無線充電規格の基礎知識と建築業界での活用事例

無線充電規格の基礎知識と建築業界での活用事例

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無線充電規格の基本

この記事で分かること
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Qi/Qi2規格の仕組み

電磁誘導方式によるワイヤレス充電の原理と最新規格の違いを詳しく解説

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建設現場での実用例

AGVロボットや電気自動車への無線給電システムの導入事例

充電効率と安全性

ワイヤレス充電のメリット・デメリットと選定時の注意点

無線充電Qi規格の仕組みと電磁誘導方式

Qi(チー)規格は、ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)が策定した国際標準規格で、電磁誘導方式を採用しています。この方式では、充電パッド内のコイルに電流を流すことで磁束が発生し、近接したデバイスのコイルに電流を起こして充電を行います。Qi規格は110kHz~205kHzの共振周波数を使用し、非放射型の近距離給電に特化しています。この技術により、異なるメーカーの機器でも互換性を保ちながら安全に充電できる環境が実現されました。
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充電器とデバイスのコイル位置が正確に合っていることが充電効率の鍵となります。初期のQi規格(v1.0)では、コイルの位置ずれによる充電効率の低下や発熱が課題でした。充電出力は5W、7.5W、10W、15Wの4段階があり、基本的には出力が高いほど充電速度が速くなります。ただし、iPhoneなど一部の機器では、サードパーティ製Qi充電器では最大7.5Wまでの制限が設けられていました。
参考)【徹底比較】ワイヤレス充電器のおすすめ人気ランキング【202…

建築業界では、Qi規格がホテルのベッドサイドテーブルやカフェのテーブルなどの家具に組み込まれる形で導入が進んでいます。また、建設現場では250台以上のロボット用ワイヤレス充電の需要があり、作業効率の向上に寄与しています。
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無線充電Qi2規格の進化とマグネット技術

Qi2(チーツー)は2023年に正式リリースされた次世代ワイヤレス充電規格で、従来のQi規格を大幅に進化させたものです。最大の特徴は、Appleが開発に協力したマグネティック・パワー・プロファイル(MPP)の採用で、マグネットによって充電時の位置ズレを防止します。この磁石機能により、充電器とデバイスのコイル位置が自動的に最適化され、エネルギー伝送効率が10~15%向上しています。
参考)https://www.biccamera.com/bc/i/topics/osusume_wireless_charger/index.jsp

充電効率の面では、Qiが約60~70%であるのに対し、Qi2は約80~85%を実現しています。iPhone 14 Proでのフル充電時間を比較すると、Qiでは約3.5~4時間かかるところ、Qi2では約2.5~3時間に短縮されます。さらに、Qi2は最大15Wでの充電が可能で、位置ずれによる損失を無くすことで実質的な充電速度が向上しています。
参考)Qiとは?Qi2との違いを徹底解説!ワイヤレス充電の進化を分…

建設業界の観点では、Qi2の位置ずれ許容性の高さが、振動の多い現場環境や移動を伴うロボット充電において大きなメリットとなります。また、発熱の抑制により、長時間の連続充電が必要な機器への適用が容易になりました。Qi2は従来のQi機器との後方互換性も備えており、既存システムとの統合がスムーズに行えます。
参考)【導入事例】コベルコ建機㈱様のショベルカー部品搬送AGVへ6…

無線充電規格の種類とQi以外の選択肢

Qi規格以外にも、AirFuel Allianceが推進する複数のワイヤレス充電規格が存在します。主なものとして、AirFuel Inductive(旧PMA)規格とAirFuel Resonant(旧Rezence)規格があり、それぞれ異なる技術的特徴を持っています。また、A4WP規格は6.78MHzの固定共振周波数を使用し、Qiの110~205kHzよりも高い周波数で動作します。
参考)https://www.elecom.co.jp/pickup/column/charger_column/00003/

大電力を必要とする用途では、磁界共鳴方式を採用したワイヤレス充電システムが注目されています。ダイヘンのAGV用ワイヤレス充電システム「D-Broad」は、産業機器分野で世界初となる磁界共鳴方式を採用し、停止位置がズレても大電流・高効率での充電が可能です。コベルコ建機のショベルカー部品搬送AGVには600Wのワイヤレス充電システムが導入され、充電中の温度上昇が少なく密閉環境でも安全に使用できる点が評価されています。
参考)AGV(無人搬送台車)用ワイヤレス充電システム

