

金属の話題でモース硬度を使うときの第一の注意点は、「モース硬度は相対的な比較尺度」であり、例えば“硬度4が硬度2の2倍硬い”といった意味にはならないことです(あくまで引っかき傷が付くかどうかの順序・段階)。
そのうえで建築・設備・金物の説明では、会話の共通土台として「だいたいこの硬度帯」という一覧が強力です。下の表は、純金属や代表的材料のモース硬度の“目安”を、現場で使いやすい形でまとめたものです(範囲表記のものは条件差が出やすいことを示します)。
| 分類 | 材料 | モース硬度(目安) | 現場メモ |
|---|---|---|---|
| 純金属 | P(リン) | 1.5 | 極めて軟らかい側 |
| 純金属 | Sn(スズ) | 1.8 | 指・工具で傷が入りやすい帯 |
| 純金属 | Au(金) | 2.5 | 「純金は柔らかい」の根拠になりやすい |
| 純金属 | Ag(銀) | 2.7 | 装飾金物の“傷つきやすさ”説明に便利 |
| 純金属 | Al(アルミ) | 2.9 | 軽くても表面が削れやすい場面がある |
| 純金属 | Cu(銅) | 3.0 | 銅系は摩耗粉・擦り傷の話につながる |
| 純金属 | Ni(ニッケル) | 3.5 | めっき材料の比較にも出る |
| 合金 | 黄銅 | 3〜4 | 真鍮部品の擦れ・カジリ検討の入口 |
| 鉄系 | 鋳鉄 | 4.0 | 硬さは高めでも脆さとは別概念 |
| 合金 | リン青銅 | 4.0 | 摺動部品の材料比較で出やすい |
| 純金属 | Fe(鉄) | 4.5 | 純鉄の目安として押さえる |
| 鉄系 | 軟鋼 | 5〜6 | 同じ“鉄”でも硬度帯が変わる例 |
| 鉄系 | 硬鋼 | 6〜6.5 | 刃物・工具に近づく帯 |
| 金属 | クロム | 9 | 硬質めっきの“硬さ側”の象徴 |
ここで意外と誤解されるのが、「硬度が高い=割れにくい」ではない点です。ダイヤモンドは硬度が高くても衝撃で割れることがある、という説明は、硬度と靭性(粘り強さ)を混同しがちな現場コミュニケーションを正すのに役立ちます。
鉱物標準片を常備していない現場では、身近な物でモース硬度帯を推定するのが現実的です。倉敷市立自然史博物館の解説では、爪(2〜2.5)、銅貨(3〜3.5)、軟鉄(4〜4.5)、ガラスや縫い針・押ピン(5〜6)、鋼ヤスリ(6.5)といった代用品が示されています。
ただし「粉が線状に付着して傷に見える」ことがあるため、布で拭いて本当に傷なのか確認する手順が重要です。この注意点は、金属の擦り傷トラブル(実は相手材の移着だった、など)を切り分ける初動にも応用できます。
実務的なコツとしては、次の2点を最初に決めておくと判断がブレにくくなります。
建築分野で「モース硬度」を出す理由は、引っかき傷・擦過・摩耗の説明が直感的だからですが、設計・品質保証・加工の会話ではビッカース硬度(HV)などの押込み硬さのほうが頻出です。倉敷市立自然史博物館のページでも、ビッカース硬度はダイヤモンド圧子を一定荷重で押し付け、できた凹みの大きさで決める工業的な精密測定法として説明されています。
一方で、モース硬度とHVを「厳密に一対一で換算する表」を作るのは難しい(測定原理が違い、材料の組織や表面状態の影響も大きい)ため、運用は“目安変換”に留めるのが安全です。実務での落としどころは、次のように二段構えにすることです。
参考)宝石の硬度一覧表~モース硬度とビッカース硬度について
参考)硬度換算表
参考:硬さ尺度の換算表(HV↔HRC↔HBなどの近似換算の入口として使える)
硬度換算表(ビッカース・ロックウェル・ブリネル等の近似換算の一覧)
金属の“硬さ”を比較するとき、モース硬度の一覧をそのまま鵜呑みにすると、同じ材質名でも結果がズレることがあります。たとえば鉄系は、軟鋼(5〜6)と硬鋼(6〜6.5)でモース硬度帯が変わるという形で一覧に出ており、熱処理・加工状態で別物になり得ることが読み取れます。
また「ガラス(4〜7)」のように範囲が広い材料が存在するのもポイントで、相手材がガラスだからといって必ずしも“金属側が傷付かない”とは言い切れません。このあたりは、建具金物・サッシ・手すりの擦れ、設備配管のクランプ接触など、異材接触が多い建築現場ほど差が出やすい領域です。
比較の実務ルールとしては、「相手材の硬度帯が上なら自材に傷が入りやすい」「同等帯なら双方に微小傷が出る可能性がある」という程度までを、モース硬度でまず共有するとスムーズです。
検索上位の“金属の一覧”だけだと抜けがちですが、硬度は材料の向きや面で変わる、という視点は現場の違和感を説明するのに強力です。倉敷市立自然史博物館の解説では、鉱物によっては結晶方位・結晶面で硬度がかなり異なることがあり、同じ鉱物でもこする方向で硬度が変わる例が示されています。
この考え方は金属にも応用でき、圧延材や押出材のように組織が方向性を持つ材料では、表面の仕上げ目・加工目、粒界、皮膜の状態などが“引っかき傷の出方”に影響し、体感硬さが変わることがあります(同じ材質なのに傷の入り方が違う、という現象の説明軸になる)。
さらに、硬度は「固溶体の成分で変化する」という記述もあり、成分や組成差が硬度に影響するという見方は、合金や表面処理の設計・説明にそのまま持ち込めます。
参考:モース硬度の決め方、代用品、そして“硬度=割れにくさではない”という注意点まで一続きで整理されている
倉敷市立自然史博物館:モース硬度(判定法・代用品・注意点・硬度と割れの違い)
参考:純金属・鉄系・黄銅など、金属を含む各種物質のモース硬度が一覧で拾える
日本鍍金工業組合:各種物質のモース硬度(純金属・黄銅・鋳鉄・軟鋼/硬鋼など)