

ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)は、光が物質を透過する際に、その光の強さがどのように減衰するかを記述した物理法則です。この法則は、化学分析だけでなく、建築資材の光学特性(透過率や遮熱性)を理解する上でも非常に重要な基礎理論となります。
基本的な数式は以下の通りです。
A=ϵcl
ここで、各変数の定義と単位を詳細に解説します。
この数式が示しているのは、「物質の濃度が高いほど、あるいは物質の厚みが厚いほど、光は吸収されて弱くなる」という直感的な現象を、厳密な数学的比例関係として記述している点です。
建築の実務において、最も頻繁に行う計算は「透過率(%)」と「吸光度」の変換、そして積層した場合の最終的な透過率の予測です。ここでは具体的な数値を用いて計算プロセスを解説します。
透過率(T)と吸光度(A)の関係式:
A=−log10T
T=10−A
ここで注意が必要なのは、T はパーセントではなく、0から1の間の小数(比率)として計算するという点です。例えば、透過率が50%の場合、T=0.5 となります。
計算シミュレーション:
参考:ランベルト・ベールの法則とは - 公式や吸収スペクトルについて解説(数式の詳細な展開とグラフ)
なぜ光の減衰は「比例(直線的)」ではなく「指数関数的」になるのでしょうか。この原理を理解するために、数式の導出過程を微積分を用いてイメージしてみましょう。これは、コンクリートの中性化深さの予測や、断熱材の熱伝導の減衰を考える際の思考プロセスとも共通する部分があります。
微小区分での思考モデル:
log10(II0)=ϵcL
左辺の log10(I0/I) は吸光度 A の定義そのものです。
この導出過程からわかることは、「光は物質に入った瞬間に最も強く吸収され、奥に進むほど吸収される絶対量は減っていく(元の光量が減るため)」という事実です。これは、外壁塗装の劣化が表面で最も激しく、内部ほど守られている現象とも物理的に類似しています。
参考:生命科学系のためのランベルト・ベールの法則導出方法(図解を用いた詳細な導出プロセス)
ここでは、検索上位にはあまり出てこない、建築実務に特化した独自視点での応用について解説します。ランベルト・ベールの法則は、単なる化学実験の式ではなく、実はJIS(日本産業規格)に基づく建築材料の性能評価の根幹を支えています。
1. JIS R 3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)
建築用ガラスの性能試験方法を定めたこの規格では、分光光度計を用いて各波長ごとの透過率を測定します。この測定データの解析において、ガラスの厚みを換算する際にランベルト・ベールの法則が利用されます。
参考)https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-86959.pdf
例えば、試験片として3mm厚のガラスでデータを取得し、実際の設計で使う6mm厚や10mm厚のガラスの性能を推計する場合、単純な倍数計算ではなく、この法則に基づいた指数関数的な換算を行うことで、正確な熱貫流率や日射取得率を算出しています。もしこの計算を誤ると、大規模ビルの空調負荷計算に大きな誤差が生じる可能性があります。
2. 建設排水の管理と濁度測定
建設現場、特にトンネル工事やダム工事では、大量の濁水が発生します。この濁水の処理状況を管理するために「濁度計」が使われますが、光学式の濁度計はランベルト・ベールの法則そのものを応用しています。
水中に浮遊する土粒子(濃度 c)によって光が遮られる(吸光度 A が上がる)原理を利用し、透過光の強さから瞬時にSS(浮遊物質量)濃度を換算しています。現場監督が手にする水質チェッカーの中では、まさにこの数式が計算されているのです。
3. コンクリートの中性化診断(フェノールフタレイン法)
厳密には発色反応の有無を見るものですが、指示薬の呈色の濃さはpH依存および指示薬濃度に依存します。研究レベルの劣化診断では、採取したコンクリート微粉末を溶解させ、その吸光度を測定することで、中性化の進行度や塩化物イオン濃度を定量分析する手法(吸光光度法)がとられることがあります。ここでも「色の濃さ=特定の化学物質の濃度」というベールの法則が基礎となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/70/2/70_90/_pdf
参考:機器分析実験・入門編としての吸光光度法(コンクリート成分分析等にも通じる基礎測定技術)
万能に見えるランベルト・ベールの法則ですが、建築現場や実験室で実際に測定を行うと、計算値と実測値がズレる(法則が成立しない)ケースがあります。プロとして知っておくべき「法則の限界」について解説します。
1. 高濃度におけるズレ
この法則が厳密に成立するのは、実は「希薄溶液(濃度が薄い状態)」に限られます。濃度が高くなりすぎると、溶質分子同士が近づきすぎて相互作用(会合や解離)を起こし、吸光特性(ϵ)そのものが変化してしまうため、グラフが直線から外れてきます。
参考)人気講師ノート15 ランベルト・ベールの法則の適用限界につい…
建築塗料で言えば、顔料濃度を極端に上げても、ある点を超えると隠蔽力が頭打ちになったり、色味が変わって見えたりする現象に関連します。
2. 散乱による影響(迷光・散乱光)
ランベルト・ベールの法則は、光が「吸収」によって減衰することを前提としています。しかし、建築現場で扱う「すりガラス」や「乳白色の樹脂板」、「懸濁した泥水」では、光は吸収されるだけでなく、粒子の表面で散乱(あちこちに跳ね返る)します。
参考)光の吸収を求める式はどのようなものですか?
散乱した光が検出器に入らなかったり、逆に迷い込んだりすると、見かけ上の吸光度が計算値と合わなくなります。これを補正するために、生体計測や不透明体の計測では「修正ランベルト・ベール則(Modified Lambert-Beer law)」という、光の散乱距離を考慮した補正項を加えた式が用いられることがあります。
参考)https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/kihou-vol50no3.4/3-7.pdf
3. 光源の単色性
数式は「単一の波長の光(単色光)」に対して成立します。太陽光のような連続したスペクトルを持つ光(白色光)で単純に計算しようとすると、波長ごとに吸光係数 ϵ が異なるため、全体としての減衰は単純な指数関数にはなりません。遮熱フィルムのカタログスペックで「可視光線透過率」という積分値(平均値のようなもの)が使われるのは、この波長依存性を実用的にまとめるためです。
参考:薬学生必見!ランバート・ベールの法則をわかりやすく解説(法則が成り立たない高濃度や迷光のケース詳説)

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