

製缶図面の溶接記号は、基本的に「矢」「基線」「尾」と、そこに載る「基本記号」「補助記号」「寸法」で構成されます。溶接協会の解説でも、基線・矢・尾の説明線に対して、開先形状の基本記号や表面形状・仕上げ・非破壊試験などの補助記号を必要に応じて付与すると整理されています。
まず、基線は「基本記号を配置するための土台」で、通常は水平に描きます(図面群でルールを統一するのが前提)。矢は溶接箇所を指示し、必要に応じて矢を折って「開先を取る側」を示す運用があり、特にレ形・J形などで重要になります。
尾は必須ではなく、省略できる一方、溶接方法・材料・姿勢・品質等級・WPS参照など「追加情報」を入れる場所として使えます。図面が混み合う場合は注記や別資料に逃がすのが望ましい、と規格側でも触れられています。
参考:溶接記号の構成要素(矢・基線・尾、基本記号・補助記号の位置関係)
https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0010020090
現場で最も事故りやすいのが「どちら側を溶接するのか」の取り違えです。JIS Z 3021では、矢の側は矢尻が指している側、反対側はその反対で、同じ継手を構成する“面の区別”として定義されています。
そして、矢の側を溶接する場合は基本記号を基線の下側に、反対側を溶接する場合は基線の上側に配置します。溶接協会のQ&Aでも同様に説明され、補助記号も同じ側(上か下)に合わせる運用になっています。
意外と見落とされるのは「プラグ・スロット・スポット・シーム等は矢の側/反対側の概念が実質的に効きにくいケースがある」点です。規格では、溶接が部材の接触面になされる場合、基本記号は基線中央に置かれ、矢の側/反対側とは無関係とされています。
参考:JIS Z 3021の用語定義と、矢の側/反対側の規定
https://kikakurui.com/z3/Z3021-2016-01.html
製缶で頻出の「すみ肉溶接」は、寸法の書き方を間違えると強度不足や過剰溶接に直結します。JIS Z 3021では、すみ肉溶接の寸法は基本的に脚長で示し、基本記号の左側に記載すると定めています。
一方で、公称のど厚で示すこともでき、その場合は寸法の前に「a」を付ける扱いです(例:a7 のように“のど厚指示”だと分かるようにする)。規格の用語定義では、公称のど厚aは設計上用いる最大内接二等辺三角形の高さとして説明されています。
また、深溶込みすみ肉溶接は、溶接深さを考慮した「深溶込みのど厚 ds」という別概念で扱われ、所要寸法の頭にdsを付けて公称のど厚の前に記載するルールがあります。ここまで読むと、現場で「脚長と、のど厚と、深溶込み」を混同してしまう理由が見えてきます。
製缶図面の記号は、基本記号だけでなく補助記号が“品質の指示”として効いてきます。JIS Z 3021では補助記号として、全周溶接、二点間溶接、現場溶接、さらに仕上げ方法(チッピングC、グラインダG、切削M、研磨P)などが示されています。
全周溶接は、矢と基線の交点に全周記号を付け、継手を回る連続溶接を示すものですが、使ってはいけない条件も明確です。たとえば「始点と終点が同じでない(連続でない)」「溶接種類が異なる」「寸法が異なる」場合は全周記号ではなく、別々の溶接記号で指示しなければならないと規格に書かれています。
現場溶接は、矢と基線の交点に現場溶接記号を加えることで示し、記号の向き(基線に直角・上方・右向き)まで定められています。設計側が「工場か現場か」を曖昧にすると、段取り・歪み管理・検査計画がまとめて崩れるため、補助記号の理解は図面読解の“実務力”に直結します。
検索上位の記事では「記号一覧」「読み方」に寄りがちですが、実務では“どこまで図面で指示し、どこから別文書に逃がすか”がミス低減の鍵です。JIS Z 3021には、図面が過密にならないよう備考は図面注記または別の設計図書に記載するのがよい、同じ補足指示を繰り返すことは避け、共通注記を設けるべき、といった運用上の示唆が含まれています。
ここを逆手に取ると、製缶図面は「溶接記号で最低限の必須情報を固定し、変動しやすい条件(手順、材料ロット、検査範囲など)は尾や注記、WPS参照に寄せる」設計ができます。尾に情報を列挙するときは斜線(/)で区切る、といった細かなルールも規格に書かれており、属人運用を減らす助けになります。
さらに、任意形状開先溶接記号(所要品質だけを規定し、開先・溶接法は施工者が品質に合致するよう決められる)という考え方もあり、工場ごとにWPSを変えても図面を書き直さずに済む場面がある、と規格は説明しています。これを知っていると「図面で縛りすぎて現場を詰ませる」失敗を避けやすくなります。