セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領と適用工法の解説

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領と適用工法の解説

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セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領について

六価クロム溶出試験の基本知識
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試験の目的

セメント系材料を使用した改良土から六価クロムが溶出しないことを確認し、環境汚染を防止するための試験です。

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法的根拠

平成12年3月24日建設省技調発第48号および平成13年4月20日国官技第16号による通達に基づいています。

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判定基準

土壌環境基準(0.05mg/L以下)を満たすことが求められます。

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験の適用範囲と対象工法

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領(案)は、平成12年3月24日に建設省技調発第48号建設大臣官房技術審議官通達として制定され、その後平成13年4月20日に国官技第16号国土交通省大臣官房技術調査課長通達によって一部変更がなされました。この要領は、セメント及びセメント系固化材を原位置またはプラントにおいて土と混合する改良土の六価クロム溶出試験に適用されます。

 

本実施要領における「セメント及びセメント系固化材」とは、セメントを含有成分とする固化材で、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、セメント系固化材、石灰系固化材をいい、これに添加剤を加えたものも含まれます。

 

対象となる工法は以下のようなものがあります。

  1. 深層混合処理工法
    • 粉体噴射撹拌
    • 高圧噴射撹拌
    • スラリー撹拌 等
  2. 薬液注入による地盤改良工
  3. 表層混合処理工法
  4. 路床安定処理工
  5. セメント安定処理工法による舗装工
  6. 地中連続壁工による仮設工
  7. 盛土、埋戻、土地造成工法

これらの工法は、地表からかなりの深さまでの区間をセメント及びセメント系固化材と原地盤土とを強制的に攪拌混合し、強固な改良地盤を形成する工法や、地盤中に薬液(セメント系)を注入して透水性の減少や原地盤強度を増大させる工法などが含まれています。

 

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の試験方法の種類と実施タイミング

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験は、主に3つの試験方法で構成されています。それぞれの試験方法と実施タイミングについて詳しく解説します。

 

【試験方法1:配合設計の段階で実施する環境庁告示46号溶出試験】
この試験は、固化材が適切かどうかを確認することを目的に行われます。室内配合試験時に実施し、現場添加量に最も近い配合の供試体(材齢7日が基本)を使用します。各土層または各土質ごとに試験を実施する必要があります。

 

【試験方法2:施工後に実施する環境庁告示46号溶出試験】
改良された地盤からサンプリングした試料を用い、実際に施工された改良土からの六価クロムの溶出量を確認する目的で行われます。地盤改良施工後に実施し、材齢28日の試料を基本とします。

 

【試験方法3:施工後に実施するタンクリーチング試験
タンクリーチング試験は、塊状にサンプリングした試料を溶媒水中に静置して六価クロム溶出量を測定する方法です。この試験は、改良土量が5,000m³程度以上または改良体本数が500本程度以上の改良工事のみを対象に、試験方法2で溶出量が最も高かった箇所について行います。

 

これらの試験方法のフローを以下にまとめます。

  1. まず配合設計段階で試験方法1を実施
  2. 試験方法1で六価クロム溶出量が土壌環境基準(0.05mg/L)を超えなかった場合
    • 通常の土:試験方法2・3を省略可能
    • 火山灰質粘性土:試験方法1の結果にかかわらず試験方法2・3を実施
  3. 施工後に試験方法2を実施
  4. 大規模工事で、試験方法2で溶出量が高かった箇所について試験方法3を実施

六価クロム溶出試験における環境庁告示46号の試験手順と判定基準

環境庁告示46号溶出試験(試験方法1・2)は、土塊・団粒を粗砕した2mm以下の土壌を用いて6時間連続振とうした後に、六価クロム溶出量を測定する方法です。この試験の具体的な手順と判定基準について解説します。

 

【試験の手順】

  1. 試料の準備
    • 土塊・団粒を粗砕し、2mm以下の土壌に調整
    • 試料量は約400g必要
  2. 溶媒の調整
    • 試料と溶媒の比率を1:10に設定
    • 溶媒には純水を使用し、約4Lを準備
  3. 溶出操作
    • 試料を溶媒と混合し、6時間連続して振とう
    • 振とう後、pHを5.8〜6.3の範囲に調整
  4. ろ過・分析
    • 振とう後の液をろ過(0.45μmのメンブランフィルター使用)
    • ろ液中の六価クロム濃度を分析

【判定基準】
六価クロム濃度が0.05mg/L以下であることが求められます。この基準値は土壌環境基準に基づいており、安全性を確保するための重要な指標となっています。

 

【分析方法】
六価クロムの分析にはJIS K 0102-3 24.3.5に基づく方法が用いられます。この方法では、ジフェニルカルバジドによる吸光光度法が一般的に採用されています。

 

検体管理やデータ処理は自動化されているケースが多く、信頼性向上と迅速処理の両立が図られています。専門機関では、試料到着後3日程度で濃度計量証明書を発行する体制が整っており、建設工期の短縮に貢献しています。

 

