塩ビ鋼板の塗装でブリード現象を防ぐプライマー選定とメンテナンス方法

塩ビ鋼板の塗装でブリード現象を防ぐプライマー選定とメンテナンス方法

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塩ビ鋼板の塗装

塩ビ鋼板の塗装完全ガイド
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ブリード現象の理解

可塑剤による塗膜の軟化と汚染メカニズムを把握し、適切な対策を実施

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専用プライマーの選定

塩ビ鋼板に対応した下塗り材の特性と使用方法を理解

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正しい施工手順

下地処理から仕上げまでの完全な作業工程を実践

塩ビ鋼板におけるブリード現象の原因と対策

塩ビ鋼板の塗装において最も重要な問題は「ブリード現象」です。この現象は、塩ビ鋼板に使用される軟質塩化ビニルに含まれる可塑剤が、通常の弱溶剤塗料と反応して塗膜表面に移行することで発生します。

 

ブリード現象の具体的な症状として、以下のようなものが見られます。

  • 塗膜表面の粘着性(ベタベタ感)
  • 汚れの付着しやすさ
  • 変色や劣化の促進
  • 塗膜の剥離リスク増大

この現象が発生する理由は、可塑剤の分子構造にあります。軟質塩化ビニルの柔軟性を保つために配合されている可塑剤は、一般的な塗料の溶剤と結合しやすく、塗膜の硬化を阻害します。特に交通量の多い地域では、排気ガスなどの汚染物質が粘着性のある塗膜表面に付着しやすくなるため、美観の悪化が顕著に現れます。

 

塩ビ鋼板の見分け方も重要なポイントです。多くの塩ビ鋼板には表面にエンボス調の凸凹模様があり、指で叩くと金属音がトタンより鈍く聞こえます。磁石がつかない場合もありますが、これは塩ビ被膜の厚さによって異なります。

 

塩ビ鋼板専用プライマーの特性と選定方法

ブリード現象を防ぐためには、塩ビ鋼板専用の下塗り材が必要不可欠です。代表的な製品として、エスケー化研の「ビニタイトプライマー」があります。

 

ビニタイトプライマーの主な特徴。

  • 特殊変性ウレタン樹脂を主成分とする2液硬化型塗料
  • 強溶剤(ウレタンシンナー)を使用
  • 可塑剤の表面移行を効果的に抑制
  • 標準塗坪:104~137m²/16.5kgセット
  • 設計価格:1,300円/m²

このプライマーの最大の特徴は、軟質塩ビの可塑剤表面移行を抑制する機能です。従来工法では塗装後数か月から塗膜表面がベタつき、汚れが付着したり変色したりすることが多く見られましたが、専用プライマーの使用により長期的な美観維持が可能になります。

 

水谷ペイントの「塩ビ鋼板NBプライマー」も同様の効果を持つ製品です。この製品は塩ビ鋼板にしっかりと密着し、可塑剤移行による塗膜の軟化・汚染を軽減します。

 

注意すべき点として、これらのプライマーは錆止め塗料ではありません。塗装下地に錆が見られる場合は、プライマーを塗布する前に強溶剤系の錆止め塗料を先行塗りする必要があります。

 

専用プライマーの作用機序について詳しく説明すると、プライマーは塩ビ材質との相性が良く、チョーキング層に含浸し溶解することで塩ビフィルムを復元します。そしてプライマーと強力に混合・固化することで、塩ビフィルム中の可塑剤移行を止める仕組みになっています。

 

塩ビ鋼板の正しい塗装手順と施工のポイント

塩ビ鋼板の塗装は、通常の金属塗装とは異なる特別な手順を必要とします。正しい施工手順を以下に示します。
1. 下地処理工程

  • 表面の汚れ、ゴミ、ホコリ、油脂類の除去
  • 新設の場合は表層部の可塑剤をシンナーで充分脱脂
  • 錆の発生がある場合は3種ケレンによる錆や死膜の除去
  • 清掃、水洗、乾燥処理

2. 下塗り工程

  • 塩ビ鋼板専用プライマーの調合(主剤と硬化剤)
  • 希釈率:10~20%(専用シンナー使用)
  • 塗装方法:ハケ・ローラー・エアレス
  • 塗付量:0.15~0.18kg/㎡/回
  • 可使時間:4時間以内(23℃)

3. 上塗り工程

  • 通常の弱溶剤2液型塗料の使用が可能
  • ウレタン、シリコン、フッ素、無機塗料などに対応
  • 塗装間隔:16時間以上7日以内(23℃)

