
真空ガラスは、2枚のガラスの間に真空層を設けることで高い断熱性能を実現したガラス製品です。通常の窓ガラスと比較して、熱の移動を大幅に抑制する効果があります。建築現場では、省エネルギー性能の向上や結露防止対策として注目されている製品です。
真空ガラスの原理は魔法瓶(真空断熱)と同じで、真空層によって熱伝導を最小限に抑えます。一般的な複層ガラス(ペアガラス)が空気層を利用するのに対し、真空ガラスは空気そのものを排除することでより高い断熱効果を発揮します。
現在、日本市場で流通している主な真空ガラス製品には、日本板硝子(NSG)の「スペーシア」シリーズをはじめ、パナソニックの真空断熱ガラス、YKKAPの真空ガラス内窓などがあります。これらの製品は各メーカーの技術力を結集し、様々な建築用途に対応できるよう開発されています。
スペーシアは世界で初めて実用化された真空ガラスとして知られています。その構造は、2枚のガラスの間に0.2mm程度の真空層を設け、この真空層を維持するために微小なピラー(支柱)を等間隔に配置しています。
スペーシアの断熱原理は以下の3つの熱移動を抑制することにあります。
この構造により、スペーシアは一枚ガラスと比較して約4倍、一般的な複層ガラスと比較して約2倍の断熱性能を実現しています。熱貫流率(U値)は約1.1〜1.9W/㎡・Kと非常に優れた数値を示しています。
また、スペーシアの厚さはわずか6.2mmと薄型であるため、既存のサッシにも比較的容易に取り付けることができる点も大きな特徴です。リフォーム工事においてサッシ交換が不要になるケースが多く、工期短縮やコスト削減にもつながります。
現在市場で入手可能な主な真空ガラス製品を比較してみましょう。
製品名 | メーカー | 厚さ | 熱貫流率(U値) | 特徴 |
---|---|---|---|---|
スペーシア | 日本板硝子 | 6.2mm | 1.1〜1.9W/㎡・K | 世界初の実用真空ガラス、豊富なバリエーション |
スーパースペーシア | 日本板硝子 | 6.2mm | 0.7〜0.9W/㎡・K | スペーシアの高性能版、マイクロスペーサー間隔拡大 |
透明ピラー仕様真空断熱ガラス | パナソニック | 6mm前後 | 1.0〜1.5W/㎡・K | 透明ピラー採用で視認性向上 |
真空ガラス内窓 | YKKAP | - | - | 真空ガラスを内窓として活用したシステム |
スーパースペーシアは、従来のスペーシアからさらに性能を向上させた製品で、マイクロスペーサーの間隔を従来の20mmから28mmへ拡大することで熱伝導を半減し、断熱性能を約54%改善しています。可視光透過率も高く、トリプルガラス並みの断熱性能を半分以下の厚みで実現しています。
パナソニックの透明ピラー仕様真空断熱ガラスは、業界初となる透明ピラーを採用し、ガラス表面に突起物がないフラットな構造を実現。ピラーの存在感を抑えたノイズの少ない視界を提供しています。
YKKAPの真空ガラス内窓は、2024年4月に発売された比較的新しい製品で、真空ガラスの高い断熱性能を内窓システムに組み込んだ製品です。
真空ガラスの最大の利点の一つが結露防止効果です。一般的な窓ガラスでは、室内と室外の温度差が大きい冬季に室内側のガラス表面温度が下がり、空気中の水蒸気が結露として現れます。
真空ガラスは高い断熱性能により、室内側ガラス表面の温度低下を防ぎ、結露の発生を大幅に抑制します。これにより、窓周りの湿気によるカビやダニの発生を防ぎ、健康的な室内環境を維持することができます。
省エネ性能については、真空ガラスの導入により冷暖房効率が向上し、エネルギー消費を削減できます。具体的には、スペーシアの場合、一枚ガラスに比べて年間約22,000円(東京の場合)の冷暖房費削減効果があるとされています。
また、環境面での貢献も見逃せません。真空ガラスの導入により、一戸あたり約25本の「ぶなの木」を植樹したのに相当するCO2削減効果があるとされています。これは、建築物の環境性能評価やSDGs対応としても重要なポイントです。
真空ガラスの大きな特徴の一つが、その薄さを活かした既存サッシへの取り付けやすさです。スペーシアの場合、厚さがわずか6.2mmであるため、多くの既存サッシにそのまま取り付けることが可能です。
施工の基本的な流れは以下の通りです。
一般的な施工時間は約30分程度と比較的短時間で完了します。サッシの交換が不要なため、工期短縮やコスト削減にもつながります。
リフォーム市場においては、2023年から2024年にかけて「先進的窓リノベ」補助金制度において、真空ガラスを用いた窓改修がSSグレード(最高グレード)として認定され、大サイズの場合106,000円/1ヵ所という高額な補助金が適用されるようになりました。
