
電気事業法における技術基準は、電気工作物の保安確保の要となる重要な規定です。電気事業法第39条では、事業用電気工作物を設置する者は、その工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するよう維持しなければならないと定めています。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/setsubi_hoan_jigyo_gaiyo.html
技術基準に違反していることが判明した場合、経済産業大臣は事業用電気工作物の修理、改造、移転、使用の一時停止、使用制限を命ずることができます。この技術基準適合命令は電気事業法第40条に規定されており、建築業従事者が電気設備を扱う際には必ず理解しておくべき重要な制度です。
参考)電気事業法における技術基準と技術基準の解釈の規定について
電気設備に関する技術基準を定める省令は、平成9年通商産業省令第52号として制定されており、その技術的要件を満たすものと認められる技術的内容を具体的に示したものが「電気設備の技術基準の解釈」です。この解釈は、省令に定める技術的要件を満たすものと認められる技術的内容をできるだけ具体的に示したものですが、省令に照らして十分な保安水準の確保が達成できる技術的根拠があれば、解釈に限定されるものではありません。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/files/dengikaishaku.pdf
電気事業法における技術基準の制定には長い歴史があります。1911年(明治44年)に電気工事規程が制定されたのが始まりで、1919年(大正8年)には電気工作物規程に改正・改称されました。
参考)電気設備に関する技術基準を定める省令 - Wikipedia
その後、1932年(昭和7年)の全文改正、1949年(昭和24年)の大改正を経て、1954年(昭和29年)に電気工作物規程が新規制定されました。1965年(昭和40年)には現在の「電気設備に関する技術基準を定める省令」の前身が制定され、1997年(平成9年)に大幅な改正が行われ、機能性基準化により条文が削減されました。
この1997年の改正では、裁量の幅をある程度抑制するため、具体例として「電気設備の技術基準の解釈」が公表されるようになりました。2000年以降も継続的に改正が行われており、2024年10月にも最新の改正が実施されています。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/20241022-4.html
建築業従事者にとって重要なのは、これらの技術基準が時代とともに進化し、最新の技術動向や安全性の要求に対応して改正されている点です。施工や保守管理を行う際には、常に最新の技術基準を確認する必要があります。
参考)https://www.safety-kinki.meti.go.jp/electric/law/gijutukijun/denkikijunkaiseirireki.html
電気事業法の技術基準では、電圧を「低圧」「高圧」「特別高圧」の3つに区分しています。低圧とは、直流で750V以下、交流で600V以下の電力を指し、一般家庭や小規模店舗などで多く使われています。
参考)https://jeea.or.jp/latest-info/release/pdf/080408.pdf
高圧は配電線に使われる電圧で、特別高圧は送電線に使われる電圧です。この電圧区分によって、施設規制の内容が大きく異なります。
建築現場で特に重要なのが、600ボルトを超える電圧で受電する場合です。600ボルトを超える電圧で受電する工場やビルは「自家用電気工作物」に該当し、電気事業法の厳格な規制対象となります。構外にわたる電線路を有するものや、小規模発電設備以外の発電設備を有するものも自家用電気工作物となります。
参考)https://www.safety-kinki.meti.go.jp/electric/jikayou/jikayoudennkikousakubutu.html
一方、600V以下で受電する一般家庭、商店、事務所、600V以下で系統連系する10kW未満の太陽電池発電設備などは「一般用電気工作物」に分類されます。この区分により、必要な届出や点検の内容が異なるため、建築業従事者は受電電圧を正確に把握することが重要です。
電気事業法第42条では、事業用電気工作物設置者に対し、その事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、保安規程の作成、届出義務を課しています。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001318576.pdf
保安規程には定めるべき基本事項があり、以下の内容を含める必要があります。業務を管理する者の職務及び組織に関すること、従事者に対する保安教育に関すること、保安のための巡視・点検及び検査に関すること、災害その他非常の場合に採るべき措置に関することなどです。
参考)各種法定、基準等の遵守
保安規程は、設置者が自家用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するために定めたルールであり、その内容は大きく二つに分けることができます。一つは電気主任技術者を中心とする保安管理体制に関するもの、もう一つは、自家用電気工作物の巡視、点検、検査等の具体的な手順等に関するものです。
建築業従事者が電気設備の施工を行う場合、この保安規程に従って作業を進める必要があります。保安規程には、自家用電気工作物の種類や規模に応じて、最も適した保安管理体制を確立するため必要な事項を定める必要があります。
電気事業法第43条によって、自家用電気工作物の設置者は、その工事、維持、運用の保安監督をさせるために、電気主任技術者を事業場ごとに選任しなければならないと定められています。
参考)電気主任技術者で選任が必要な場面とは?電気事業法から基準を解…
