

ねじを締める目的は「部材同士を押し付ける力(締付け力)」を作ることです。JISのねじ締付け通則では、締付けを「おねじとめねじをはめ合わせて、軸部に引張力、被締結部材に圧縮力を与えること」と定義しており、単に回す行為ではなく“力を作る工程”だと整理されています。参考:JIS B 1083の用語定義(締付け・締付け力)JIS B 1083:2008 ねじの締付け通則(用語・管理方法の考え方)
実務で重要なのは「締付けトルク(工具で与える回転力)」と「締付け力(部材に残る軸力)」が同じではない点です。JIS B 1083では弾性域締付けにおける関係として、締付けトルク T はトルク係数 K、呼び径 d、締付け力 F を用いた式(いわゆる T=K⋅d⋅F の形)で整理され、摩擦や条件が係数に強く影響することが示されています。つまり、規定トルクで締めても、摩擦条件が変われば締付け力も変わり得ます。
ここで意外と見落とされがちなのが、トルク法の“効率の低さ”です。JIS B 1083の解説では、締付けトルクの大部分がねじ面・座面の摩擦で消費されるため、摩擦特性の管理の程度によって初期締付け力のばらつきが大きく変化すると述べています。現場では「トルクレンチで締めたからOK」と思いがちですが、潤滑・座面状態・メッキ・異物などが揃っていないと、同じN・mでも結果が揃いません。
トルクレンチは、ボルトやねじの締付作業で「今どの程度の力で締付けているか」を測定する工具で、単なるレンチではなく“物理量を測る機能を持つ精密機器”として扱う必要があります。工具として丈夫でも、測定としては繊細だという前提を持つと、取り扱いが一段変わります。
まず、基本動作で差が出るのが「力点」です。トルクは回転中心からの距離と加える力で決まるため、定められたグリップ位置で握らないと正しいトルクになりません。KTCの解説でも、力点がずれると回転軸から力点までの距離が変わり、正確な測定ができないと明確に注意されています。現場でありがちな“延長パイプで楽をする”“片手で端を握る”は、再現性が落ちます。
次に「締め過ぎ」の扱いです。プレセット型は規定値で「カチッ」と通知しますが、通知後も力を入れ続けるとオーバートルクになります。KTCは、通知後に複数回「カチッ」を繰り返すと締め過ぎになる点、確認したいなら“いったん緩めてから再度締める”という作法を示しています。締付け品質は、締めた瞬間よりも「止め方」で決まりやすいので、合図が出たら止める癖づけが効果的です。
保管・点検も品質の一部です。KTCの説明では、スプリング式トルクレンチは設定値をかけたまま保管するとへたりで精度低下の可能性があるため、保管時は測定範囲の最低値に戻すこと、高温多湿・ほこりを避けケースで保管すること、年1回以上の校正目安などが挙げられています。建築現場は粉じん・湿気・移動が多いので、測定器としての“保全ルール”を班で共有しておくとトラブルが減ります。
「ねじ頭がなめる」「固着して回らない」「ステンレスがかじる」は、見た目は似ても原因が違います。対策を混ぜると逆効果になりやすいので、症状別に整理します。
なめる(ビットが滑る)主因は、ビット適合不足・押し付け力不足・角度ズレ・頭部の損傷です。作業前にビット摩耗を確認し、垂直を守り、押し付けを優先してから回すのが基本です。現場では「インパクトで一気に」が時短に見えて、ビットが跳ねて角が丸くなる事故が多いので、仮締めは低トルク・低打撃で“座面を当てるだけ”に止め、最後はトルクレンチで締める流れが安全です。
固着や焼き付きは、錆・異物・かじり(特にステンレス同士)などが絡みます。DIY向けの解説でも、錆びには冷却潤滑剤(低温で錆を割るタイプ)が有効な場合があること、焼き付き防止の潤滑剤が効果的で、特に屋外でステンレスを使う場合は塗っておくと安心と紹介されています。建築現場でも、屋外・沿岸・雨掛かり部位は“締める前の予防”が結果的に最短ルートです。
意外な盲点は「締付けトルク管理と潤滑の両立」です。JIS B 1083では、トルク法は摩擦の影響が大きく、摩擦特性の管理が締付け力ばらつきに直結する、と整理されています。つまり、潤滑を入れるなら「入れた状態で規定値が決められているか(施工要領)」を必ず確認し、現場判断で“滑るから少し強く締める”のような運用は避けるべきです。潤滑は良いことですが、トルク値の意味が変わる点が落とし穴です。
箇条書きで、現場で効く予防策をまとめます。
建築の品質管理で強いのは、「誰が締めても同じ結果」になる仕組み化です。JIS B 1083は締付け管理方法として、トルク法・回転角法・トルクこう配法などを整理し、方法ごとの特性やばらつき(締付け係数Qの目安)に触れています。現場で扱いやすいのはトルクレンチによるトルク法ですが、摩擦の影響でばらつきやすい点を踏まえると、手順書と記録で“条件を揃える”ことが要になります。
ここで役立つのが、簡易な「トルク管理表(チェック表)」です。検索上位の解説でも、設定トルク→ゆっくり締める→到達合図→必要に応じて管理表に記録、という流れが推奨されています。現場では、全数記録が難しい場合でも、重要部位は「規定値」「工具番号(校正管理)」「作業者」「日付」「異常の有無」だけでも残すと、後工程の説明責任と手戻り削減に効きます。
実務で使いやすい、最低限の管理項目例(コピーして使える形)を示します。
独自視点として、記録を“作業者を縛るもの”ではなく“守るもの”に変える工夫も重要です。KTCはトルクレンチの精度確認や校正の重要性を挙げており、工具の状態が悪ければ正しい締付けができず事故につながると説明しています。つまり、記録があると「工具のせい」「条件のせい」を切り分けやすく、現場を守る根拠になります。
参考:締付け管理方法(トルク法・回転角法など)と、摩擦がばらつきに影響する話(トルク法の特性)
JIS B 1083:2008 ねじの締付け通則(締付け管理の考え方)
参考:トルクレンチの正しい使い方(力点、締め過ぎ、保管、年1回以上の校正目安)
KTC:トルクレンチとは?種類や正しい使い方、保管方法