
熱貫流率(U値)とは、建物の室内と室外に1度の温度差があるときに、単位面積あたりを通過する熱量を表す指標です。単位はW/(㎡・K)で表され、この数値が大きいほど外皮から逃げる熱量が多く、小さければ断熱性能が高いことを意味します。建築業界では省エネルギー基準の適否判断や、外皮平均熱貫流率(UA値)の算出に不可欠な数値として活用されています。
参考)部位別熱貫流率表
熱貫流率は建物の快適性とエネルギー効率を左右する重要な指標です。適切な断熱性能を確保することで、冬季の暖房負荷削減や夏季の冷房負荷低減が実現でき、結果として光熱費の削減とCO2排出量の抑制につながります。特に外壁・屋根・床といった外皮部位と開口部の熱貫流率の管理が、省エネルギー住宅実現の鍵となります。
参考)住宅の熱貫流率とは?初心者でもできる計算方法を省エネ判定員が…
建築基準法や省エネ基準では、地域ごとに外皮平均熱貫流率の基準値が定められており、新築住宅や大規模改修時にはこれらの基準を満たす必要があります。したがって、各部位の熱貫流率を正確に把握し、適切な断熱材選定や施工計画を立てることが、建築業従事者にとって必須のスキルとなっています。
参考)熱貫流率(U値)の簡単な説明と各建材のU値一覧
木造住宅の部位別熱貫流率一覧
部位ごとの熱貫流率は断熱材の種類と厚さによって大きく変動します。以下に木造軸組構法における代表的な数値を示します。
屋根・天井の熱貫流率
断熱材種類 | 厚さ(mm) | 密度 | 熱貫流率[W/(㎡・K)] |
---|---|---|---|
グラスウール高性能16K | 90 | 16kg/㎥ | 0.476 |
グラスウール高性能16K | 100 | 16kg/㎥ | 0.434 |
グラスウール高性能16K | 105 | 16kg/㎥ | 0.415 |
グラスウール10K | 100 | 10kg/㎥ | 0.450 |
グラスウール高性能16K | 155 | 16kg/㎥ | 0.232 |
ブローグラスウール18K | 300 | 18kg/㎥ | 0.167 |
参考)https://www.isover.co.jp/sites/mac3.isover.co.jp/files/migration-files/bui_hayamihyo.pdf
外壁の熱貫流率(構造用面材なし)
断熱材種類 | 厚さ(mm) | 密度 | 熱貫流率[W/(㎡・K)] |
---|---|---|---|
グラスウール高性能16K | 90 | 16kg/㎥ | 0.479 |
グラスウール高性能16K | 100 | 16kg/㎥ | 0.439 |
グラスウール11K | 105 | 11kg/㎥ | 0.484 |
グラスウール高性能16K | 120 | 16kg/㎥ | 0.375 |
グラスウール高性能24K | 120 | 24kg/㎥ | 0.363 |
床の熱貫流率
根太工法で根太間に断熱材を充填した場合、グラスウール32Kで厚さ80mmの場合は熱貫流率0.500W/(㎡・K)となります。根太間と土台大引間の両方に断熱する二層施工では、42mm+100mmの組み合わせで0.281W/(㎡・K)まで性能が向上します。
開口部の熱貫流率
窓やドアなどの開口部は建物全体の熱損失に大きく影響します。
参考)窓(サッシ)の熱貫流率(断熱性能)と日射熱取得率(遮熱性能)…
建具・ガラス仕様 | 熱貫流率[W/(㎡・K)] |
---|---|
木製またはプラスチック製+Low-E三層複層ガラス(日射取得型) | 1.60 |
木製またはプラスチック製+Low-E複層ガラス12mm以上(日射取得型) | 1.90 |
木製またはプラスチック製+複層ガラス10mm以上 | 2.91 |
金属製熱遮断構造+Low-E複層ガラス10mm以上(日射取得型) | 2.91 |
金属製+Low-E複層ガラス10mm以上(日射取得型) | 3.49 |
木製またはプラスチック製+単板ガラス | 6.51 |
参考)https://www.jsma.or.jp/Portals/0/images/useful/technology/20-0501.pdf
これらの数値は標準的な層構成に基づいた計算結果であり、実際の施工では気密性や施工精度によって性能が変動する可能性があります。
参考)内窓と熱貫流率:快適な住まいを守るために知っておきたいポイン…
熱貫流率の計算は、各材料の熱抵抗値を積み上げ、その逆数を求めることで算出できます。実務で必要となる具体的な計算手順を以下に解説します。
参考)https://www.shikou-k.co.jp/letter/vol187/vol187.pdf
基本計算式
熱貫流率U = 1 ÷ 熱貫流抵抗
熱貫流抵抗 = 室内側表面熱伝達抵抗 + 各材料の熱抵抗値の合計 + 外気側表面熱伝達抵抗
計算手順の実例
外壁(木造軸組構法)の熱貫流率計算例を示します。
📐 計算条件
計算プロセス
1️⃣ 各材料の熱抵抗値を算出
2️⃣ 表面熱伝達抵抗を加算
3️⃣ 熱貫流抵抗を算出
0.11 + 0.057 + 2.368 + 0.056 + 0.11 = 2.701㎡・K/W
4️⃣ 熱貫流率を算出
U = 1 ÷ 2.701 = 0.370 W/(㎡・K)
充填断熱における面積比率の考慮
木造住宅では柱や梁などの構造材が熱橋となるため、断熱部と熱橋部を分けて計算し、面積比率で加重平均する必要があります。木造軸組構法の外壁では、断熱面積比率0.83、熱橋面積比率0.17として計算します。これにより、上記の例では部位全体の熱貫流率が0.464W/(㎡・K)となります。
