
大気汚染防止法は、私たちの生活環境を守るために制定された重要な法律です。特に建築業界に関わる重要な改正が2021年(令和3年)4月1日に施行されました。この改正では、石綿(アスベスト)による健康被害を防止するため、建築物の解体・改修工事における規制が大幅に強化されています。
改正の背景には、アスベストによる深刻な健康被害があります。アスベストは天然に存在する鉱物繊維で、耐久性や耐熱性に優れていることから、かつては建築材料として広く使用されていました。しかし、その繊維を吸い込むことで、肺がんや中皮腫などの重篤な疾患を引き起こすことが明らかになり、現在では製造・使用が禁止されています。
改正大気汚染防止法のポイントは以下の通りです。
これらの規制は、小規模な改修工事やリフォームにも適用されるため、建築業に携わるすべての事業者が理解しておく必要があります。
大気汚染防止法の改正により、建築物等の解体・改修工事を行う際には、石綿含有建材の使用の有無を調査する「事前調査」が義務付けられています。この調査は、工事の規模にかかわらず、すべての解体等工事で実施する必要があります。
事前調査は以下の3つの方法で行います。
特に重要なのは、2023年(令和5年)10月1日以降、建築物の解体等工事については、石綿に関する知識を有する有資格者による事前調査が義務化されたことです。該当する資格は以下の通りです。
また、一定規模以上の工事については、事前調査結果の行政機関への報告が義務付けられています。報告が必要な工事の規模は以下の通りです。
工事の種類 | 報告が必要な規模 |
---|---|
建築物の解体 | 対象の床面積の合計が80㎡以上 |
建築物の改造・補修 工作物の解体・改造・補修 |
請負金額の合計が100万円以上(消費税込) |
報告は原則として「石綿事前調査結果報告システム」を通じて行います。このシステムを利用できない場合は、紙様式による報告も可能です。
事前調査の結果は、作業開始前に書面で元請業者等から発注者に説明する必要があります。また、調査に関する記録を作成し、その写しを工事現場に備え置き、工事終了後3年間保存しなければなりません。
富山県のウェブサイト - 石綿(アスベスト)の事前調査について詳細な情報
大気汚染防止法では、石綿(アスベスト)を含む建築材料(特定建築材料)が使用されている建築物や工作物の解体、改造、補修を行う作業を「特定粉じん排出等作業」と定義し、厳格な作業基準を設けています。
特定粉じん排出等作業を行う際には、以下の基準を遵守する必要があります。
特に、レベル1(吹付け石綿)やレベル2(石綿含有断熱材、保温材、耐火被覆材)の除去作業については、事前に都道府県等に届出を行う必要があります。届出は作業開始の14日前までに行わなければなりません。
2021年(令和3年)の法改正により、レベル3(石綿含有成形板等)も規制対象となりました。レベル3の作業については届出は不要ですが、作業基準の遵守は義務付けられています。
作業基準を遵守せずに特定粉じん排出等作業を行った場合、作業基準適合命令や作業停止命令が出される可能性があります。さらに、これらの命令に従わない場合は、罰則(懲役または罰金)が科せられることがあります。
大津市のウェブサイト - 特定粉じん(石綿・アスベスト)排出等作業について詳細情報
大気汚染防止法の改正に伴い、石綿(アスベスト)に関する規制違反に対する罰則も強化されています。建築業者は法令遵守の責任を十分に理解し、適切な対応を取る必要があります。
主な違反と罰則は以下の通りです。
これらの罰則は個人だけでなく、法人に対しても適用されます。法人の場合は、より高額な罰金が科せられることがあります。
建築業者の責任は多岐にわたります。元請業者は、下請業者が適切に作業を行っているかを監督する責任があります。また、自主施工者(施主が自ら工事を行う場合)も同様に法令を遵守する必要があります。
法令違反を防ぐためには、以下の点に注意しましょう。
特に、リスクコミュニケーションの重要性が高まっています。環境省から「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」が公表されており、周辺住民や地方公共団体等との情報共有や意見交換が推奨されています。
建築業者が大気汚染防止法の改正に適切に対応するためのチェックリストを作成しました。このリストを活用して、法令遵守の状況を確認しましょう。
このチェックリストは基本的な項目を挙げていますが、実際の工事の規模や内容によって必要な対応は異なります。また、法令は改正される可能性があるため、常に最新の情報を確認することが重要です。
大気汚染防止法の改正は、段階的に実施されており、今後も建築業界に大きな影響を与え続けるでしょう。ここでは、今後の展望と建築業界への影響について考察します。
2023年10月から建築物の解体等工事については有資格者による事前調査が義務化されましたが、特定工作物については2026年(令和8年)1月1日から「工作物石綿事前調査者」の資格が必要になります。建築業者は、この新たな資格要件に対応するための準備を進める必要があります。
事前調査結果の報告は、「石綿事前調査結果報告システム」を通じて電子的に行うことが推奨されています。今後、建築業界全体でのデジタル化がさらに進み、石綿対策に関する情報管理もデジタル化されていくことが予想されます。
有資格者による事前調査の義務化に伴い、資格を持つ調査者の需要が高まっています。建築業界では、従業員の資格取得支援や教育訓練の強化が必要となるでしょう。また、石綿に関する知識を持つ作業員の育成も重要な課題です。
法令遵守のための調査費用、有資格者の人件費、適切な飛散防止対策の実施費用など、建築工事におけるコスト増加は避けられません。建築業者はこれらのコストを適切に見積もり、発注者に説明する必要があります。
石綿飛散防止技術や検査技術の向上が期待されます。より効率的で安全な除去方法や、より精度の高い検査方法が開発されることで、法令遵守のコストが将来的に低減する可能性もあります。
法令遵守のハードルが上がることで、小規模事業者の淘汰や業界再編が進む可能性があります。一方で、石綿対策に特化した専門業者の需要が高まり、新たなビジネスチャンスも生まれるでしょう。
石綿による健康被害は社会問題として認識されており、建築業者には高い社会的責任が求められています。法令遵守はもちろん、周辺住民や作業員の健康を守るための積極的な取り組みが評価される時代になっています。
建築業界は、これらの変化に適応しながら、安全で持続可能な事業運営を目指す必要があります。法令改正の動向を常に注視し、先を見据えた対応を取ることが重要です。