ランベルト・ベールの法則数式の定義と吸光度と濃度の計算

ランベルト・ベールの法則数式の定義と吸光度と濃度の計算

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ランベルト・ベールの法則の数式

ランベルト・ベールの法則の要点
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数式の定義

吸光度A = モル吸光係数ε × 濃度c × 光路長l

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建築への応用

窓ガラスの遮熱性能計算や排水の濁度測定

⚠️
注意点

高濃度や散乱物質では法則が成立しない限界がある

ランベルト・ベールの法則の数式の定義と単位

 

ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)は、光が物質を透過する際に、その光の強さがどのように減衰するかを記述した物理法則です。この法則は、化学分析だけでなく、建築資材の光学特性(透過率や遮熱性)を理解する上でも非常に重要な基礎理論となります。
基本的な数式は以下の通りです。
A=ϵclA = \epsilon c lA=ϵcl
ここで、各変数の定義と単位を詳細に解説します。



  • A(Absorbance:吸光度)
    吸光度は、物質がどれだけ光を吸収したかを示す指標です。重要な点は、**吸光度には単位がない(無次元量)**ということです。吸光度は透過率(TTT)の常用対数をとり、マイナスをつけたもので定義されます(A=log10TA = -\log_{10} TA=−log10T)。つまり、光が物質を通る距離や濃度に対して、光の強さが「指数関数的」に減少することを、「線形(比例関係)」として扱いやすく変換した数値が吸光度です。
    参考)ランベルト・ベールの法則とは - 公式や吸収スペクトルについ…


  • ϵ\epsilonϵ(Epsilon:モル吸光係数)
    物質固有の光の吸収しやすさを表す定数です。通常、単位は Lmol1cm1\text{L} \cdot \text{mol}^{-1} \cdot \text{cm}^{-1}L⋅mol−1⋅cm−1 が使われます。この値が大きいほど、その物質は少しの量で多くの光を吸収することを意味します。建築分野での塗料や顔料の選定において、隠蔽力(下地を隠す力)を考える際の基礎となる概念です。
    参考)ランベルト・ベールの法則:ランベルトの法則とベールの法則につ…


  • c(Concentration:濃度)
    溶液中の溶質の濃度を表します。化学分析では mol/L\text{mol/L}mol/L が一般的ですが、建築廃水の水質検査やガスの濃度測定など、対象によって単位が mg/L\text{mg/L}mg/L や ppm\text{ppm}ppm に変わることもあり、その場合は係数ϵ\epsilonϵの単位も合わせて調整する必要があります。


  • l(Length:光路長)
    光が物質中を通過する距離、つまり「厚み」のことです。通常は cm\text{cm}cm で表されます。建築ガラスにおいては、ガラスの板厚そのものがこの lll に相当します。ガラスが厚くなればなるほど、あるいはフィルムを重ね貼りすればするほど、光路長 lll が増大し、吸光度が比例して増加する関係にあります。
    参考)生命科学系のためのランベルト・ベールの法則導出方法

この数式が示しているのは、「物質の濃度が高いほど、あるいは物質の厚みが厚いほど、光は吸収されて弱くなる」という直感的な現象を、厳密な数学的比例関係として記述している点です。

ランベルト・ベールの法則の数式の吸光度と透過率の計算

建築の実務において、最も頻繁に行う計算は「透過率(%)」と「吸光度」の変換、そして積層した場合の最終的な透過率の予測です。ここでは具体的な数値を用いて計算プロセスを解説します。
透過率(TTT)と吸光度(AAA)の関係式:
A=log10TA = -\log_{10} TA=−log10T
T=10AT = 10^{-A}T=10−A
ここで注意が必要なのは、TTT はパーセントではなく、0から1の間の小数(比率)として計算するという点です。例えば、透過率が50%の場合、T=0.5T = 0.5T=0.5 となります。
計算シミュレーション:



  1. 基本の変換
    ある遮熱フィルムの可視光透過率が50%(0.5)だとします。この時の吸光度は以下のように計算できます。
    A=log10(0.5)0.301A = -\log_{10}(0.5) \approx 0.301A=−log10(0.5)≈0.301
    つまり、透過率50%の素材の吸光度は約0.3です。
    参考)やさしいFTIRの原理(4)ランベルト・ベールの法則と吸光度…


