
燃料費調整額とは、火力発電に使用する原油・LNG(液化天然ガス)・石炭といった化石燃料の価格変動を、電気料金に反映させるための仕組みです。この制度は1996年に導入され、電力会社の経営効率化の成果を明確にするとともに、経済情勢の変化を迅速に料金へ反映させることを目的としています。
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為替レートや国際市場の動きによって燃料価格は常に変動するため、電力会社だけが得をしたり損をしたりする不平等な状況を避け、電気料金の透明性を高める役割を果たしています。燃料価格が上昇した場合は電気料金に加算され、低下した場合は差し引かれる仕組みになっており、これを「プラス・マイナス調整」と呼びます。
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建築業の現場では、仮設電源や電動工具、照明設備など多くの電力を消費するため、この燃料費調整額の変動が工事原価に直接影響を与えます。特に固定価格契約のプロジェクトでは、燃料費調整額の高騰が利益を圧迫する要因となるため、仕組みの理解が重要です。
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燃料費調整額は「燃料費調整単価×使用電力量」で計算されます。燃料費調整単価の算出には、以下の計算式が用いられます。
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計算式
燃料費調整単価(円/kWh)=(平均燃料価格-基準燃料価格)÷1,000×基準単価
平均燃料価格は、原油・LNG・石炭それぞれの3ヶ月間の貿易統計価格をもとに算定されます。具体的には、以下の係数を用いて原油換算価格が計算されます。
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燃料種別 | 係数 | 説明 |
---|---|---|
原油 | 0.0048 | 3ヶ月における1klあたりの平均原油価格に乗じる |
LNG | 0.3827 | 3ヶ月における1tあたりの平均LNG価格に乗じる |
石炭 | 0.6584 | 3ヶ月における1tあたりの平均石炭価格に乗じる |
反映時期については、3ヶ月間の平均燃料価格から算出された調整単価が、約2ヶ月後の電気料金に適用されます。例えば、1月~3月の平均燃料価格は6月分の電気料金に反映されるため、燃料価格の変動から実際の料金への影響まで3~5ヶ月のタイムラグが発生します。
参考)https://solar-frontier.com/jpn/blog/pages/fuel-cost-adjustment-amount/
この時間差により、国際情勢の変化や為替の急変が起きた場合でも、その影響が電気代に表れるまでに数ヶ月かかることを理解しておく必要があります。
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燃料費調整額には、電力会社や契約プランによって「上限設定」の有無が異なります。大手電力会社の規制料金プラン(従量電灯A・B・Cなど)では、電気事業法により上限設定が法的に義務付けられています。
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例えば東京電力の規制料金では、平均燃料価格が129,200円/klを上回る場合、それを超える部分については調整が行われず、上限額が適用されます。一方、2016年の電力完全自由化以降に登場した自由料金プランや新電力の各種プランでは、上限設定の義務がなく、電力会社が独自に決定できます。
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電力会社 | 基準燃料価格 | 基準単価 | 平均燃料価格の上限 |
---|---|---|---|
東京電力 | 86,100円 | 18.3銭 | 129,200円 |
関西電力 | 27,100円 | 16.5銭 | 40,700円 |
九州電力 | 27,400円 | 13.6銭 | 41,100円 |
法人向けの契約プランでは、燃料費調整額の上限が設定されていないケースが多く、燃料価格が高騰した場合には調整額も高くなる傾向があります。建築業の現場で使用する電力契約においても、上限設定の有無を確認することが重要です。
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2022年以降の燃料価格急騰により、上限設定の有無で年間の電気代に数万円もの差が生まれるケースも報告されています。そのため、契約内容を見直す際には、単純な基本料金や電力量料金だけでなく、燃料費調整額の上限設定についても確認することが推奨されます。
燃料費調整額は、国際的な燃料市場の動向や為替レート、地政学的リスクなど複数の要因によって変動します。近年特に影響が大きかった要因として、円安による輸入コストの増加があります。為替レートが円安に振れると、ドル建てで取引される原油やLNGの円換算価格が上昇し、燃料費調整額を押し上げる結果となります。
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また、2022年のロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界的なエネルギー市場に大きな影響を与え、LNG価格の高騰を招きました。このような国際情勢の変化は、直接的に日本の電力会社が調達する燃料価格に反映されます。
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政府は電気料金の急激な上昇を緩和するため、2023年から「電気・ガス価格激変緩和対策」を実施しており、1kWhあたり7.0円の値引きが行われています。この措置により、実際の燃料費調整単価からさらに負担が軽減されていますが、この緩和措置は期間限定であるため、終了後の影響を考慮した長期的なコスト管理が必要です。
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原油価格が10%上昇すると、一般的な家庭では月額数百円から千円程度の負担増となる可能性があり、電力使用量の多い建築現場ではさらに大きな影響を受けることになります。燃料価格の動向を定期的にチェックし、将来的なコスト増加に備えた予算計画を立てることが重要です。
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建築業の現場では、燃料費調整額を含む電気代の管理が工事原価に直結するため、実務的な対応策を講じることが求められます。まず基本となるのは、電力会社や契約プランの見直しです。
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燃料費調整額の上限設定がある電力プランを選択することで、燃料価格が高騰した際のリスクを抑えることができます。ただし、現在は燃料価格が比較的落ち着いている時期もあるため、上限設定の有無だけでなく、基本料金や電力量料金を含めた総合的なコスト比較が必要です。
建設現場特有の対策として、以下のような省エネ施策が効果的です。
建設現場ではディーゼル燃料(軽油)で稼働する機器が多く、これが運用コストの少なくとも3分の1を占めるといわれています。電気代だけでなく、こうした燃料費全体を包括的に管理することで、固定価格契約のプロジェクトでも利益を確保しやすくなります。
工事の実行予算を作成する際には、燃料費調整額の変動リスクを織り込んだ予算設定を行い、為替や国際情勢の変化にも対応できる柔軟な原価管理体制を整えることが、建築業における収益性向上の鍵となります。
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東京電力の燃料費調整制度の詳細
燃料費調整額の算定方法や基準燃料価格について、電力会社の公式情報で確認できます。
法人向け燃料費等調整額のコスト管理ポイント
法人契約における燃料費調整額の管理方法と電気料金削減のための具体的な施策が解説されています。
建設現場での燃料費削減戦略9選
建設機器の運用コスト削減に向けた実践的なアプローチが紹介されており、現場管理者に有用な情報です。