セメント及びセメント系固化材における火山灰質粘性土の特別な取り扱い

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験において、火山灰質粘性土は特別な取り扱いが必要とされています。通常、試験方法1で六価クロムの溶出量が土壌環境基準(0.05mg/L)を超えなかった場合は、試験方法2および3を省略することができますが、火山灰質粘性土を改良する場合は例外となります。

 

火山灰質粘性土とは、具体的には赤ぼく、関東ローム、鹿沼土などを指します。これらの土質は、通常の土と比較して特殊な性質を持っており、セメント系固化材との反応性も異なることが知られています。

 

【火山灰質粘性土に特別な取り扱いが必要な理由】
火山灰質粘性土が特別扱いされる理由としては、以下のような要因が考えられます。

  1. 有機物含有量の影響
    • 火山灰質粘性土は一般に有機物を多く含んでおり、これがセメント系固化材との化学反応に影響を与える可能性があります。
  2. 特殊な鉱物組成
    • 火山灰質粘性土に含まれるアロフェンやイモゴライトなどの非晶質粘土鉱物は、一般的な粘土鉱物とは異なる性質を持ち、六価クロムの溶出挙動に影響を与える可能性があります。
  3. pHの変化による影響
    • 火山灰質粘性土はpHが変動しやすく、これが六価クロムの溶出に影響する可能性があります。六価クロムの溶出はpHに大きく依存するため、時間経過とともに溶出特性が変化する可能性があります。

このような特性から、火山灰質粘性土を改良する場合は、試験方法1の結果にかかわらず、試験方法2(施工後の環境庁告示46号溶出試験)および試験方法3(タンクリーチング試験)も実施することが義務付けられています。

 

施工計画を立てる際には、対象となる土質が火山灰質粘性土かどうかを事前に確認し、それに応じた試験計画や工程を組む必要があります。火山灰質粘性土の場合は、追加の試験が必要となるため、工期やコストにも影響することを念頭に置くべきでしょう。

 

タンクリーチング試験の実施条件と改良土量5,000m³以上の大規模工事の対応

セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験における「タンクリーチング試験」(試験方法3)は、大規模な改良工事において重要な役割を果たします。この試験はどのような条件で実施され、どのような意味を持つのかを詳しく解説します。

 

【タンクリーチング試験の実施条件】
タンクリーチング試験は、以下の条件に該当する場合に実施が義務付けられています。

  1. 改良土量が5,000m³程度以上の工事
  2. 改良体本数が500本程度以上の改良工事

また、この試験は「試験方法2」(施工後の環境庁告示46号溶出試験)の結果、六価クロム溶出量が最も高かった箇所について実施します。つまり、最もリスクが高いと判断された箇所を選定して行う試験です。

 

【タンクリーチング試験の方法】
タンクリーチング試験は、塊状にサンプリングした試料を溶媒水中に静置して六価クロム溶出量を測定する方法です。具体的な手順は以下の通りです。

  1. 施工後の改良体から塊状の試料を採取
  2. 試料を溶媒水(純水)に浸漬
  3. 一定期間(通常28日間)静置
  4. 溶媒水中の六価クロム濃度を測定

環境庁告示46号溶出試験が粉砕した試料を用いるのに対し、タンクリーチング試験は実際の施工状態に近い塊状の試料を用いるため、より実際の環境に近い条件での溶出挙動を評価できるという特徴があります。

 

【大規模工事における対応】
改良土量が5,000m³以上または改良体本数が500本以上の大規模工事では、以下のような対応が必要となります。

  1. 試験計画の立案
    • 通常の試験方法1、2に加えて、試験方法3(タンクリーチング試験)まで含めた計画を立てる
    • 火山灰質粘性土の場合は、試験方法1の結果にかかわらず全ての試験を実施
  2. 採取箇所の選定
    • 試験方法2の結果を分析し、六価クロム溶出量が最も高かった箇所を特定
    • その箇所から塊状試料を再度採取
  3. 試験期間の確保
    • タンクリーチング試験は長期間(約5週間)を要するため、工程に余裕を持たせる
    • 施工後の品質確認までに十分な時間を確保
  4. 報告書の作成
    • 全ての試験結果をまとめた報告書を作成
    • 判定基準(0.05mg/L以下)を満たしているかを明確に示す

大規模工事では、これらの試験により環境安全性を確保することが重要です。六価クロムの溶出によって環境汚染が生じた場合、その対策には多大なコストと時間がかかるため、事前の試験と適切な対応が不可欠となります。

 

また、タンクリーチング試験の結果は、今後の同様の工事における参考データとしても活用されるため、正確な試験の実施と記録の保存が重要です。特に、同じ地域や同様の土質での工事においては、過去のデータが貴重な情報となります。

 

国土交通省のセメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領(案)の詳細資料
このように、タンクリーチング試験は大規模工事において環境への影響を正確に評価するための重要な試験であり、工期やコストに影響を与える要素でもあるため、計画段階からの十分な検討が必要です。特に、火山灰質粘性土を含む地域での大規模工事では、全ての試験が必須となるため、より慎重な対応が求められます。