  2. 厚みが2倍になった場合(重ね貼り)
    もし、このフィルムを2枚重ね貼りした場合、光路長 lll が2倍になります。ランベルト・ベールの法則(A=ϵclA = \epsilon c lA=ϵcl)より、lll が2倍になれば吸光度 AAA も2倍になります。
    新しい吸光度 A=0.301×2=0.602\text{新しい吸光度 } A' = 0.301 \times 2 = 0.602新しい吸光度 A′=0.301×2=0.602


  3. 新しい透過率の算出
    吸光度0.602を透過率に戻します。
    T=100.6020.25T' = 10^{-0.602} \approx 0.25T′=10−0.602≈0.25
    つまり、透過率50%のフィルムを2枚重ねると、透過率は25%になります


建築現場での「直感」とのズレ:
多くの人が「50%のフィルムを2枚貼ったら、もっと暗くなる(0%に近づく)のでは?」や、逆に「単に足し算引き算で変わるのでは?」と誤解しがちです。しかし、物理的には「最初の1枚で光が半分になり、残った半分の光が次の1枚でさらに半分になる(0.5×0.5=0.250.5 \times 0.5 = 0.250.5×0.5=0.25)」という指数関数的な減衰をします。この計算ロジックこそが、ランベルト・ベールの法則の本質です。
参考)第3回 色フィルタの厚みと分光透過率|CCS:シーシーエス株…


参考:ランベルト・ベールの法則とは - 公式や吸収スペクトルについて解説(数式の詳細な展開とグラフ)

ランベルト・ベールの法則の数式の導出と原理の理解

なぜ光の減衰は「比例(直線的)」ではなく「指数関数的」になるのでしょうか。この原理を理解するために、数式の導出過程を微積分を用いてイメージしてみましょう。これは、コンクリートの中性化深さの予測や、断熱材の熱伝導の減衰を考える際の思考プロセスとも共通する部分があります。
微小区分での思考モデル:


  1. ある厚さ LLL の物質を、非常に薄い層(厚さ dxdxdx)の積み重ねと考えます。


  2. ある層に入ってくる光の強さを III とします。


  3. その薄い層 dxdxdx を通過したときに吸収される光の量(減少分 dI-dI−dI)は、「その地点での光の強さ III」と「層の厚さ dxdxdx」と「濃度 ccc」に比例します。


これを数式にすると以下の微分方程式になります。
dI=kcIdx-dI = k \cdot c \cdot I \cdot dx−dI=k⋅c⋅I⋅dx
kkk は比例定数)
変形と積分:
変数分離を行い、両辺を積分します。
dII=kcdx\frac{dI}{I} = -k \cdot c \cdot dxIdI=−k⋅c⋅dx
I0I1IdI=0Lkcdx\int_{I_0}^{I} \frac{1}{I} dI = \int_{0}^{L} -k \cdot c dx∫I0II1dI=∫0L−k⋅cdx
左辺は自然対数(ln\lnln)になり、右辺は定数の積分となります。
ln(I)ln(I0)=kcL\ln(I) - \ln(I_0) = -k \cdot c \cdot Lln(I)−ln(I0)=−k⋅c⋅L
ln(II0)=kcL\ln \left( \frac{I}{I_0} \right) = -k \cdot c \cdot Lln(I0I)=−k⋅c⋅L
自然対数から常用対数へ:
化学や産業分野では自然対数(底が eee)よりも、10を底とする常用対数の方が計算しやすいため、底の変換を行います(lnx2.303log10x\ln x \approx 2.303 \log_{10} xlnx≈2.303log10x)。この変換係数などをまとめて、新しい定数 ϵ\epsilonϵ(モル吸光係数)として定義し直すと、馴染みのある式が導出されます。
参考)ランベルト・ベールの法則の導出とモデルの理解について #Py…


log10(I0I)=ϵcL\log_{10} \left( \frac{I_0}{I} \right) = \epsilon c Llog10(II0)=ϵcL
左辺の log10(I0/I)\log_{10} (I_0 / I)log10(I0/I) は吸光度 AAA の定義そのものです。
この導出過程からわかることは、「光は物質に入った瞬間に最も強く吸収され、奥に進むほど吸収される絶対量は減っていく(元の光量が減るため)」という事実です。これは、外壁塗装の劣化が表面で最も激しく、内部ほど守られている現象とも物理的に類似しています。
参考:生命科学系のためのランベルト・ベールの法則導出方法(図解を用いた詳細な導出プロセス)

