
軟岩と硬岩の違いは、建築工事における掘削方法の選定に直結する重要な岩盤分類です。軟岩は「土のようにばらばらにはならないが、硬岩のようには硬くはない、半固結状の岩石」と定義され、主に新生代の泥岩から砂質泥岩を対象としています。一方、硬岩は爆破によらなければ掘削できない岩石を指し、結晶粒子の配列や構造などの特徴から塊状と葉状に区分されます。
参考)https://www.jseg.or.jp/chushikoku/assets/file/faq/1-19.pdf
両者の区分は工学的区分と掘削区分の二つの視点から整理されており、それぞれ異なる基準が適用されます。工学的区分では岩盤の物理的性質を重視し、掘削区分では施工性や積算を中心に考えられています。この二つの基準の関係が曖昧であるため、各現場で岩級区分と土軟硬の関係を見定めて積算しているのが実態です。
参考)https://www.jseg.or.jp/chushikoku/assets/file/faq/1-11.pdf
一軸圧縮強度は軟岩と硬岩を区分する最も基本的な指標となっており、数値による明確な判定が可能です。土木学会では一軸圧縮強度が1~10MPa(10~100kg/cm²)あるいは20MPa(200kg/cm²)程度の領域を軟岩として定義しています。地盤工学会岩盤分類基準化委員会では、25MPa以下を軟岩として取り扱っており、これが建築分野で広く採用されている基準となっています。
参考)https://www.jiban.or.jp/file/file/jgs3811_201107.pdf
硬岩は一般的に25MPa以上の一軸圧縮強度を持つ岩石を指し、さらに強度によって中硬岩と硬岩に細分化されることがあります。岩石の一軸圧縮試験は公益社団法人地盤工学会JGS 2521に基づいて実施され、供試体の寸法・形状・含水状態・載荷速度などの影響を受けることから、可能な限り同様の試験環境下で統一的な方法で試験を行う必要があります。
参考)【土質試験(室内)】岩石の一軸圧縮試験|試験・調査・分析|土…
一軸圧縮強度と他の指標との相関関係も整理されており、シュミットロックハンマーの反発度やN値との対応関係が確立されています。例えば、D級岩盤が土砂から軟岩、C級岩盤が軟岩から硬岩、B級岩盤以上が硬岩とされる対応関係があります。この相関関係を活用することで、現場での簡易的な判定も可能となっています。
N値は土質調査における標準的な指標ですが、岩盤の評価においても重要な役割を果たしています。ボーリング調査時のコアの工種区分では、未固結堆積層でなく、N値が概ね50以上の軟質な岩からCL級の岩を軟岩と評価することが一般的です。換算N値は50~300の範囲で軟岩・風化岩の硬さを推定するために用いられ、300以上では硬岩の領域に入ります。
参考)http://hw001.spaaqs.ne.jp/geomover/rock/rk0.htm
岩級区分はボーリングコアや露頭で認められた岩盤状態をもとに判定され、岩の硬さ、亀裂の間隔、風化程度、割れやすさなどが指標とされています。花崗岩の分類では、D級岩盤まで細分化されており、DH級岩盤が変形係数から算出するとN値115が下限値となります。N値50以上の層が橋梁基礎の支持層として慣例的に適用されているため、DH級岩盤は軟岩、DLまたはDM級岩盤が土砂と捉えることができます。
岩級区分と土軟硬区分を対比する場合、例えばCL級岩盤が土軟硬のどれに当たるのかについて明確にされていないことが多く、これは多種多様な地質が分布する日本で統一的かつ明確な基準を定めると、却って不都合を生じるためと考えられています。支持層の確認深度は、軟岩ではN値50以上、中~硬岩では岩級区分におけるCMクラスの岩盤まで確認することが標準とされています。
参考)https://www.hrr.mlit.go.jp/gijyutu/kaitei/sekkei_r/02Split/16.pdf
軟岩の形成過程には大きく分けて堆積軟岩と風化軟岩の二つのタイプがあります。堆積軟岩は土が続成作用により砕屑物がある程度結合し、半固結状態となったもので、新生代の堆積岩に多く見られます。風化軟岩は火成岩、堆積岩、変成岩などが風化や変質により鉱物粒子間の結束が弱まったり、一部の鉱物が粘土化したものを指します。