電気主任技術者には第1種、第2種、第3種があり、種類ごとに扱える電圧の範囲に制限があります。第1種電気主任技術者は、電圧や規模に制限なく全ての電気設備の管理ができ、全国どこでも責任者として選任できます。主な仕事の範囲は、火力・水力・原子力といった発電所の設備や鉄道会社の電気設備などの安全管理を行うことが多いです。
建築現場で重要なのは、一般用電気工作物(600ボルト以下)などの低圧なものに関しては、電気事業法によって電気主任技術者の選任が義務づけられていない点です。しかし、電圧50kW以上の高圧設備、最大電力500kW以上の設備、その他大規模な電気設備を有する事業所では、電気事業法施工規則によって施設への選任が必要になります。
電気主任技術者を中心とする保安管理体制の整備は、電気工作物の保安確保に欠かせない重要な事項として電気事業法に規定されています。建築業従事者は、現場の電気設備の規模に応じて、適切な電気主任技術者の選任が必要かどうかを判断する必要があります。
建築業従事者にとって重要なのが、電気事業法の技術基準と建築基準法の関係性です。建築物に設ける電気設備は、建築基準法第32条の規定に基づいて建築基準法の適用を受けることになります。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001318575.pdf
しかし、電気設備については種々の観点からの制限が必要とされ、電気事業法、電気用品安全法、電気工事士法、消防法、労働安全衛生法等においても設置基準、技術基準が定められています。これらの他法令との関係を調整するため、建築基準法第32条がおかれており、他法令に定めのあるものは、その規定によるものとしています。
建築基準法第32条では「建築物の電気設備は、法律又はこれに基く命令の規定で電気工作物に係る建築物の安全及び防火に関するものの定める工法によつて設けなければならない」と規定されています。つまり、建築物の電気設備については、電気事業法などの規定が優先的に適用されることになります。
建築業従事者が電気設備の工事を行う際には、建築基準法だけでなく、電気事業法の技術基準にも適合させる必要があります。特に防火区画や予備電源の設置など、建築基準法と電気事業法の両方が関係する部分については、双方の基準を満たす設計が求められます。
電気工事士法との関係も重要です。第1種電気工事士等でなければ、自家用電気工作物の電気工事をしてはならないと規定されており、電気工事士は電気設備技術基準を遵守しなければなりません。建築現場で電気設備の施工を行う場合、適切な資格を持った電気工事士による施工が必要となります。
参考)https://www.jeea-kanto.com/seminar-movie/pdf_r3/R3fy_00.pdf
事業用電気工作物の設置又は変更の工事であって、経済産業省令で定めるものをしようとする者は、工事計画届出を行う必要があります。
参考)https://www.safety-chubu.meti.go.jp/denryoku/jikayou/kouji.html
需要設備の工事計画届出書には、記載すべき事項と添付書類及び工事行程表が定められています。記載事項は「一般記載事項」と設備別に「個別記載事項」に分かれています。
参考)電気事業法に基づく受電設備の工事計画の届出
一般記載事項には、需要設備の位置(都道府県郡市町村字を記載し、事業場の名称を付記する)、需要設備の最大電力及び受電電圧、需要設備に直接電気を供給する発電所又は変電所の名称を記載します。
個別記載事項には、遮断器、電力貯蔵装置、その他の機器(計器用変成器を除く)で電圧1万V以上の機器に係る事項を記載する必要があります。
添付書類としては、主要設備の配置状況を示す平面図、断面図、単線結線図が求められます。これらの図面においては、電気設備技術基準解釈の規定に適合しているかを判断できるものになっていることが求められます。
工事工程表には、届出対象の電気設備の電気工事を開始する日、使用前安全審査を受ける工程など明確に工程内に入れることが重要です。
建築業従事者が工事計画を提出する前には、所轄の産業保安監督部で具体的な書き方を相談することが大切です。平成28年4月からは工事計画の届出が省略できる自主検査に使用前自己確認が追加されており、制度の変更にも注意が必要です。
自家用電気工作物の保安確保のためには、定期的な点検が不可欠です。経済産業省では、電気主任技術者の外部委託制度における保安確保のために、電気工作物を技術基準に適合するように維持するために必要な標準的点検項目を定めています。
参考)https://www.safety-kanto.meti.go.jp/electric/data/jikayou/standard_check.pdf
定期点検は、年に1回程度の頻度で、電気設備を停止させて日常点検のほかに、測定器具などを使用して、接地抵抗測定、絶縁抵抗測定、保護継電器装置の動作試験などを行います。
事故防止のため、設置者は技術基準を遵守して、電気工作物を安全で良好な状態に維持することが義務づけられています。技術基準は、平成9年3月の改正の際に、保安上必要な最小限の事項に整理されました。
建築業従事者が電気設備の保守管理に関わる場合、これらの定期点検の実施が適切に行われているかを確認することが重要です。点検記録は保安規程に基づいて保管する必要があり、監督官庁の検査の際に提示を求められることがあります。
参考リンク。
経済産業省「電気設備の技術基準の解釈」
技術基準の具体的な解釈について、電線、電路の絶縁、接地、発電所・変電所の施設など詳細な技術的内容が記載されています。
日本電気協会「電気事業法における技術基準と技術基準の解釈の規定について」
電気工作物の保安確保の体制や技術基準の位置づけ、自主保安の原則について分かりやすく解説されています。
経済産業省「電気事業法 各条文の概要」
技術基準適合維持義務、保安規程、電気主任技術者など、電気事業法の主要な条文について詳しい解説があります。