な表情を作り出せる点にあります。種石の種類、サイズ、色によって仕上がりの印象が大きく変わるため、目的に合わせた選択が重要です。
種石の種類と特徴:
種石のサイズは、前述のように5-12mm程度の小さいものから15mm以上の大きいものまで様々です。大きい種石を使用するほど塗り付けや研磨の作業が難しくなりますが、より豪華で存在感のある仕上がりになります。
デザインのバリエーションとしては、単色の種石を使用するシンプルなものから、複数の色を組み合わせたもの、さらには目地を使って模様を作り出すものまで多岐にわたります。特に目地を使ったデザインは、床面などで効果的です。
真鍮製の目地を2~3mピッチで入れることで、クラック防止と同時にデザイン性を高めることができます。目地で区切られた部分ごとに異なる色の研ぎ出しを施すことで、より複雑で美しいパターンを作ることも可能です。
埼玉の遠山記念館の玄関床にある亀甲模様の研ぎ出し仕上げは、職人の技術の粋を集めた素晴らしい例です。各模様が中央に少し膨らんでいるという細部へのこだわりが、伝統的な職人技の素晴らしさを物語っています。
モルタル磨き仕上げと一般的な塗り床を比較すると、それぞれに特徴があります。
モルタル磨き仕上げの特徴:
塗り床との比較:
モルタル磨き仕上げの施工ポイントとして重要なのは、種石と種石の隙間がないようにしっかりと鏝で伏せ込むことです。これを怠ると、研ぎ出しても石がまばらな状態になったり、気泡が多く入ってしまったりして、美しい仕上がりにならない可能性があります。
また、研ぎ出すタイミングも重要な要素です。中に入っている石の硬さや季節によってセメントの硬化スピードが異なるため、適切なタイミングを見極める職人の経験が必要になります。
モルタル磨き仕上げの大きな魅力の一つは、適切なメンテナンスを行うことで長期間美しい状態を保てる点です。塗り床と異なり表面層が剥離する心配がないため、基本的なメンテナンスさえ行えば、数十年にわたって美観を保つことが可能です。
日常的なメンテナンス:
定期的なメンテナンス:
ワックスは表面の保護と光沢の維持に効果的です。特に床面など摩耗が激しい部分では、定期的なワックスがけが重要になります。ワックスの種類は、水性と油性があり、用途や好みに合わせて選択できます。
長期的な美観保持のためには、以下の点に注意することが重要です:
適切なメンテナンスを行うことで、モルタル磨き仕上げの美しさと機能性を長く保つことができます。特に公共施設や商業施設など人の往来が多い場所では、定期的なメンテナンスが不可欠です。
近年では、より耐久性の高い特殊なワックスやコーティング剤も開発されており、メンテナンス頻度を減らすことも可能になってきています。施工時に適切な保護剤を選択することで、長期的なメンテナンスコストを抑えることができるでしょう。
モルタル磨き仕上げは、適切な施工と定期的なメンテナンスにより、美しさと機能性を兼ね備えた床や壁面を長期間にわたって維持することができる素晴らしい技術です。伝統的な左官技術と現代の技術が融合することで、さらに可能性が広がっています。
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