参考)https://mishi.weblike.jp/07rock_class.pdf
軟岩系岩盤の分類では、岩盤の性状に着目して塊状、礫質、互層に分けられます。塊状岩盤では卓越粒径(体積含有率が卓越する粒径)という考え方が導入され、礫、砂、シルト、粘土で分類されます。礫質岩盤では、マトリックスの強さと礫の含有率を指標として小分類を行い、礫・マトリックスの卓越粒径、巨礫の含有率、礫の強さも分類要素としています。
硬岩系岩盤は結晶粒子の配列や構造などの特徴から塊状と葉状に区分され、主に火成岩や変成岩が該当します。硬岩の形成過程では、マグマが固結して岩石となった火成岩や、様々な岩石がマグマの熱、地下の高圧等で変成を受けて元の岩石とは性状の異なる岩石となった変成岩が含まれます。岩片は硬いが亀裂や節理が密に発達したものも硬岩に分類される場合があります。
軟岩の掘削にはリッパ工法が標準的に採用されており、リッパによって掘削できるようなものを軟岩と定義する考え方が一般的です。リッパ工法は本来、軟岩掘削を効率的に行うものでしたが、超大型ブルドーザの出現で、硬岩領域の一部まで掘削可能範囲を拡げました。リッパビリティは弾性波速度との相関が強く、弾性波速度で表されることが多くなっています。
参考)http://www.yamazaki.co.jp/data/school/rock/ripper.htm
硬岩の掘削は一般的に発破工法が経済的であり、爆破によらなければ掘削できないようなものを硬岩と定義します。発破工法は火薬類の化学反応で発生する衝撃圧と膨張ガスで岩石を破砕する工法であり、大型の掘削重機や破砕重機を必要とせず、比較的短期間で対象物を破砕することが可能です。特に硬岩を破砕する場合、発破工法は機械掘削工法と比較してCO2排出量が低いレベルとなり、最も環境にやさしい方法となります。
参考)火薬類を用いた岩石破砕工法の現状と今後の課題について|建設情…
発破公害が懸念される現場では、施工数量、硬さ(弾性波速度)等を勘案してリッパ工法の導入が検討されます。軟岩Ⅰはピックハンマ等による掘削、軟岩Ⅱは発破を必要とする場合の歩掛として区分され、軟岩Ⅱの場合、掘削10m³当りダイナマイト2.1kg、雷管13個を計上する基準となっています。油圧ブレーカは軟岩より硬い岩が掘削対象になりますが、岩が軟らかすぎるとロッドが刺さるだけで掘削が困難になる反面、硬岩になっても破砕量が急激に低下しない特徴があります。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/000993209.pdf
弾性波速度は岩盤のリッパビリティを判定する重要な指標であり、硬い物質では速く、軟らかい物質では遅く伝わる性質を利用して岩片の硬さを判定できます。岩盤の長い測線で計測すると岩盤の亀裂等を含めてマクロ的に岩盤のリッパビリティを判定でき、施工性の予測に活用されています。国土交通省中国地方整備局土木工事設計マニュアルでは、岩の硬さや亀裂の間隔、風化程度、割れやすさなどとともに、地山弾性波速度が示されています。
道路土工-切土工・斜面安定工指針では、リッパビリティに関する整理がなされており、弾性波速度と掘削工法の適用限界の関係が図示されています。軟岩の弾性波速度は一般的に2.0~3.5km/s程度の範囲にあり、中硬岩は3.5~4.5km/s、硬岩は4.5km/s以上とされることが多くなっています。弾性波速度による判定は、施工前の段階で掘削工法を選定する際の重要な判断材料となります。
参考)http://sizu-dobokugisi.or.jp/report/thesis/report13080601_16.pdf
弾性波探査による地盤物性のイメージング技術も発展しており、岩盤の三次元的な分布状況を把握することが可能となっています。この技術により、軟岩と硬岩の境界部分や風化の進行度合いを詳細に評価でき、より精度の高い施工計画の立案が可能となっています。弾性波速度は現場での測定が比較的容易であることから、大規模な工事現場での事前調査において広く活用されています。
参考)302 Found
軟岩の判定基準とN値の関係について詳しく解説した日本応用地質学会中国支部の技術資料
岩級区分と土軟硬区分の対比関係を整理した日本応用地質学会中国支部のFAQ
リッパ工法の適用範囲と弾性波速度との関係を解説した技術資料