ランベルト・ベールの法則の数式の建築ガラスとJIS規格への応用

ここでは、検索上位にはあまり出てこない、建築実務に特化した独自視点での応用について解説します。ランベルト・ベールの法則は、単なる化学実験の式ではなく、実はJIS(日本産業規格)に基づく建築材料の性能評価の根幹を支えています。
1. JIS R 3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)
建築用ガラスの性能試験方法を定めたこの規格では、分光光度計を用いて各波長ごとの透過率を測定します。この測定データの解析において、ガラスの厚みを換算する際にランベルト・ベールの法則が利用されます。
参考)https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-86959.pdf

例えば、試験片として3mm厚のガラスでデータを取得し、実際の設計で使う6mm厚や10mm厚のガラスの性能を推計する場合、単純な倍数計算ではなく、この法則に基づいた指数関数的な換算を行うことで、正確な熱貫流率や日射取得率を算出しています。もしこの計算を誤ると、大規模ビルの空調負荷計算に大きな誤差が生じる可能性があります。
2. 建設排水の管理と濁度測定
建設現場、特にトンネル工事やダム工事では、大量の濁水が発生します。この濁水の処理状況を管理するために「濁度計」が使われますが、光学式の濁度計はランベルト・ベールの法則そのものを応用しています。
水中に浮遊する土粒子(濃度 ccc)によって光が遮られる(吸光度 AAA が上がる)原理を利用し、透過光の強さから瞬時にSS(浮遊物質量)濃度を換算しています。現場監督が手にする水質チェッカーの中では、まさにこの数式が計算されているのです。
3. コンクリートの中性化診断(フェノールフタレイン法)
厳密には発色反応の有無を見るものですが、指示薬の呈色の濃さはpH依存および指示薬濃度に依存します。研究レベルの劣化診断では、採取したコンクリート微粉末を溶解させ、その吸光度を測定することで、中性化の進行度や塩化物イオン濃度を定量分析する手法(吸光光度法)がとられることがあります。ここでも「色の濃さ=特定の化学物質の濃度」というベールの法則が基礎となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/70/2/70_90/_pdf

参考:機器分析実験・入門編としての吸光光度法(コンクリート成分分析等にも通じる基礎測定技術)

ランベルト・ベールの法則の数式の限界と測定の注意点

万能に見えるランベルト・ベールの法則ですが、建築現場や実験室で実際に測定を行うと、計算値と実測値がズレる(法則が成立しない)ケースがあります。プロとして知っておくべき「法則の限界」について解説します。
1. 高濃度におけるズレ
この法則が厳密に成立するのは、実は「希薄溶液(濃度が薄い状態)」に限られます。濃度が高くなりすぎると、溶質分子同士が近づきすぎて相互作用(会合や解離)を起こし、吸光特性(ϵ\epsilonϵ)そのものが変化してしまうため、グラフが直線から外れてきます。
参考)人気講師ノート15 ランベルト・ベールの法則の適用限界につい…

建築塗料で言えば、顔料濃度を極端に上げても、ある点を超えると隠蔽力が頭打ちになったり、色味が変わって見えたりする現象に関連します。
2. 散乱による影響(迷光・散乱光)
ランベルト・ベールの法則は、光が「吸収」によって減衰することを前提としています。しかし、建築現場で扱う「すりガラス」や「乳白色の樹脂板」、「懸濁した泥水」では、光は吸収されるだけでなく、粒子の表面で散乱(あちこちに跳ね返る)します。
参考)光の吸収を求める式はどのようなものですか?

散乱した光が検出器に入らなかったり、逆に迷い込んだりすると、見かけ上の吸光度が計算値と合わなくなります。これを補正するために、生体計測や不透明体の計測では「修正ランベルト・ベール則(Modified Lambert-Beer law)」という、光の散乱距離を考慮した補正項を加えた式が用いられることがあります。
参考)https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/kihou-vol50no3.4/3-7.pdf

3. 光源の単色性
数式は「単一の波長の光(単色光)」に対して成立します。太陽光のような連続したスペクトルを持つ光(白色光)で単純に計算しようとすると、波長ごとに吸光係数 ϵ\epsilonϵ が異なるため、全体としての減衰は単純な指数関数にはなりません。遮熱フィルムのカタログスペックで「可視光線透過率」という積分値(平均値のようなもの)が使われるのは、この波長依存性を実用的にまとめるためです。
参考:薬学生必見!ランバート・ベールの法則をわかりやすく解説(法則が成り立たない高濃度や迷光のケース詳説)

 

 


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