YKKAPやLIXILなどの大手メーカーも真空ガラス用の枠(ノックダウン)を販売開始し、内窓設置でSSグレードが適用される仕組みが整備されています。これにより、真空ガラスを活用した窓リフォームの選択肢が広がっています。
真空ガラスの優れた性能を理解した上で、導入前に知っておくべきデメリットとその対策についても把握しておきましょう。
1. 導入コストの高さ
真空ガラスは一般的な複層ガラスと比較して価格が高い傾向にあります。スペーシアの場合、㎡単価で46,000円〜78,000円(税抜き)程度と、一般的な複層ガラスの2〜3倍の価格設定です。
対策: 補助金制度の活用や、最も効果が高い場所(北側の窓や結露が特に問題となる場所など)から優先的に導入するなど、計画的な導入を検討しましょう。
2. ピラー(支柱)の視認性
真空層を支えるピラーが格子状に配置されており、特定の角度や光の条件下では目立つことがあります。
対策: パナソニックの透明ピラー仕様真空断熱ガラスのような、ピラーの視認性を抑えた製品を選択する方法があります。また、カーテンやブラインドの使用方法を工夫することで視認性の問題を軽減できます。
3. 経年劣化による真空層の性能低下
真空シールの劣化により、長期間使用すると真空性能が低下する可能性があります。
対策: 信頼性の高いメーカー製品を選択し、保証期間を確認しておくことが重要です。多くのメーカーでは10年以上の長期保証を提供しています。
4. 施工技術の重要性
真空ガラスは取り扱いに注意が必要で、不適切な施工は性能低下や破損の原因となります。
対策: 真空ガラスの施工経験が豊富な専門業者に依頼することが重要です。メーカー認定の施工業者を選ぶことで、適切な施工品質を確保できます。
5. サイズや形状の制限
真空ガラスは製造技術の制約から、対応可能なサイズや形状に制限があります。
対策: 計画段階で製品の仕様を確認し、対応可能なサイズ・形状であるかを事前に確認しておくことが重要です。特殊な形状の窓には、他の高性能ガラス(Low-Eガラスなど)との組み合わせを検討します。
これらのデメリットを理解した上で導入を検討することで、後悔のない選択ができるでしょう。
真空ガラス技術は日々進化しており、最新の技術動向を把握することは建築施工従事者にとって重要です。
超高断熱真空ガラスの開発
日本板硝子の「スーパースペーシア」に代表される超高断熱真空ガラスは、従来の真空ガラスからさらに断熱性能を向上させています。マイクロスペーサーの間隔を拡大することで熱伝導を半減し、断熱性能を約54%改善。これにより、トリプルガラス並みの断熱性能を薄型で実現しています。
透明ピラー技術の進化
パナソニックが業界で初めて実用化に成功した透明ピラー仕様の真空断熱ガラスは、ピラーの視認性という真空ガラスの弱点を克服する技術です。「高強度断熱透明素材」の開発により、ピラーが透明な真空断熱ガラスの製造に成功しました。これにより、高断熱でありながら、ピラーの存在感を抑えたノイズの少ない視界を実現しています。
真空ガラス内窓システムの普及
YKKAPやLIXILといった大手建材メーカーが真空ガラス用の内窓システムを開発・販売開始したことで、真空ガラスの活用範囲が広がっています。2024年4月にYKKAPから発売された『真空ガラス内窓』は、既存住宅の窓性能向上に大きく貢献すると期待されています。
環境配慮型製品への進化
真空ガラスは省エネルギー性能だけでなく、製造過程や廃棄時の環境負荷低減にも注目が集まっています。製造時のCO2排出量削減や、リサイクル性の向上など、環境に配慮した製品開発が進められています。
将来性と市場予測
脱炭素社会の実現に向けた建築物の省エネルギー化要求の高まりから、真空ガラス市場は今後も拡大すると予測されています。特に既存建築物の窓改修市場において、真空ガラスの需要は増加傾向にあります。
また、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及に伴い、高性能な窓ガラスへのニーズは一層高まると考えられます。建築施工従事者としては、これらの最新技術動向を把握し、適切な提案ができるようにしておくことが重要です。
パナソニックの透明ピラー仕様真空断熱ガラスに関する技術情報
以上、真空ガラスの一覧と特徴について詳しく解説しました。建築施工従事者として、これらの情報を活用し、適切な窓ガラス選定と施工を行うことで、建築物の省エネルギー性能向上と快適な室内環境の実現に貢献できるでしょう。真空ガラス技術は今後も進化を続けるため、最新情報のアップデートを継続的に行うことをお勧めします。