計算時の注意点
熱貫流率計算では温度差の設定と面積測定の正確性が重要です。特に寒冷地では実際の使用条件における温度差を考慮する必要があります。また、開口部や枠のサイズ、形状が影響するため、すべての要素を正確に測定し計算に反映させることが求められます。施工品質や気密性の確保も熱貫流率に影響するため、設計段階だけでなく施工管理においても注意が必要です。
日本の省エネ基準では、気候条件に応じて全国を1~8の地域区分に分類し、各地域で求められる外皮平均熱貫流率(UA値)の基準値を定めています。これにより、地域特性に適した断熱性能を確保することが可能となります。
参考)[H28年基準] 地域区分別の断熱等性能等級
地域区分と基準値の概要
地域区分 | 主な地域 | 外皮平均熱貫流率基準(UA値)[W/(㎡・K)] |
---|---|---|
1~2 | 主に北海道・東北の一部 | 0.46 |
3 | 主に東北地方と内陸の寒い地域 | 0.56 |
4 | 内陸地域 | 0.75 |
5~7 | 主に関東以南 | 0.87 |
地域区分1~2には北海道の夕張市、士別市、名寄市などが含まれ、最も厳しい断熱性能が求められます。一方、温暖な地域では断熱よりも日射遮蔽が重要となるため、8地域(蒸暑地)では外皮の断熱性能基準が異なる考え方で設定されています。
参考)https://www.isover.co.jp/region-by-climate
部位別熱貫流率の地域基準
木造住宅における部位別の熱貫流率基準値(地域区分1~2の例)は以下の通りです。
参考)https://www.jfe-rockfiber.co.jp/eco/danetsu/vol4/05.html
📋 部位別基準値
実務での活用ポイント
省エネ設計では、まず建設地の地域区分を確認し、該当する基準値を把握することが第一歩です。その上で、各部位の熱貫流率を計算し、基準値を満たす断熱材の種類と厚さを選定します。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001500182.pdf
断熱性能に優れた熱抵抗値の大きい断熱材を用いることが基本ですが、間仕切壁などに気流止めを設置することも重要です。また、地域に応じた日射対応と断熱サッシ、ガラスを選択することで、開口部からの熱損失を最小限に抑えることができます。
参考)https://www.pgm.co.jp/data/pdf/201706-2syo.pdf
近年では、省エネ基準を上回る高断熱住宅の需要が高まっており、地域区分5以上でもUA値0.5未満を目標とする事例や、寒冷地でUA値0.3未満を実現する事例も増えています。このような高性能住宅では、ヒートショックのリスク低減や光熱費削減効果が期待できます。
建築現場で熱貫流率を効果的に低減するには、適切な断熱材の選定と確実な施工が不可欠です。ここでは実務で押さえるべき重要なポイントを解説します。
参考)https://www2.kenzai.kaneka.co.jp/kanelite/images/catalog/cat002.pdf
断熱材の種類と特性比較
代表的な断熱材の熱伝導率を比較すると、性能差が明確になります。
🔬 主要断熱材の熱伝導率
熱伝導率が小さいほど熱を伝えにくく、同じ厚さでも高い断熱性能を発揮します。ウレタンフォームは最も性能が高く、薄い厚さで高い断熱効果が得られるため、スペースに制約がある改修工事などで有効です。一方、グラスウールやロックウールなどの繊維系断熱材は、コストパフォーマンスに優れ、施工性も良好なため新築住宅で広く採用されています。
施工時の重要注意点
断熱材の性能を最大限発揮させるには、適切な施工が欠かせません。以下の点に特に注意が必要です。
⚠️ 気密性の確保
繊維系断熱材では防湿層を設置し、せっこうボード等で押さえることが必須です。防湿層をせっこうボードで押さえると壁体内を流れる空気が止まり、断熱材は本来の性能を発揮します。逆に、気密性が確保されていない場合、意図した熱貫流率が得られないだけでなく、壁体内結露のリスクも高まります。
⚠️ 熱橋対策
外張断熱や付加断熱工法では、下地材などが断熱材を貫通する熱橋部を含む場合、外気側の断熱材の熱抵抗値に0.9を乗じて計算する必要があります。鉄骨造では柱が熱橋となって多くの熱を奪うため、特に注意が必要です。
⚠️ 施工品質管理
断熱材の隙間や圧縮は性能低下の主要因です。充填断熱では断熱材を隙間なく充填し、圧縮しないよう適切な厚さを選定します。また、間仕切壁などに気流止めを設置することで、壁体内の空気移動を防ぎ、断熱性能を維持できます。
開口部の断熱強化
窓やドアなどの開口部は建物全体の熱損失に大きく影響するため、地域に応じた断熱サッシとガラスの選択が重要です。最近の出荷数では「樹脂とアルミの複合サッシ+複層ガラス(熱貫流率2.33)」が最多ですが、より高性能な「樹脂サッシ+Low-E複層ガラス」を選択することで、開口部の熱損失を大幅に削減できます。
参考)高断熱住宅で重要な窓えらびのポイント
国土交通省国立研究開発法人建築研究所「第三節 熱貫流率及び線熱貫流率」
熱貫流率計算の公式基準を定めた技術資料で、住宅の外皮性能計算に必要な詳細な計算方法と基準値が掲載されています。
マグ・イゾベール株式会社「部位の熱貫流率早見表」
部位別・断熱材種類別の熱貫流率が一覧表形式でまとめられており、実務での断熱材選定や性能確認に便利な参考資料です。