建設現場では、電気自動車(EV)向けの大電力ワイヤレス充電も実用化が進んでいます。大成建設が開発した「T-iPower Road」は、最高時速60kmで走行する車両に最大10kWの連続無線給電を実現し、伝送効率は平均66%(最大71%)を達成しています。このような走行中ワイヤレス給電(DWPT)技術は、EVの長距離・連続走行を可能にし、建設機械の稼働時間延長にも応用が期待されています。
参考)国内初 最高時速60kmで高速走行中の電気自動車に最大10k…

無線充電のメリットとデメリット

ワイヤレス充電の最大のメリットは、接触不要による利便性と安全性の向上です。建設現場では粉塵や水分の多い環境でも、密閉されたワイヤレス充電システムなら端子の劣化や感電のリスクを大幅に軽減できます。また、ケーブルの抜き差しが不要なため、充電作業の時間短縮と作業員の負担軽減につながります。さらに、双方向給電が可能なシステムでは、災害時の電力供給源としての活用や、電力需給調整リソースとしての機能も期待されています。
参考)https://www.elecom.co.jp/pickup/column/charger_column/00005/

一方で、デメリットとしては有線充電と比較した充電効率の低さが挙げられます。電磁誘導により従来の有線充電よりも多くの熱が発生しますが、これは必ずしもバッテリーに有害ではなく、適切な温度管理機能を備えたシステムであれば問題ありません。過熱・過電流の保護機能や異物検知機能を搭載した製品を選ぶことで、安全性を確保できます。
参考)Qiワイヤレス充電器は安全なのか?それともバッテリーやデバイ…

コスト面では、初期導入費用が有線充電より高くなる傾向がありますが、メンテナンスコストの削減効果により、長期的には経済的メリットが得られます。建設現場でAGVやロボットを大量導入する場合、ワイヤレス充電によるメンテナンスフリー化が運用コストの大幅削減につながります。また、充電位置の制約については、Qi2規格のマグネット機能や磁界共鳴方式の採用により、位置ずれ許容範囲が拡大し、実用性が向上しています。
参考)ワイヤレス給電が拓くEVの未来 第2回 SWPTから社会実装…

無線充電を建設現場に導入する際の実践的な選定基準

建設現場でワイヤレス充電システムを導入する際には、使用環境と充電対象機器の特性に合わせた規格選定が重要です。小型機器やスマートフォンレベルの充電には、普及が進んでいるQi/Qi2規格が適しており、汎用性と互換性の高さがメリットとなります。一方、AGVや建設ロボットなど数百ワット以上の大電力が必要な機器には、磁界共鳴方式のシステムが推奨されます。​
充電効率と停止位置の精度要求も選定の重要な要素です。位置精度が確保できる環境であれば、電磁誘導方式で十分ですが、振動や移動が多い現場では位置ずれに強い磁界共鳴方式やQi2規格を選択すべきです。大成建設の無線給電道路の事例では、大型施工機械を用いる在来工法とほぼ同じ施工法で対応できるため、施工性や維持管理面に優れていることが実証されています。​
安全性と規制適合も見落とせないポイントです。過熱保護、過電流保護、異物検知機能などの安全機能が充実した製品を選び、電波法や電気用品安全法などの関連法規に適合していることを確認する必要があります。さらに、将来的な拡張性を考慮し、後方互換性のある規格や、標準化された通信プロトコルに対応したシステムを選ぶことで、長期的な投資対効果を最大化できます。国土交通省が道路管理者向けにガイドラインを整備するなど、公的機関による制度整備も進んでおり、今後の普及拡大が期待されます。
参考)電気自動車(EV)の充電問題、走行中給電で一掃か 企業本格参…

エレコムによるQi規格の詳しい仕組みと基礎知識の解説
大成建設による走行中EV無線給電道路「T-iPower Road」の実証実験結果
Qiワイヤレス充電規格の進化とQi2の新機能に関する技術詳細
コベルコ建機の建設機械用AGVへの600Wワイヤレス充電システム導入事例