特に重要なのは、下地処理の段階で可塑剤の脱脂処理を十分に行うことです。これを怠ると、プライマーの効果が十分に発揮されず、後にブリード現象が発生する可能性があります。

 

また、塩ビ鋼板の種類によっても対応が異なります。塩ビゾル鋼板の場合、表面に特有のしわ模様が確認でき、可塑剤を多量に含むため、より慎重な処理が必要です。

 

最近では、プライマー処理を必要としない直接塗装可能な塗料も開発されています。IPペイントの「IP軟質塩ビコートSi」は、塩ビ鋼板などの塩ビ素地に対してプライマー処理せずに軽い足付け処理だけで直接塗装可能で、軟質塩ビの可塑剤移行によるタックを防ぐことができます。

 

塩ビ鋼板のメンテナンス周期と劣化診断

塩ビ鋼板の耐用年数は一般的に15~20年といわれています。しかし、適切なメンテナンスを行うことで、この期間を延長することが可能です。

 

メンテナンス周期の目安。

  • 新築から15年後:初回メンテナンス
  • 以降10~15年間隔:定期メンテナンス
  • 劣化が進行している場合:早期対応が必要

劣化診断のチェックポイント。

  • チョーキング現象:表面の白亜化
  • 色あせ・変色:紫外線による退色
  • 塩ビ被膜の剥離:基材鋼板の露出
  • 錆の発生:露出部分の腐食進行
  • 汚れの付着:可塑剤移行による汚染

特に注意すべきは、塩ビ鋼板の被膜剥離です。耐候性が著しく低下すると、コーティングされている塩化ビニルが基材の鋼板から剥離してしまうことがあります。この場合、露出している鋼板下地に対する錆止め塗料の先行塗りが必要となります。

 

予防的メンテナンスとして、定期的な洗浄も効果的です。中性洗剤を使用した洗浄により、汚れの蓄積を防ぎ、塩ビ鋼板の美観を長期間維持できます。

 

メンテナンス費用の目安として、塩ビ鋼板用の下塗り塗料は通常の錆止め塗料より高額になります。施工単価は1㎡あたり880円(税込み)程度が相場となっています。

 

塩ビ鋼板塗装における品質管理と検査方法

塩ビ鋼板の塗装品質を確保するためには、各工程での適切な検査が不可欠です。この分野では、従来の金属塗装とは異なる独自の検査項目があります。

 

施工前検査項目:

  • 下地材質の確認(塩ビ鋼板の種類判定)
  • 可塑剤含有量の推定
  • 既存塗膜の密着状況
  • 錆発生箇所の特定
  • 表面汚染物質の確認

施工中検査項目:

  • プライマーの混合比率確認
  • 希釈率の測定
  • 塗膜厚の管理
  • 塗装間隔の記録
  • 環境条件(温度・湿度)の監視

施工後検査項目:

  • 密着性試験(碁盤目試験)
  • 可塑剤移行テスト(汚染性試験)
  • 塗膜硬度測定
  • 色差測定
  • 光沢度測定

特に重要なのは、可塑剤移行の評価試験です。塩ビ鋼板NBプライマーなどの専用プライマーは、屋外暴露6ヶ月後でも可塑剤移行による汚染が大幅に軽減されることが確認されています。

 

品質管理の新しい取り組みとして、赤外線サーモグラフィを使用した塗膜欠陥の早期発見も注目されています。この技術により、目視では確認困難な微細な塗膜不良を発見できるため、長期耐久性の向上に貢献しています。

 

また、塗装完了後の初期点検として、粘着テープを使用した簡易タック測定も有効です。塗膜表面にテープを貼り付けて剥がした際の感触により、ブリード現象の発生を早期に察知できます。

 

継続的な品質向上のためには、施工データの蓄積も重要です。環境条件、使用材料、施工方法と長期耐久性の関係を分析することで、より効果的な塗装仕様を確立できます。

 

これらの検査方法を体系的に実施することで、塩ビ鋼板塗装の品質向上と長期耐久性の確保が可能となり、顧客満足度の向上にもつながります。

 

塩ビ鋼板塗装における専用プライマーの効果について、日本塗装技術協会の研究報告。
https://www.sk-kaken.co.jp/product/undercoating-materials/vinytight-primer/
塩ビ鋼板の材質特性と塗装時の注意点に関する詳細情報。
https://www.hagisin-tosou.com/coating-method-of-pvc-steel-plate/