

製造委託とは、発注側が「規格・品質・形状・デザイン・ブランドなど」を指定し、他社に物品の製造や加工を委託する取引を指します。公正取引委員会のガイドブックでは、製造委託の対象は「動産としての物品」であり、家屋などの建築物は対象に含まれない点が明記されています。
また「物品」には、完成品だけでなく、半製品・部品・附属品・原材料、さらに製造に用いる金型なども含まれます。下請法上は契約名が「請負」か「売買」かよりも、仕様を指定して外注した実態(委託)が重視されるため、発注書の書き方だけ整えても安心できません。
建築業の現場でありがちな誤解は、「建設工事=全部下請法」と思い込むことです。実際には、建設工事の下請負は建設業法の領域が中心で、下請法の“役務提供委託”には「建設工事は含まれない」と整理されています。
参考)下請法が適用される「製造委託」とはどのような取引か?
一方で、建築関連でも、例えば特注金物や建材部品を仕様指定して作らせる、専用治具や金型を作らせる、といった局面は製造委託に寄るため、「工事」と「物品製作」を分けて管理する発想が有効です。
参考)下請法。対象となる取引。製造委託とは
参考:下請法の「製造委託」や「物品」「金型」など対象範囲の考え方(ガイドブックの該当箇所)
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/pointkaisetsu.pdf
下請法の適用は、まず「資本金区分(または規模要件)」と「取引の内容(製造委託など)」の両方で決まると整理されています。つまり、どれだけ“外注っぽい”取引でも、資本金区分が合わなければ下請法の枠外になる一方、資本金区分が当てはまると一気に義務が発生します。
公正取引委員会のガイドブックでは、対象となる取引類型として「製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託」が示され、さらに製造委託にはいくつかのタイプ(類型)があることが図解されています。
特に見落としやすいのが「自社で使用・消費する物品」を社内で製造している場合に、その部品等を外注したケースが製造委託に該当し得る、という整理です。ガイドブックでは、社内利用目的の物品でも、社内で“業として製造”している状況なら、外注が製造委託(製造委託その4)になり得る例が示されています。
建築系の会社でも、例えば仮設材・治具・施工用の専用パーツを社内製作している部署があり、繁忙で外注に振るようなケースは、契約担当が「購買の小口」として扱ってしまいがちなので注意が必要です。
意外な落とし穴として「トンネル会社規制」の考え方があります。ガイドブックは、親会社が子会社を介して実質的に下請に再委託させるようなスキームの場合、一定要件のもとで子会社が“みなし親事業者”となり得る点を説明しています。
建築の調達でも、資材会社・工務店・グループ会社を挟む取引設計はよくあるため、「誰が実質の発注者か」「再委託比率が高いか」をコンプラ視点で点検しておくと事故を減らせます。
下請法は、親事業者(委託側)に対し、発注内容を「書面にして交付」することを義務付けています。ガイドブックには、発注書面に記載すべき事項(当事者名、委託日、給付内容、受領期日、検査期日、下請代金額、支払期日など)が列挙され、発注したら直ちに交付する必要があるとされています。
また、発注時点で金額を確定できない場合でも、一定の要件を満たす「算定方法」での記載が認められ、金額確定後は速やかに通知する運用が示されています。
支払期日については「受領日から60日以内で、できる限り短い期間内で定める」ルールが明記されており、社内検査の遅れを理由に支払いを引き延ばすことは認められません。ガイドブックでも、社内検査などを理由に支払日を遅らせることは不可と明確に書かれています。
さらに、支払期日に遅れた場合、受領日から60日経過後は遅延利息(年率14.6%)の支払い義務がある点もガイドブックに記載されています。
建築実務の観点では、次のような運用が“支払遅延”に発展しやすいです。
参考:発注書面・支払期日(60日)・禁止行為の具体がまとまった公的資料(実務チェックに便利)
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/pointkaisetsu.pdf
下請法は、親事業者による濫用を防ぐため、買いたたき、減額、支払遅延、受領拒否、返品、不当なやり直し、購入・利用強制などの禁止行為を具体的に定めています。ガイドブックは、たとえ当事者間で合意があっても「協賛金・値引き等の名目で発注後に差し引く」ことは減額として違反になり得る、と明確に注意喚起しています。
また、返品についても「下請事業者に責任がないのに、受領後に返品する」ことが不当返品とされ、検査委任の有無や受領後6か月超の返品が問題になる旨の注意点が示されています。
製造委託で現場が踏みやすいのは、次の“つもり違反”です。
そして、建築系の調達では「物品の製作」と「現場施工(役務)」が同じ発注書に混ざることがあります。ここで“施工の遅延ペナルティを、物品代金から相殺する”設計をすると、下請法の減額に見える形になりやすいので、契約・請求の分離(物品/施工で伝票を分ける等)が予防策として効きます。
参考:禁止行為(受領拒否・返品・減額など)の具体例が大量に載っている運用基準(実務で「このケースは?」を引ける)
https://www.jftc.go.jp/toriteki/legislation/unyou.html
検索上位の解説は法定義や禁止行為の列挙が中心になりがちですが、建築会社の実務では「購買の運用」と「現場の指示系統」をどう繋ぐかが事故の分かれ目です。ガイドブックでも、口頭発注によるトラブル防止のため発注書面交付が義務とされ、さらに取引記録を作成・保存する義務が示されています。
つまり、現場での軽い一言(追加工、色替え、納期前倒し)が、書面・金額・支払期日の整合を崩し、結果として「減額」「やり直し」「支払遅延」などの論点を同時多発させます。
建築系の“実装しやすい”対策を、現場で回る粒度に落とすと次の通りです。
さらに意外と効くのが、購買・現場・経理で「同じ言葉を同じ意味で使う」取り決めです。たとえば「納品」「受領」「検収」「出来高」「引渡し」を混同すると、支払期日管理が崩れやすく、ガイドブックが否定する“社内検査の遅れを理由に支払を遅らせる”状態に入りやすくなります。
法務だけでなく、現場の工程会議の議事録やチャットの指示も“取引条件の変更ログ”になり得るので、軽量でも良いので保全ルールを決めておくと、後日の説明コストが一気に下がります。